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DVを経験した彼女が、加害者更生と女性支援を続ける理由

雨宮処凛(作家、活動家)

 参加するのは加害男性だが、自ら来る人はほとんどいない。「これを受けるか、離婚するか」を妻に突きつけられ、最初は嫌々参加する。3回の面談で本気度を確認し、心理教育もする。どのような言動がパートナーを怖がらせるかを認めて理解し、また、イラッとした時にはその場を離れるという「タイムアウト」などの訓練にも取り組む。男性の本気を確認すると、週1回、最低52回のプログラムが始まる。加害男性数人でグループとなり、「どうやってDVを身につけたか」「暴力で人を支配できると知ったのはいつか」などを振り返り、教材を使いながら「パートナーのダメージを理解」し、「暴力のない関係性を作るにはどうするか」学んでいく。52回が終わっても卒業とは限らない。卒業の条件は、暴力や支配ではない対等の関係が築けて、かつ妻のOKが出ること。現在、最長で12年通っている人もいるという。

「見ていると、加害者は作られていくということがよくわかります。人によって何歳頃、どういう影響を受けたかも違うんですが、みんなトラウマに近いような体験を持っている」

 この言葉に同意する男性は多いのではないだろうか。例えば私の中学時代はヤンキー全盛期で、男子生徒の間では血で血を洗うような暴力やリンチが横行していた。その中で深く傷つきながら暴力を刷り込まれた人も少なくないだろう。そんな男性が一度も暴力を否定されることなく大人になることは、この国ではよくある光景でもある。

 さて、そんな加害者プログラムを受けると、離婚以外の選択肢ができる。別居から同居に戻ったり、離婚になったとしても、「子育てでは協力しあおうね」と対等な関係が築けることも多いという。

 加害者プログラムと同時に吉祥さんが大切にしているのが、被害女性の支援だ。「わかちあいの会」という名前で定期的にサポートグループが開催されている。

「自分の被害を語ってそれを俯瞰して見たり、励ましあったり、“DV あるある”みたいな話をしてお互いの信頼関係を築く。また、どんな理由があっても、暴力は振るった人に責任があることを知る。それができると、女性にすごく力が戻ってくるんですね」

 別の効果もあるという。

「DV被害者は、その後、職場でパワハラ被害に遭うことが多いんです。人間関係で下に入り込むことに慣れているので、不機嫌オーラを出す人の機嫌をとったりしてしまう」

 相手を刺激させない作法が染み付いてしまっているのだ。だからこそ、サポートグループで本来の自分を取り戻していく。

「あと、新しく好きな人ができた時に絶対被害に遭わないようにするのも大切です」

 それは聞き捨てならない情報だ。どうしたら、DV被害を避けられるのだろう?

「やっぱり、嫌なことはちゃんと嫌と言う。こんなこと言ったら嫌われるかも、と思っても大事なことは伝える。それが通じない人は加害者になる可能性があるから早めに縁を切る」 

 シンプルで、当たり前のことだけど、恋愛の場面になるとなかなかできないことでもある。加害者も被害者も、「若い頃にこういうことを知っていれば加害しなかった、被害を受けなかった」と口をそろえるという。このようなことを、中学校や高校などに出向いて講演することもある。

 被害者支援を続ける中で、吉祥さんは様々な知識を身につけた。離婚した後の生活の基盤を整えるための各種制度。シングルマザーが使える貸付金や職業訓練。今はそんな知識を活かして都内某区で相談員もやっている。「エープラス」の活動はボランティアというから、フリーランスの女性支援活動家と言っていいだろう。こういう活動をする女性が安定した収入を得られ、もっともっと増えていけば、DVだけでなく、ゆくゆくは母子心中や女性の自殺、子どもの虐待死なども減らせるのではないだろうか。

 今、コロナ禍でDVは増加の一途を辿り、相談件数は1.6倍と言われている。

「今までお互い見ないふりができたのが、在宅になって顕在化したんだと思います。話を聞くと、こんなに夫婦で大事な話をしてない人が多いんだって思います。自分もそうだったからわかるんですけど、大事な話ほど怖くて言えない。お金の話とか子どもの教育方針とか。この話をすると機嫌悪くなるってわかってるから余計できないんですよね」

 この言葉に頷く女性は多いはずだ。だけど頷いたとしたら、関係の中で見直すべき点があるのかもしれない。

 さて、夫から逃げた日、0歳だった子どもはもう17歳。この十数年、彼女は1日2升の米を炊き、毎日6回洗濯しながら子育てと家事をし、仕事と支援活動を続けてきた。子どもが多かったからこそできたという。子ども同士の家庭内コミュニティができていて、それぞれが助け合っていたのだ。

 女性支援を「ライフワーク」と語る彼女に、今後の目標を聞くと、彼女は即答した。
「二次被害をなくす。『あなたも悪かったよね』って言う支援者をなくす。暴力はどんな理由があってもやった人に責任があるってことを、誰もが口にできるようにしたい」

 彼女の言葉を、深く深く、胸に刻んだ。

著者情報

作家、活動家

雨宮処凛

あまみや かりん

1975年、北海道生まれ。作家、活動家。反貧困ネットワーク世話人。バンギャル、右翼活動家を経て、2000年に自伝的エッセー『生き地獄天国』でデビュー。自身の経験から、若者の生きづらさについて著作を発表する傍ら、イラクや北朝鮮へ渡航を重ねる。その後、格差や貧困問題について取材、執筆、運動を続ける。『生きさせろ! 難民化する若者たち』でJCJ賞受賞。著書に『一億総貧困時代』『「女子」という呪い』など多数。

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