imidas - 情報・知識&オピニオン

連載

20年以上前の言動を「徹底総括しろ」と言われたら

雨宮処凛(作家、活動家)

 それまで、信じられる人なんかいなくて、人間なんて最低最悪の存在で、世の中もすべての人もクソなんだと思ってた。だけど反貧困運動の現場で出会った人たちは、違った。生活に困った人、ホームレス寸前の人、路上生活が長く体調を崩した人なんかに当たり前に手を差し伸べ、鮮やかに支援に繋げるプロたち(しかも多くがボランティア)の姿を見て、世界が180度反転するような衝撃を受けた。生まれて初めてくらいに、私は「この世の中って、人間って、捨てたもんじゃないのかもしれない」と思った。

 それから自分も支援に加わるようになってみた。炊き出しの現場で手伝いをしたり、所持金も住む場所も失った人の生活保護申請に同行したり。そしてそんな現場のことを書いてきた。結局、私はそんな活動にハマり、14年間、反貧困の運動を続けている。

 こんな日々の積み重ねが、私にとっての「徹底的な総括」だ。

 思えば、恥多き人生を生きてきた。というか、恥しかない人生だ。だけど私は知っている。これまでの人生で、一度も非難されるべき言動をしたことがないという人など存在しないことを。その中でも、20代の私はブッちぎりで、手のつけようがないほどに愚かだった。しかし、多くの人が若かりし頃、愚かだったことを知っている。そして人間は、「変わる」ということも。愚かだった人が愚かでなくなることもあれば、素晴らしい人格者が金の亡者になることだってある。人は変わる。20年経てば、多くの人は変わる。そして私は、いい方向に変わりたい。

 この経験を通して、改めて、いろいろなことを考えた。

 特に今は、ネットにすべての証拠が残る。SNSをたどれば、何をしていたかもわかってしまう。その上、自分の言葉そのものがネットに残る。そして、文脈もすべて無視して切り取られた言葉が、自分に凶器となって返ってくる。今、私はそれを経験している。だからこそ、伝えておきたい。誰かを匿名で貶めたり、デマを流したり誹謗中傷したりヘイト発言をしている人は、その言葉に20年後、苦しめられるかもしれないと。死を考えるほどに追い詰められるかもしれないと。一生、苦しむ可能性があると。

 私は自分の発した言葉を、一生背負っていくだろう。一方であの頃の、世界をすべて憎んでいた自分の気持ちも決して忘れたくない。なぜなら、あの死ぬほど生きづらかった時期が、書き手としての自分の原点だからだ。

 今日もネットではいろんなことが「炎上」し、誰かが誰かに石を投げている。その石は、もしかしたら次の瞬間、あなたに向かうかもしれない。

次回は3月4日(水)の予定です。

著者情報

作家、活動家

雨宮処凛

あまみや かりん

1975年、北海道生まれ。作家、活動家。反貧困ネットワーク世話人。バンギャル、右翼活動家を経て、2000年に自伝的エッセー『生き地獄天国』でデビュー。自身の経験から、若者の生きづらさについて著作を発表する傍ら、イラクや北朝鮮へ渡航を重ねる。その後、格差や貧困問題について取材、執筆、運動を続ける。『生きさせろ! 難民化する若者たち』でJCJ賞受賞。著書に『一億総貧困時代』『「女子」という呪い』など多数。

関連記事

新着記事

imidasの更新情報をお届けします。