imidas - 情報・知識&オピニオン

連載

90年代サブカルを「消費」していた立場から〜鬼畜ブームが行き着いた果てとしてのヘイト

雨宮処凛(作家、活動家)

 当時、私は何かになりたくて、人形作家を目指したりバンドを組んだりと、がむしゃらにいろんなことに手を付けていた。そんな私に対して「雑誌とかに売り込んであげるから写真貸して、絶対返すから」と言う人がたまにいて、何人かに写真を託した。子ども時代から今に至るまでの写真を要求されたので、そうした。パソコンなどないので、紙焼きの一点モノの写真ばかりだ。しかし、渡した写真は一枚も返ってこなかった。編集部が紛失してしまったのだという(その人が紛失した可能性もある)。ゆえに私は、小さい頃から20代前半までの写真をごっそり失っている。それがどうしたことだろう。デビューした途端、編集部の人に写真を貸し出しても、無事に返却されるようになったのだ。ああ、私は本当にバカにされていたんだな。泣きたくなった。

 あれから、20年以上。

 気がつけば鬼畜ブームは遠い過去になり、そうして2000年代、この国にはヘイトデモが登場した。

 このデモを初めて見た時、香山さんは大きな衝撃を受けたという。〈ポストモダン文化やサブカルの延長線上にあるものに見えたから〉(前掲「常識を疑え!」) だ。それはどういうものか。著書『ヘイト・悪趣味・サブカルチャー――根本敬論』(太田出版、2019年)で香山さんは以下のように書いている。

〈重さや暗さや熱さ、真剣さなどが極端に忌避〉され、〈過激なエログラビアも、天皇も、フランスの現代思想も〉すべて同じステージに上げられ、自分たちはそれを〈見下ろすボックス席 〉のような場所で批評する、という態度。かつて「文脈」や「行間を読む」という高度さとセットで、どこか文化資本が高い人たちのオモチャだったその手のものは、1990年代鬼畜ブームを経て一般化する過程で劣化し(私はここで消費した層)、「ひどいことやったモン勝ち、鬼畜であればあるほど偉い」というノリだけを残して21世紀の路上で醜悪に花開いた。

 ヘイトデモを見た時から、香山さんは〈「大きな声でヘイトスピーチを糾弾し、人権の大切さを主張する人」になった〉(前掲「常識を疑え!」) という。ある意味、当時一番忌避していた振る舞いに切り替えたのだ。それを読んで、香山さんの変化に、改めて深く納得した。ヘイトデモの下地を作ることに、巡り巡って加担したかもしれないという意識からの行動だったのだ、と。

 そんな香山さんを私は尊敬する。しかし、香山さんは反ヘイトの行動を起こしたことがきっかけで多くの仕事を失ったという。大学内での立場も悪くなったそうだ。差別に反対し、人権の大切さを主張する。そんな行動は、本来であれば評価されるべきものだろう。しかし、現実はそうではないのだ。

 このことも含めて、90年代サブカルはやはり、ちゃんと総括されなければならないと思うのだ。

 もう一つ、書いておきたいのは「なんでもかんでも茶化して相対化する」という態度の弊害についてだ。例えば数年前に「NHKから国民を守る党」が出てきた時、私の周りのサブカル好きたち(40代)は面白がり、投票した人も多かった。

「選挙は変な人を楽しむもの」というのも90年代サブカルしぐさの一つではないだろうか。だけど、そんなふうにいろんなものをおちょくって相対化するうちに、私たちは取り返しのつかない場所にいる気もするのだ。そして少し怖いのは、90年代サブカルの影響を深く受けた今の40代の一部は、「茶化す」以外の社会参加の方法を知らない可能性があるということだ。

 例えば私が90年代サブカルの洗礼を受けたのは20歳頃。香山さんは15歳年上で、その世代は「新人類」と呼ばれてサブカル文化を作ってきたわけだが、受け手の世代は20歳頃から「茶化す」ことが基本姿勢になっている。

 それ以外を知らないから、政治家などもキャラと「ネタになるか」でしか判断しない。周りを見渡しても、そんな元サブカル・キッズたちがいかに多いことか。

 さて、書けば書くほど、この辺りのことについては本当に話が尽きない。だけど、あの時代のことをちゃんと振り返ることでしか、私たちは現在のヘイトと向き合うこともできない気がするのだ。

 というようなことを、香山さんや当時のサブカルを知る人たちと語り合いたいな、と勝手に思っている。

著者情報

作家、活動家

雨宮処凛

あまみや かりん

1975年、北海道生まれ。作家、活動家。反貧困ネットワーク世話人。バンギャル、右翼活動家を経て、2000年に自伝的エッセー『生き地獄天国』でデビュー。自身の経験から、若者の生きづらさについて著作を発表する傍ら、イラクや北朝鮮へ渡航を重ねる。その後、格差や貧困問題について取材、執筆、運動を続ける。『生きさせろ! 難民化する若者たち』でJCJ賞受賞。著書に『一億総貧困時代』『「女子」という呪い』など多数。

関連記事

新着記事

imidasの更新情報をお届けします。