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連載

男が被害者であるはずがない、という盲点

雨宮処凛(作家、活動家)

「かわいいねぇ」と言いながらうなじを触り、顔を触り、無理やり手をつなごうとし、肩や胸に手を伸ばす。触られている男の子の顔にはすでに笑みはなく、「ほんとやめてください……」と押し殺した声で繰り返していた。何度目かに見た時は涙目になっていて、よほどお店の人に言おうかと思ったけれど、言えなかった。なぜなら、お婆さんの常軌を逸した行動の背景には認知症などがあるかもしれず、そんな時、どんなふうに何と言えばいいのかわからなかったからである。

 あれから10年以上経った今、思う。なぜ、私は目の前で起きていたことを放置してしまったのかと。

 なぜなら、もしお爺さんがスーパーで女子高生バイトに「かわいいねぇ」を連発しながら顔や身体を触っていたら、それを見た全員が「このエロジジイ!」と叫び、一瞬で連行されるだろうからである。なのに、お婆さんは女で、高校生は男だったから見過ごされた。周りも「あらあら困ったお婆さん」って目で見ていた。彼の涙目に、多くの大人が気付いていたにも関わらず。「お婆さんの行動がセクハラになるはずがない」「男の被害者など存在するはずがない」という「常識」が、私たちの目を曇らせていた。

 男性被害者の存在に気付いたきっかけは、自身の被害を告白してくれた男性たちとの出会いもある。今も後遺症に苦しんでいるのに、被害を打ち明けると「得したじゃん!」などと言われて理解されないつらさ。性被害だけでなく、男性DV被害者も無理解に苦しんでいる。

 性別によって自身の目が曇っていないか、そして何よりも、自身が自身の力に無自覚になっていないか。44歳女性教師の事例から、改めて、自身に問うている。

 

次回は5月8日(水)の予定です。

著者情報

作家、活動家

雨宮処凛

あまみや かりん

1975年、北海道生まれ。作家、活動家。反貧困ネットワーク世話人。バンギャル、右翼活動家を経て、2000年に自伝的エッセー『生き地獄天国』でデビュー。自身の経験から、若者の生きづらさについて著作を発表する傍ら、イラクや北朝鮮へ渡航を重ねる。その後、格差や貧困問題について取材、執筆、運動を続ける。『生きさせろ! 難民化する若者たち』でJCJ賞受賞。著書に『一億総貧困時代』『「女子」という呪い』など多数。

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