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連載

新型コロナが若者の生活を直撃! 急増する「バイト難民」

第5回

大内裕和(武蔵大学教授)

 

 新型コロナウイルス感染拡大が続き、その影響は社会のさまざまな領域へと広がっています。私が日々接している大学生たちも、例外ではありません。感染拡大への対応として、4月から始まるはずだった講義日程の延期や、遠隔授業への切り替えなどの措置が取られるようになっています。

 そうした状況の中から、ここで取り上げたいのは大学生のアルバイトについてです。

 私は、2013年6月に「学生であることを尊重しないアルバイト」のことを「ブラックバイト」と名付けて、社会に問題提起を行いました。14年にはブラックバイト専門の弁護団「ブラックバイト対策弁護団あいち」を愛知県の弁護士の皆さんと一緒に結成し、学生のアルバイト相談に応じてきました。16年には、ブラックバイト登場の社会的背景とその対策を考察した著書『ブラックバイトに騙されるな!』(集英社クリエイティブ)を出版しました。

 私がブラックバイトを発見することができたのは、学生たちの話を丁寧に聞くことを心掛けてきたからだと思います。現在も学生からの相談は多数あります。新型コロナウイルス感染拡大以後、特に今春に入ってからは、相談内容が大きく変わってきました。

 それまで学生からの相談は、アルバイト先の労働条件に関するものが圧倒的多数を占めていました。しかし、3月頃から「バイトのシフトが減らされました」「バイトが全くなくなりました」などの相談が急増しました。これは希望してもアルバイトをすることができない状態、言わば「バイト難民」の登場と呼べるでしょう。

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 バイト難民が急激に増えている要因は、学生アルバイトの職種にあります。新型コロナウイルス感染拡大によって大きな影響を受けた産業は、客の減少や営業時間の縮小が行われた居酒屋などの飲食業、全国一斉休校に合わせて休みとなった学習塾業界、中止となったライブやコンサート、ウェディングなどのイベント産業、観光産業などです。

 拙著『ブラックバイトに騙されるな!』には、弁護士や研究者、NPOなどによって組織された任意団体「ブラック企業対策プロジェクト」による「学生アルバイト全国調査」(2014年)の結果が掲載されています。

 居酒屋や飲食店、学習塾・家庭教師、イベント設営、ホテル・ウェディング関係などで働く学生は多く、学生アルバイトの多数を占めています。また3月は春休み期間で、イベントや観光地などで短期集中型のアルバイトをする学生が多くなりますから、その比率は学期中よりも高くなります。つまり、今回の新型コロナウイルス感染拡大は、学生アルバイトの主要部分を占める産業を直撃したことになります。

 バイト難民の急増は何をもたらすでしょうか? ブラックバイトが増加した社会的背景として、学生の貧困化を挙げることができます。

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 全国大学生活協同組合連合会の学生生活実態調査によれば、大学生への仕送り額は減り続けています。月の仕送り額10万円以上の比率は、1995年の62.4%から2019年には27.9%まで低下し、一方、月の仕送り額5万円未満は1995年の7.3%から2019年には23.4%まで上昇しています。

 1990年代半ば、月の仕送り額10万円以上の学生が多数を占めていた時期には、学費など学生生活に必要な費用は、親によって支えられることが多かったのです。この時期の学生アルバイトは、主として趣味や旅行など、学生が「自由に使えるお金」を稼ぐためのものでした。それに対して、現在は「学生生活に必要なお金」を稼ぐためのものが多くなっています。

 2014年にブラックバイトについて問題提起した時、「そんなバイトは辞めればいい」という意見が特に高齢の方から多数ありました。その意見は、学生アルバイトが「自由に使えるお金」を稼ぐためのものだった時代の感覚に基づいているように思います。現在の学生の多くは「学生生活に必要なお金」を稼いでいるのですから、アルバイトを辞めることは容易ではありません。「辞めようと思ってもなかなか辞められない」からこそ、ブラックバイトが広がったのです。

 バイト難民の登場を知って、私がすぐに気になったのは、大学・短大・専門学校の前期(春学期)の学費です。3月以降、アルバイトが急減したことによって、学費を支払えなくなる学生が出てくるのではないか? また、企業からの「内定切り」などによって、卒業生が日本学生支援機構の貸与型奨学金を返済できなくなる状況も危惧しました。

 そこでツイッターとフェイスブックで、新型コロナウイルス拡大の影響で学費の支払いや奨学金返済に困っている声を募集したところ、多くの学生や若者からリプライがありました。

〈テーマパークでのアルバイトが全くなくなってしまい、大学の前期の学費に困っている〉

〈飲食店でのアルバイトが急減したので、専門学校の4月の学費が払えない〉

〈アパレルの仕事に内定していたが、「内定切り」されてしまったので、秋からの奨学金返済が不安〉

〈大学卒業後にアルバイトをしているが、シフトが減ってしまいそうなので、秋からの奨学金返済が不安〉

 このように、学費や奨学金返済に苦しむ声が集まりました。なかには〈コロナが怖いのでバイトに行きたくないけれども、学費を支払うためには行かざるを得ない〉という意見もありました。

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 もう一つ気になったのが、マスコミによる「コロナ疎開」の報道です。

 4月以降、休校を理由に一時帰省する学生たちの様子が「コロナ疎開」と名付けられ、報道されました。そこでは、新型コロナウイルス感染が拡大している都市部から、まだ広がっていない地域を学生が求めて移動している点が強調されていました。

 このコロナ疎開に対して、安倍晋三首相は記者会見で「地方に移動するなどの動きは厳に控えていただきたい。地方には重症化リスクが高いと言われる高齢者の皆さんもたくさんいらっしゃいます。その感染リスクを高めることのないようお願いいたします」と発言しました。しかし、そこにはバイト難民となって、都市部での生活に困っている学生たちの現状への認識が不足しています。

 特に都市部は住居費を始めとする生活費が高いので、アルバイトが減るとすぐに困窮してしまう学生が少なからず存在します。バイト難民となったことで、学費が支払えず学籍を失ったり、奨学金返済ができなくなったりする若者が、多数出てくることは絶対に避けなければいけません。そのためには、大学・短大・専門学校の学費の延納や分納、奨学金返済の猶予を幅広く実施することが求められます。

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 私が共同代表を務める「奨学金問題対策全国会議」は、3月19日に文部科学省及び日本学生支援機構に対して、「新型コロナウイルス感染症の影響に鑑み貸与型奨学金の返還期限の猶予を求める緊急声明」を出しました。

【声明の趣旨】

1. 貸与型奨学金の全ての借主・連帯保証人・保証人に対し、今後、最低1年以上の期間、一律に返還期限を猶予すること。

2. どうしても一律に返還期限の猶予ができない場合には、返還期限猶予制度の利用基準を大幅に緩和し、必要な人がもれなく返還期限の猶予が受けられるようにすること。その際、特に、以下の点に留意すること。

(1)返還期限猶予制度を利用するための現在の所得基準(年収300万円以下、年間所得200万円以下)を大幅に緩和すること。

(2)延滞があることによって、返還期限猶予制度の利用を制限しないこと。

(3)所得、病気、障害等について厳格な証明資料を求めず、本人の申告も含め、柔軟に対応すること。

(4)学資金の借主・連帯保証人・保証人の全てに対し、大幅に利用基準を緩和した返還期限猶予制度を個別に周知するとともに、利用を促すこと。

(5)相談体制を人的・物的に拡充・整備し、簡易な手続で迅速に返還期限の猶予が受けられるようにすること。

(6)新型コロナウイルスによる市民の経済生活、社会生活への影響が消滅したことが確認されるまでの間、今後利用する返還期限猶予制度の期間は、現在の利用可能期間である10年に算入しないこと。

 また4月7日には、労働者福祉中央協議会(中央労福協)と共に、新型コロナウイルス感染拡大に伴い「『奨学金返済猶予と学費支払い猶予・延納・分納』を求める緊急記者会見」を文部科学省記者クラブで行いました。私は若者のミカタとして、新型コロナウイルス感染拡大の影響で生み出されている「バイト難民問題」を可視化し、これからも社会問題として積極的に提起していきたいと考えています。

 政府や行政は、学生に対する補償についても真摯に取り組むべきだと思います。学生の皆さんも相談窓口を頼るなどして、あきらめることなく苦境を乗り切ってほしいです。

文部科学省記者クラブで開かれた緊急記者会見の様子(2020年4月7日)

著者情報

武蔵大学教授

大内裕和

おおうち ひろかず

1967年、神奈川県生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得。松山大学教授、中京大学教授を経て2022年度より現職。「入試改革を考える会」代表。「奨学金問題対策全国会議」共同代表。著書に「ブラックバイトに騙されるな」(集英社)、「教育・権力・社会」(青土社)、「ブラック化する教育 2014-2018」(青土社)などがある。

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