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常識を疑え!

子どもが被害者になる事件はなぜ影響が大きいのか?

香山リカ(医師)

 神戸市で小学1年生の女児が行方不明になった事件。発生から13日目に、女児は無残な遺体となって発見され、その後近所に住む男性が逮捕された。遺体が発見された雑木林は女児の自宅のすぐ近くで、県警がこれまで何度も捜索を行ってきた場所だという。男性は捜索の目がないときに遺体を遺棄したのだろうか。この原稿の執筆時点では、まだくわしいことはわかっていない。

 行方がわからなくなった当日、女児は下校後、祖母宅に寄ってから、約3時間にわたって学校周辺を中心にあちこちに移動していたことが目撃証言や防犯カメラの映像などでわかっている。いっしょに遊ぼうとしたのか同級生が住むマンションにも寄ったが、体調が悪いと聞いて別の場所に向かったという情報もあった。新聞やテレビニュースでは当初、「なぜ外を転々としていたのか」「なぜひとりで歩いていたのか」と女児の行動を“謎”ととらえ、いろいろな分析を加えていた。

 ただ、よく考えれば、かつては「放課後、小学1年の子どもが近所をひとりで歩き回る」ことじたいは、さほどめずらしいことではなかったはずだ。女児が移動していたのは、学校や自宅の周辺というなじみの地域である。私がその年齢の時は、学校が終わってランドセルを家に置いたら、誰とも約束していないのに外に飛び出して、「遊ぼう」と友だちの家を訪ねて「いないよ」と家族に言われたらまた別の家に向かったり、「誰か遊んでないかな」と公園やお寺の境内などをのぞいてみたり、という行動があたりまえだった。

 この事件には一見関係ないようだが、最近、玩具メーカー関係者から興味深い話を聞いた。着せ替え人形やおままごとなど、友だちといっしょに遊ぶタイプのおもちゃが売れなくなって来ているというのだ。その人の分析によると、下校後や夏休みなどに「○○ちゃん、遊ぼう」と友だちの家を訪ねて遊ぶ、という習慣が小学生でもなくなりつつあるからではないか、とのことだった。かわりに、子どもがそれぞれの自宅にいながら、オンラインで対戦したりアイテムを交換したりするようなゲームが遊びの主流になってきているというのだ。

 子どもの遊びは、「誰かの家や公園に集まって遊ぶ」から「バーチャル空間で出会って遊ぶ」にシフトしつつあるようだ。それは、面白いゲームがどんどん作られた結果というよりは、逆に親が子どもを外に遊びに出すのをためらうようになったため、「バーチャル空間での遊び」が盛んになってきたとも考えられるのではないだろうか。さらにその理由としては、「塾通い」もあれば「治安の悪化への心配」もあるだろう。

 おそらく今回の事件を受けて、全国の親たちはますます「子どもの外遊び」を制限するようになると考えられる。ほかの子どもと遊ぶ場合でも、あらかじめ親どうしが連絡を取って約束をし、子どもがひとりで歩くことがないよう、親が送迎するようになるかもしれない。ふらりと出かけて、友だちの家を訪ね歩いたり、路地や校庭をのぞいてみたり、という“無計画な時間”をすごす子どもはほとんどいなくなるのではないだろうか。

 時代の流れでそれは仕方ないと言えばそれまでだが、そのことが子どもの心の発達にどのような影響を与えるのかが、とても気になる。大人になると毎日の生活が予定や計画で縛られ、約束もないのに誰かと会うことなどまずできなくなる。予定を決めずに思わぬ友だちと楽しい時間をすごしたり、新しい遊びを発見したりできるのは子ども時代の特権であり、それが心の成長につながっていくと考えられる。

 もちろん痛ましい事件の最大の被害者は本人、そして家族だが、実は全国の子どもたちにもこうして大きなマイナスの影響が与えられる。どうすればこの負の波及効果を止めることができるのだろうか。

著者情報

医師

香山リカ

かやま りか

1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。

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