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変革への闘い

「社会的連帯経済」への誘い21 「もうひとつの世界」の当事者になる

工藤律子(ジャーナリスト)

 バルセロナのある中学校の生徒たちは、1学年全体でひとつの生徒協同組合を作り、卒業まで協同運営する。理事会のメンバーは定期的に集まり、実施事業(手作りお菓子の即売会、地域の年少者たちのためのお楽しみパーク開催など)の成果を精査して、組合員に報告。それに基づいて、総会で次の事業計画を立てる。この活動をサポートする教員は、「大人に頼らず、自分たちで民主的に協議して、人の意見も受け入れながら決断を下していくプロセスが大切です」と話す。

バルセロナ郊外の中学校3年生の「生徒協同組合」の総会。理事会メンバーの司会により、学年全体で来年度の事業計画を立てていた。(2023年5月)撮影:篠田有史

 カタルーニャ州には、こうした児童・生徒協同組合の連合組織がある。州政府は、社会的連帯経済・協同組合局を通して3年間で1600万ユーロ(2023年8月現在のレートで約25億円)の予算をとって、彼らの活動を応援している。「未来の世代には、持続可能かつ公平で平等なビジョンを持って、何より“協力”を大切に行動してほしいものです」と、担当副局長は言う。
 これらの実践は、子どもが、自分の考えを持ち、主体的に周りとコミュニケーションをとりながら、協力して物事を成すことのすばらしさを知る助けとなっている。こうした教育こそが、社会的連帯経済を担う、主体的で共感力のある市民を育てる。

 

民主主義を根付かせる

 もう一つ、私たちが努力すべきことは、民主主義を根付かせることだろう。
 冒頭に触れたリーマンショック後のスペインの市民運動で、人々が掲げたスローガンは「経済的支援を」ではなく、「もういい加減、真の民主主義を!」だった。その延長線上にスペイン、そして欧州における社会的連帯経済の発展がある。持続可能で民主的な経済システムを創らなければという信念と情熱は、民主主義を大切にする市民の間にしか生まれないからだ。
 日本においてもゆっくりとではあるが、市民による民主主義の実践は広がりつつある。例えば、東京都杉並区では、2022年6月の区長選挙で、市民主導の選挙戦を通して「ミュニシパリズム」を掲げる岸本聡子区長(国際政策シンクタンクNGO「トランスナショナル研究所」元研究員)が誕生した。ミュニシパリズムは、地域において市民が主体的に政治に参加し、自然環境や公共サービスなど、市民生活に不可欠かつ重要なものを「共有財(コモン)」として自治体が管理する政策をとる自治の実践だ。それを支持する市民が、沼津市、京都市、大阪市などでも行動を起こしている。そこにはむろん、「社会的連帯経済の推進」も含まれる。
 この流れが全国各地へと拡がれば、日本社会にも民主主義の精神が根付いていくことが期待できる。すでに存在する社会的連帯経済の実践者たちがミュニシパリズムの推進者となり、民主主義に基づく地域経済を創り上げる。そんな動きが各地で起きることが、世界的な運動との連携につながるだろう。

 

「もうひとつの世界」の当事者になる

 世界はすでに、資本主義経済に代わる「もうひとつの経済」としての社会的連帯経済が、持続可能なよりよい世界を創るためには欠かせないことを理解し、行動している。その証拠に、2022年6月に国際労働機関(ILO)が、2023年4月には国連総会が、社会的連帯経済の推進を決議した。
 これらの決議が行われた背景には、まず1990年代後半に起きた「反グローバリズム運動」がある。その流れを受け、2001年にブラジルのポルトアレグレで開催された第1回「世界社会フォーラム」では、新自由主義的グローバリゼーションがもたらした経済格差や気候変動などの問題を、地球規模の連帯で解決しようと試みる世界的なネットワークが生まれた。そのスローガン「もうひとつの世界は可能だ」の「もうひとつの世界」の土台には、社会的連帯経済がある。2002年には「社会的連帯経済を推進する大陸間ネットワーク(RIPESS)」が誕生し、各大陸のネットワークと連携して、世界の社会的連帯経済推進運動を牽引してきた。それらの運動の努力の結果、国連が動いたのだ。
 日本でも、2018年4月には「日本協同組合連携機構(JCA)」が創設され、異なる協同組合間のネットワークを駆使した活動が広まりつつある。また、社会的連帯経済に関わる実践者・研究者たちも、「社会的連帯経済推進フォーラム」を設立し、当事者をつなぐネットワークを築こうとしている。実は私自身も、そうした動きを後押しすべく、法政大学の伊丹謙太郎さんやスペイン・バレンシア市在住の社会的連帯経済研究者・廣田裕之さんらと共に、社会的連帯経済ポータルサイト「つながりの経済」を運営している。
 今こそ私たちは、社会的連帯経済の「理念」の下、世界の人々と共に「もうひとつの経済」を創る運動に参加し、「もうひとつの世界」の当事者となることを目指そうではないか。世界の未来は、私たちの連帯を必要としている。私たちの描く未来が、「もうひとつの世界」と重なる時、「希望を胸に生きる未来」が現実となる。

 

・社会的連帯経済推進フォーラム
http://sse.jp.net

・社会的連帯経済ポータルサイト つながりの経済
https://sites.google.com/view/tsunagari-economy/

・社会的連帯経済を推進する大陸間ネットワーク(RIPESS)
https://www.ripess.org/

著者情報

ジャーナリスト

工藤律子

くどう りつこ

1963年大阪府生まれ。東京外国語大学地域研究研究科修士課程在籍中より、メキシコの貧困層の生活改善運動を研究するかたわら、フリーのジャーナリストとして取材活動を始める。著書に『仲間と誇りと夢と』(JULA出版局)、『ストリートチルドレン』(岩波ジュニア新書)、『マラス 暴力に支配される少年たち』(集英社、開高健ノンフィクション賞受賞)、『マフィア国家 メキシコ麻薬戦争を生き抜く人々』(岩波書店)、『ルポ 雇用なしで生きる スペイン発「もうひとつの生き方」への挑戦』(岩波書店)、『働くことの小さな革命 ルポ 日本の「社会的連帯経済」』(集英社新書)などがある。NGO「ストリートチルドレンを考える会」共同代表。

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