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物価高騰で浮き彫りになった子どもの「夏休みリスク」をどう乗り越えるか?

第57回

大内裕和(武蔵大学教授)

 こうした体験格差は、昼食の提供のような子どもの健康や命に関わる課題よりも後回しにされてきた感があります。子どもが十分に食べられないことは、多くの人にとって切実な問題だとすぐに理解できるのに対して、体験格差については「よいことではないけど、それくらいはやむを得ない」とか「食べられないことに比べれば深刻な問題ではない」と思われる方もいらっしゃるかも知れません。

 しかし私は、体験格差が「やむを得ない」ですむ問題とは思いません。なぜなら、子どもの時にいかなる体験をするかということは、本人の情動のあり方や物の見方、視野の広がりに大きな影響を与える可能性がとても高いからです。物事に興味をもつためには、その物事をまず知らなければいけません。知らないことには興味をもつこともできないからです。子どもの体験が不足するということは、本人の興味関心や視野を狭め、意欲をもちにくくする危険性があります。

 体験格差を是正するにはどうすればよいでしょうか? 子どもの体験にかかる費用を補助しようという民間団体や自治体も出てきています。そうしたサービスや制度の利用も一つの方法ですが、最も望ましいのは、子どもの体験の場となる公共施設を活用することです。

 公共施設の最もよいところは、無償または安価に利用できることです。夏休み中に公共のスポーツ施設、図書館、博物館などを子どもたちが利用しやすいように整備することです。児童館や公民館、青少年教育施設(青少年自然の家など)などを活用することも重要です。これらの施設は近年、全国的に減少傾向にありますが、子どもたちの「夏休みリスク」を乗り越えるために、むしろ充実させることを提案します。

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 公共施設以外の場として学校施設もあります。現場の教職員の負担にならないよう予算と人員を十分に確保した上で、学校の体育館、図書室、教室を開放することも一つの方法でしょう。

 体験格差の是正のためには、体験場所の確保に加えて、体験場所への送迎や付き添いの支援が重要です。キッズドアの調査によれば、有料の塾に通わせない理由、有料の習い事をしていない理由のトップはいずれも「経済的負担が大きい」となっていますが、2番目の理由は「塾の送迎ができない」(32%)、「習い事の送迎ができない」(30%)となっています。ひとり親家庭は、経済的困難に加えて、子どもを送迎するための時間的リソースを割くことが困難です。こうした家庭の子どもたちの体験格差を是正するためには、現存するファミリーサポート(自治体が行っている子育て支援事業)の充実に加えて行政による送迎手段の確保、地域のバス会社やタクシー会社との連携などが課題となります。

 子どもたちの「夏休みリスク」の深刻化は、貧困家庭やひとり親家庭の増加、子育てに大きな時間的リソースを割くことが可能だった専業主婦の急減などによって、これまでの「家族依存」による子育てが限界に来ていることを示しています。したがって今後は、「家族依存」から「社会で子どもを育てる」システムへと移行を進めるべきです。

著者情報

武蔵大学教授

大内裕和

おおうち ひろかず

1967年、神奈川県生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得。松山大学教授、中京大学教授を経て2022年度より現職。「入試改革を考える会」代表。「奨学金問題対策全国会議」共同代表。著書に「ブラックバイトに騙されるな」(集英社)、「教育・権力・社会」(青土社)、「ブラック化する教育 2014-2018」(青土社)などがある。

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