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連載

英語スピーキングテスト問題で都議会紛糾 〜教育の民主主義は実践されるのか!?

第34回

大内裕和(武蔵大学教授)

 東京都教育委員会(以下都教委)はベネッセ・コーポレーションと協定を結び、11月27日(日)に全公立中学3年生を対象に英語スピーキングテスト(ESAT-J)を実施し、その結果を令和5年度都立高校入試において活用しようとしています。このテストでは、イヤホンから流れる問題に、一人ひとりが答え、音声が録音され、解答はフィリピンで採点され、1月中旬に結果が返却されて、都立高校入試総合得点に20点満点で加算がされます。(中略)都において、中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J)結果の都立高校入試への活用の延期・見直しをしていただきたい。

 2022年9月15日、上記の「中学校英語スピーキングテスト結果の都立高校入試への活用の延期・見直しに関する請願」の審議を行った、都議会文教委員会が紛糾しました。委員会の開始前に行われる理事会での意見集約がうまく行かず、13時開始予定のところ実際に委員会が始まったのは18時過ぎ。審議は深夜の23時頃まで続くこととなりました。

「中学校英語スピーキングテスト結果の都立高校入試への活用の延期・見直しに関する請願」は、事業の中止を求める呼びかけ団体「都立高校入試へのスピーキングテスト導入の中止を求める会」が、全国から2247筆の署名を集めて東京都議会に提出したものです。この請願については中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J)の導入に賛成する自民党・公明党が不採択とし、導入に反対する共産党・立憲民主党が継続審査を求めると、質疑では難色を示していた都民ファーストの会が継続審査に賛同。採決の結果、賛成多数で継続審査となりました。知事与党の都民ファーストの会が自民党・公明党に同調しないのは、とても珍しいことです。

 今回、請願が継続審査となったということは、この問題が9月都議会の焦点となったことを意味しています。どうしてこのような事態になったのでしょうか?

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 東京都内の多くの公立中学校では、毎年6月に進路説明会が行われます。今年の中学3年生と保護者にとって、新しく都立高入試に導入されようとしているESAT-Jの内容は、最も知らされるべきものであることが明らかです。しかし、6月の進路説明会で十分な説明が行われることはありませんでした。

 私は都内の公立中学校生徒の保護者の皆さんに、進路説明会の内容についてツイッターで情報提供を呼びかけました。すると次のような情報が集まってきました。

〈〇〇区の公立中の3年生対象で、保護者も参加できる学校主催の進路説明会が行われました。都立高入試へのスピーキングテスト導入については、一切言及がありませんでした〉

〈○○区の公立中学校で進路説明会が行われました。都立を受ける際にはスピーキングテストが必要になる旨、言及しただけで、それ以上の説明はありませんでした。説明資料には、スピーキングテストについての記載はありませんでした〉

〈○○市の進路説明会でESAT-Jの概要と申込みについての資料が配布されました。書かれていたのは、①都立高校受験に必要、②配点は20点、③7月から申込みが始まるので、各家庭で申し込みをしてください、④詳細についての質問は、概要の裏面にある窓口に各自でお問合せください。ということで話は終わり、全体会で質疑応答の時間は設けられずに、解散となりました。理解を深める丁寧な説明はありませんでした。周囲の保護者の方はみな、「何がなんだか分からない」と言っていました。次の進路説明会は10月です〉

 他にも数多くの保護者からリプライがありましたが、「スピーキングテストについて十分な説明があった」とか「スピーキングテストについてよく理解できた」という話は一つもありませんでした。多くの中学校で、スピーキングテストについての説明が不十分であったことは間違いないでしょう。

 この進路説明会直後の7月7日から、ESAT-Jの受験申込みが開始となりました。説明が不十分な状況での受験申込み開始は、生徒の個人情報登録というデリケートな内容を含むこともあって、中学3年生と保護者に一層の不安を与えることとなりました。

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 こうした状況下で、7月下旬に「都立高校入試英語スピーキングテストに反対する保護者の会」(以下、保護者の会)が結成され、ツイッターのアカウントもつくられました。都立高入試へのスピーキングテスト導入の問題点を認識し、進路説明会でのあまりにも不十分な説明に危機感をもった保護者たちが立ち上がったのです。

 保護者の会の結成は、ESAT-J導入反対の運動に大きな影響を与えました。問題の当事者である保護者たちが自らツイッターで発信し、保護者の間に新たなつながりが広がっていきました。ツイッターのアカウントは、保護者同士をつなげるプラットフォームの機能を果たしています。

 8月18日、東京都議会議事堂の第2会議室で行われた「都立高校入試への英語スピーキングテスト導入見直しを求める夏の市民大集会」でも、保護者の会メンバーの参加は大きな意味をもちました。ESAT-J導入に対する「当事者の切実な声」は熱気ある集会を成功させ、運動に大きな弾みをつけることとなりました。

 圧巻だったのは、8月26日に保護者の会主催で開かれた、東京都教育庁への要請行動です。私もその要請行動に参加しましたが、保護者の会のメンバーによって出されたESAT-J導入に関する数々の質問は、制度についての深い理解に支えられたものばかりでした。それに対して、出席した東京都教育庁の職員は十分な回答を行うことができず、この要請行動によって制度の問題点と運営の不十分さが、浮彫になった印象があります。

保護者たちの要請行動のようす(都庁前)

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 保護者の会は、さらに都議会にも影響を与えることとなります。

 22年6月7日、「入試改革を考える会」が都庁記者クラブで「都立高入試へのスピーキングテスト導入の中止を求める」記者会見を開催。この時に都議会議員の皆さんに参加を呼びかけたところ、都議会内の野党4会派(グリーンな東京、東京・生活者ネットワーク、立憲民主党、日本共産党)の議員にご参加いただけました。このことからも分かるように、6月の時点で都議会内の野党4会派は、ESAT-J導入について中止・延期・見直しなど反対の立場を明確にしていました。

 そこへ保護者の会結成による運動の広がりが加わったことで、都議会内の知事与党会派にも変化を及ぼすこととなりました。8月に入ってから都民ファーストの会所属の都議会議員が、ツイッターなどでESAT-J導入に反対や疑問の声を発信するようになったのです。先述した「夏の市民大集会」や保護者の会による要請行動にも、都民ファーストの会の都議会議員が参加していました。

 そして9月7日、都民ファーストの会の都議会議員6名および元都議会議員3名の有志の皆さんが、浜佳葉子都教育長と東京都教育委員に要望書「令和5年度の都立の高等学校の入学者の選抜方法について」を提出しました。ESAT-Jを都立高入試に組み込むことには多くの問題点があり、その解決が不可欠であることを示し、テストの位置づけや点数配分、採点方法、不受験者の扱いについての明確な説明と問題点の改善を求めるものです。

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 保護者の会結成の大きなきっかけである「個人情報の取り扱いに関しての疑問」が広まったことで、「入試改革を考える会」はESAT-J導入が入学試験として必要な公平性・公正性を満たしておらず、個人情報保護法違反の疑いがあるとして住民監査請求の準備を進めました。同会が呼びかけたところ、すぐに50人を超える請求人が集まりました。

 9月9日、私を含む53人の請求人は、ESAT-Jについて公金の支出をしないことと、事業の停止勧告を求める住民監査請求を行いました。その請求書には、「都立高入試への英語スピーキングテスト導入が入学試験の公平性・透明性を害するおそれが大きく、公金を支出することが不当であること、そして最小の経費で最大の効果を上げることを求めた地方自治法(2条14項、地方財政法4条1項、同条の2)に違反する」と述べられています。

著者情報

武蔵大学教授

大内裕和

おおうち ひろかず

1967年、神奈川県生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得。松山大学教授、中京大学教授を経て2022年度より現職。「入試改革を考える会」代表。「奨学金問題対策全国会議」共同代表。著書に「ブラックバイトに騙されるな」(集英社)、「教育・権力・社会」(青土社)、「ブラック化する教育 2014-2018」(青土社)などがある。

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