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変革への闘い

「社会的連帯経済」への誘い6「未来バンク」 金融に市民の意志と信頼を反映する

工藤律子(ジャーナリスト)

 つなぎ融資とは、すでに決定している国などからの補助金や事業受託費が交付されるまでの間、資金を補うものだ。エコロジー住宅への融資の場合なら、ほかの金融機関から住宅ローンが提供されるまでのつなぎとなる場合もある。
 住宅融資や住宅設備購入融資は、文字通り、住宅やそこに設置するソーラーパネル、ペレットストーブなどの設備の購入のためのものだ。
 ユニークなのは、特別担保提供融資。これは、融資を受ける人(債務者)以外の組合員が、自分の出資金を未来バンクに「担保」として提供し、行われる融資だ。未来バンクが特定の事業に融資をする際、リスクが高いと判断した場合には、組合員に対し、出資金を「担保」として提供してくれるよう呼びかける。この時、特別担保提供融資の額は、担保となる出資金の10分の8を超えることはできないが、金利は1%に下がる。つまり、組合員が「信頼」を担保に、融資を希望するほかの組合員事業者を応援できるわけだ。
 融資の申請をすると、まず未来バンクの理事とアドバイザーの計8人の中から選ばれた担当者(2、3人)と、面談やメールなどを通して細かいやりとりをする。
「1回の面談だけで融資を決定することはありません。最終的には、8人全員で審査します」
と、業務執行理事の佐藤隆哉さん(40)は説明する。ちなみに佐藤さんは会社員で、「天然住宅」を建てたのをきっかけに、2019年から未来バンクに関わっている。東日本大震災をきっかけに、エネルギーや食、健康といった問題に関心を持ち始めたそうだ。
 これまでに未来バンクから融資を受けた人たちは、田中さんや佐藤さんたちの問題意識と活動に共感し、その信頼に応える形で事業を実施している。

「お金とは、信用です。このお金を『いいお金にしよう』という思いを共有する者同士の貸し借りであるところが、未来バンクの魅力ですね」
 そう微笑むのは、茨城県つくば市で知的ハンディキャップのある人たちと有機農業や芸術活動などに取り組むNPO法人「自然生(じねんじょ)クラブ」の施設長、柳瀬敬さん(63)だ。自然生クラブでは、2005年にグループホームを建てる資金のつなぎ融資を申請したのを皮切りに、過去4回の融資を受けている。柳瀬さんは言う。
「地方銀行がお金を貸してくれない中、田中優さんが書かれたものを読んだりしていて、未来バンクに辿り着いたんです」

NPO法人「自然生クラブ」では、未来バンクからの融資で購入したコンバインが活躍している。

 限られた地域や業種に融資する信用組合・信用金庫のような金融機関からも、担保がないとお金を貸さない銀行からも融資を受けられなかったため、NPOバンクが頼りとなった。
 多摩川の水環境を守り、その流域に暮らす市民が川と共に健やかに生活するための事業を進めるNPO法人「多摩川センター」代表理事の山道省三さん(71)も、同じ多摩川流域で活動する仲間から紹介され、未来バンクにつなぎ融資を申請した。
「私たちの団体は、会費収入だけでは運営していけないので、収益を得るために国の事業を受託しています。しかし、その受託費が支払われるまでの間、運営費が不足するんです。そこで、未来バンクを利用することにしました」
 山道さんによれば、融資を受けた際にきちんと返済を行っていれば、信頼によって融資の継続もスムーズにできることが、未来バンクを利用するメリットだという。

 

NPO法人「多摩川センター」が実施している「多摩川ふれあい教室」で、秋の河原で見つけたからし菜を食べてみる山道省三さん(右)と参加者。撮影:篠田有史

NPOバンクの未来

 現在、未来バンクが融資の相談を受けたり、融資を決めたりしている事業は、年に10件程度だ。
「今は、お金を借りて返せる市民団体は決して多くないので、融資希望者は減っています」
と、田中さんはNPOバンクの利用の現状をそう話す。クラウドファンディングが広まったことで、返済が必要なNPOバンクによる融資を受けるよりも、「寄付してもらうほうが楽」だと考える人が増えているようだ。近年、国(日本政策金融公庫)がNPOも対象に実施している融資の金利が、一般のNPOバンクよりも低く設定されていることも、融資希望者減少の一因になっているという。
 もうひとつ、NPOバンクを長年悩ませていることがある。それは、社会問題化した「サラリーマン金融(サラ金)」への規制を強化するために改正を繰り返してきた「貸金業法」の下で活動せざるをえないという現実だ。貸金業の登録や3年ごとの更新の際にかかる15万円の手数料も大きな負担となっている。
「資金規模の小さなNPOバンクは、その登録手数料をメンバーが出し合ったお金で払っているんです。おかしな話です」
 そう言う田中さんは、本来ならば「NPOバンク法」を作り、その事業目的や意義に沿った法律の下で活動できるようにすべきだと考える。にもかかわらず、「企業以外の社会的組織の存在意義を十分に認めないこの社会で法律作りを主張しても、相手にされていない」と感じている。
 そんな中、NPOバンクの可能性を広げるため、田中さんたちはあることを考え始めた。
「未来バンクで、クラウドファンディングの仕組みを用いた融資を行う、というアイディアがあります」
「クラウドファンディング」は、通常、資金が必要な個人やグループ、団体が、プロジェクトを立ち上げて、クラウドファンディングを運営するサイトにアップし、寄付や出資を募る仕組みだ。寄付・出資をした人(支援者)には、金額に応じて「リターン」と呼ばれる何らかの見返りがある。寄付型、購入型、融資型などさまざまな形式があるが、集まった額の10〜20%前後はサイト運営者に手数料として差し引かれる。
「これは、金利をそれだけ取られるのと同じことです。それならば、未来バンクに集まっているお金を、特別担保提供融資のような形で、組合員が応援したいと思うプロジェクトに渡して、手数料を1%だけもらうほうがいいじゃないですか」
と、田中さんは提案する。
 確かにそれこそ、市民による市民のためのクラウドファンディングだ。
 そうやって出資者一人ひとりの意志を反映する形で集まっているお金を、信頼関係に基づいて応援したいと思う人や団体に託し、地域や社会をよりよくする活動を推進する。市民のつながりから生まれたNPOバンクなら、そんな未来を創ることもできるかもしれない。

 

未来バンク
設立年 : 1994年(新生未来バンクは、2019年から)
人数 : 役員8人、スタッフ1人、アドバイザー2人
事業内容 : 環境、福祉、市民事業、天然住宅への融資
モットー : すべての人がお金に意志を持たせる社会を創る

著者情報

ジャーナリスト

工藤律子

くどう りつこ

1963年大阪府生まれ。東京外国語大学地域研究研究科修士課程在籍中より、メキシコの貧困層の生活改善運動を研究するかたわら、フリーのジャーナリストとして取材活動を始める。著書に『仲間と誇りと夢と』(JULA出版局)、『ストリートチルドレン』(岩波ジュニア新書)、『マラス 暴力に支配される少年たち』(集英社、開高健ノンフィクション賞受賞)、『マフィア国家 メキシコ麻薬戦争を生き抜く人々』(岩波書店)、『ルポ 雇用なしで生きる スペイン発「もうひとつの生き方」への挑戦』(岩波書店)、『働くことの小さな革命 ルポ 日本の「社会的連帯経済」』(集英社新書)などがある。NGO「ストリートチルドレンを考える会」共同代表。

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