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常識を疑え!

ゴールデンウイークの旅行はなぜ減るのか?

香山リカ(医師)

 先ごろ旅行会社が発表した調査結果によると、このゴールデンウイーク期間中の旅行者数は、前年比27.6%減。減少の理由は言うまでもなく、東日本大震災の影響だが、数字で比較できる1990年以降、最大の減少率になったとのことだ。

 いわゆる「自粛ムード」には、このところ批判の声も出ている。「被災地以外の場所で自粛しても、かえって日本経済が沈滞するばかりで支援にはならない」「被災者たちも全国の人たちに自粛してほしい、などとは願っていない」。そんな中、「私たちにできることは、消費をして経済を活性化すること」と、積極的に外食や旅行に出かけよう、と呼びかけている人もいる。

 私も二度ほど被災地に出かけたが、「みんなに自粛してもらいたい」などと語る人はいなかった。逆に「東京や大阪がいつも通りにぎわっている映像をテレビで見ると、ほっとする」「みんな楽しく食べたり飲んだりしている、と思うと、私も早くそうなりたい、と元気が出る」という声は何度か聞いた。

 つまり、誰も自粛は望んでいない、ということだ。

 では、それにもかかわらず、なぜやりたいことを我慢し、楽しみにしていた旅行を取りやめてしまうのか。

 理由はふたつほどありそうだ。ひとつは、「ひと目を気にして」ということだ。自分は出かけたいと思っても、まわりの人たちがそれをどう思うかわからない。「国内でたいへんな思いをしている人がたくさんいるのに、よくフランスに美術なんか見に行く気になるねえ」などと顰蹙(ひんしゅく)を買うのではないか、と不安になってしまうのだ。実際にはそんな批判を口にする人などいないとわかっていても、自分が口火を切って旅行に出かけて目立つのは避けたい、と思っている人もいる。

 もしかすると、この人たちは最初からあまり旅行になど行きたくなかったのではないか。これまでも、「ゴールデンウイークはみんなレジャーに出かけるもの」と思っていて、まわりにあわせるために旅行の計画などを立てただけなのかもしれない。だから、「まわりが行かない」のだとしたら、とたんに自分が旅行に出る意味を感じられなくなって、すぐに取りやめてしまうのだ。

 そして、旅行中止のもうひとつの理由は、「とてもそんな気にはなれない」というものだ。毎日、たいへんな思いをしている被災者の話題をテレビなどで見ているうちに、自分もすっかり気が滅入って、長距離を移動してどこかに出かけたい、という意欲がすっかりなくなってしまった。そういう人も少なくないだろう。

 いずれにしても、多くの人が、「今年はいつものゴールデンウイークと違うのだ」という思いにとらわれている。しかし本来なら、いつもと違う春だったからこそ、このあたりでひととき、現実から目をそらし、ゆっくり休んだり気分転換をはかったりしてもよいのではないだろうか。

 これは、被災地以外の人ばかりではない。片づけなどに追われる被災地の人たちも、もし余裕があったら、数日でも自分のいる土地を離れ、ゆっくり温泉に入ったりおいしいものを食べたりしてもらいたい。「旅行が終わればまたつらい現実が」と恐れる必要はない。数日でも心身をリラックスさせることができれば、また現実に向き合うパワーがわいてくるものだ。

 もちろん、無理してあちこちに出かける必要はない。「まだそんな気にはなれない」という場合は、睡眠にあてるなどして休むのもよい。ただ、せっかくの連休なのだ。余力がある人はまわりに遠慮などしないで、なるべく楽しくすごすことをおすすめしたいと思う。

著者情報

医師

香山リカ

かやま りか

1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。

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