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変革への闘い

「社会的連帯経済」への誘い 8「だんだん」 子ども食堂を超えた「地域力」の中心地

工藤律子(ジャーナリスト)

 パンデミックの間も、〈だんだん〉は、地域の誰かに必要なことが出てくれば、どんどん実行に移している。まず、食料品のお裾分けを始めたが、それを受け取りに来る母親から「ハローワークでパソコンのスキルがないとダメと言われた」と聞けば、パソコン教室を開催し、これから就職活動の若者にも声をかけた。複雑な家庭環境に育ち、金銭感覚を養う機会のなかった若者の将来が気になると、「お金の勉強会」を企画。つながりのある一般社団法人「ウーマンライフパートナー」の協力で、毎月最後の土曜日に、お金についてのワークショップを開いている。
「自分のお金の使い方について、どう思っていますか?」
 勉強会を取材に訪れた日、ワークショップはその問いから始まった。子ども食堂に関わる4人の若者が参加し、それぞれの経験を述べる。「スーパーのほうが安いのに、ついコンビニへ行ってしまう」、「大袋とか、お得だと思うと買ってしまう」、「僕は貯めている」と、答えは様々だ。
 その後はまず、自分がお金を何に使っているかを書き出し、「消費」、「浪費」、「投資」のどれに当てはまるかを考える。大半は、必要なものを消費するために使っていたが、中には「同じものを2つ買っちゃった」、「箱買いで、買いすぎてしまう」と告白する子も。講師3人も、値下げや割引といった文句に乗せられてしまった、といった体験談を披露する。
 最後は、お金を上手に使うために、買う目的を明確にし、収入とのバランスを考えることなどが、提案される。「収入よりも買いたいものの値段が高い時はどうする?」という問いには、「友達に借りる」、「必要なものを必要な時に買えるよう、常に貯金する」、「分割払いはどう?」と、次々に声があがる。若者たちは、驚くほどよく喋る。

「お金の勉強会」。講師(奥の女性たち)によるワークショップに参加する若者を、大人たちが見守る。撮影:篠田有史

「この場所に、安心感があるんだと思います。ここで聞いたことをお母さんにも話してあげた、と言う子もいるんですよ」
 講師の1人が、終了後にそう教えてくれた。〈だんだん〉を「子どもたちともっと話せる場にしたい」という近藤さんの思いが、その場に関わる人たちの間にも広がり、大家族のお茶の間のような空間になっているからだろう。
 近藤さんはこう語る。
「子どもたちは、やりたいことや言いたいことがあっても、ストップをかける大人はいるけど、相談できる人、頼る人がいない場合が多いんです。でも、ここでつながっていれば、なんとかなるかな、って」

子どもを軸につながる社会

 家庭が抱える問題は、家庭内だけに留めず、地域に生きる者同士が互いに声をかけあい、助け合う中で解決する。それが、近藤さんが思い描く豊かな地域像だ。
「私の子どもの頃は、近所のおばあさんが一人暮らしになったと聞けば、お漬物を持っていったりしていました。お互い様、が当たり前だったんです。ゆるやかなつながりがそこにあることが、皆の安心を生むと思うんです」
〈だんだん〉は、今、地域にある大学や店、行政ともつながりを築き、異なる者同士が互いを認め合い、支え合う地域社会を築く拠点になろうとしている。
 パンデミックによる全国一斉臨時休校の際は、働く母親たちから悲鳴が届き、近藤さんたちは学校給食に代わるワンコイン弁当の販売を実施した。区役所に相談したところ、福祉課が、その情報を近隣6つの小学校の就学援助家庭に伝達する役目を担った。
「おかげで、それまで知らなかった就学援助家庭のお母さんたちとつながることができました」
と、近藤さん。現在、区の福祉計画推進会議委員や母子保健推進協議会委員、地域とつくる支援の輪プロジェクト委員、近所の学校の地域教育連絡協議会委員も務める中で、こうも感じている。
「行政の考え方がみえるようになり、改めて、現場の声を行政に直接伝えることが必要だと思いました」
 21年12月19日(日)、〈だんだん〉の前の路上では、正午から午後2時まで「こども天国」というイベントが催された。1年前は感染予防のためにごく小規模でしかできなかった行事に、今回は300人を超える子どもや親子連れが詰めかけた。皆、食料品や文房具などのプレゼント袋とできたてのホットドッグを受け取り、玉入れゲームをしたり、クリスマスツリーの絵に願い事を貼り付けたり、好きな古着を選んだりと、お祭り気分を楽しんだ。

「こども天国」の日。学生たちが作った玉入れゲームに興じる子どもたち。赤いコップに玉が入ると、いろいろな形の消しゴム1個が、入らなくてもお菓子が1つもらえる。撮影:篠田有史

 ゲームは、近隣にある東京工科大学の作業療法学専攻の学生たちが手作りで用意し、サンタ姿で子どもたちと遊んだ。ホットドッグは地域の業者がキッチンカーで来て、プレゼント。そこには、いつも〈だんだん〉を手伝っている青年たちや女性、弁当を買っている子どもや大人はもちろん、通りがかりの移民の家族や大田区副区長ら区行政関係者の姿もあった。
 パンデミック下での活動を通じて、近藤さんは改めて「子どもを軸にした地域づくり」の大切さを認識している。
「コロナ禍でも〈だんだん〉の活動はちゃんと続けられるのか、お金は足りているのかなどと、いろいろ心配して声をかけてくれるのは、子どもたちです。子どもたちにとって、信頼関係で結ばれた人たちとのつながりの場は、とても大事なんでしょう。だから、多世代のいろんな人たちの交流は、子どもを軸に築いていけばいいと思うんです」
 そう話す近藤さんの考える理想の社会には、家庭や学校や商店街や工場、公共施設など、多種多様な人と場所が存在し、その中心に子どもたちの笑顔がある。

店内に飾られた色紙。そこに集まる子どもたちの感謝の気持ちが込められている。撮影:篠田有史

 

だんだん(一般社団法人ともしびatだんだん)
事業開始 : 子ども食堂は2012年8月末
人数 : 近藤さんと固定ボランティア6人。社団法人理事2人、事務局長1人、HP&予定表担当2人
事業内容 : 子ども食堂、寺子屋など、地域のニーズに合わせた活動。
モットー : 子どもを軸に地域をつなぐ

 

著者情報

ジャーナリスト

工藤律子

くどう りつこ

1963年大阪府生まれ。東京外国語大学地域研究研究科修士課程在籍中より、メキシコの貧困層の生活改善運動を研究するかたわら、フリーのジャーナリストとして取材活動を始める。著書に『仲間と誇りと夢と』(JULA出版局)、『ストリートチルドレン』(岩波ジュニア新書)、『マラス 暴力に支配される少年たち』(集英社、開高健ノンフィクション賞受賞)、『マフィア国家 メキシコ麻薬戦争を生き抜く人々』(岩波書店)、『ルポ 雇用なしで生きる スペイン発「もうひとつの生き方」への挑戦』(岩波書店)、『働くことの小さな革命 ルポ 日本の「社会的連帯経済」』(集英社新書)などがある。NGO「ストリートチルドレンを考える会」共同代表。

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