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『童貞。をプロデュース』問題に見るドキュメンタリーの危うさ

雨宮処凛(作家、活動家)

 そうして19年、出演者が声を上げ、監督が謝罪した。そこに至るまでの時間が12年。その間に、AV出演強要被害が注目され、多くの人の「#MeToo」があった。これが10年前だったら。「AV女優に無理やり口淫された? ラッキーじゃん!」「ありがたいと思えよ!」で済まされていたはずだ。世間も「喜んでたんでしょ?」と相手にしなかったかもしれない。だけど、時代はやっぱり変わったのだ。

 加賀氏のインタビューで心がもっとも痛んだのは、口淫などを強要される場面についてのものだ。《予告編では、該当シーンの一部が“面白い一幕”のように編集されて使われています。》というインタビュアーの問いにこう答えている。

《ぼく自身も「面白いほう」に転がそうとしていたと思います。傷ついていることを見せるのが、恥ずかしいことだと思っていたので。自分自身で面白く見せようとすることで、自尊心を保とうとしたというか、かわそうとした部分があると思います。この件で、高校時代にいじめられて、いわゆる“パシリ”をさせられていた同級生を思い出しました。その人は、いじめっ子に「パン買ってこいよ」と言われて、「ったく、しょうがねえな」と軽口を叩きながら買いにいっていたんです。同じように、ぼくはあの時、本当は泣きたかったのに、“ふざけているように見せたかった”んだと思います。》

 19年10月、兵庫県神戸市の小学校で教師4人による同僚へのいじめが問題となったが、激辛カレーを食べさせられる動画では被害者も笑っていた。必死で無理して笑顔を作ろうとしていた。いじめの場面に、そんな「必死の笑顔」はつきものだ。

 随分と幼稚なことが、この国では「面白い」とされてきた。被害者、犠牲者を踏みにじりながら。そういうことは、もう終わらせたい。今、改めて思っている。

次回は2月5日(水)の予定です。

著者情報

作家、活動家

雨宮処凛

あまみや かりん

1975年、北海道生まれ。作家、活動家。反貧困ネットワーク世話人。バンギャル、右翼活動家を経て、2000年に自伝的エッセー『生き地獄天国』でデビュー。自身の経験から、若者の生きづらさについて著作を発表する傍ら、イラクや北朝鮮へ渡航を重ねる。その後、格差や貧困問題について取材、執筆、運動を続ける。『生きさせろ! 難民化する若者たち』でJCJ賞受賞。著書に『一億総貧困時代』『「女子」という呪い』など多数。

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