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変革への闘い

「ストリートチルドレン」と呼ばれて6 本当の望み

工藤律子(ジャーナリスト)

「あたたかい家庭」を求めて

 この頃、私たちは、「メキシコシティのストリートチルドレン」に関するドキュメンタリービデオを作る仕事で、道ゆく人たちに、「この街に大勢いる路上暮らしの子どもたちのために、できることは何だと思いますか?」と尋ねるインタビューを行った。比較的裕福な人たちが暮らす地域でこの質問を投げかけると、大抵の人が、「子どもたちのために、ちゃんとした設備の整った保護施設を数多く用意することでしょう」と、答えた。そういう施設は、NGOによってすでに複数用意されていると伝えると、相手は「じゃあなぜあの子たちは、きれいな部屋やおいしい食事が提供される施設に入らないのですか?」と、不思議がった。
 日本人でも、路上暮らしの子どもたちを施設に保護してもなかなか定着しないという事実を知ると、それと似たような反応をする人が多い。どこの国であれ、必要なことはほとんど何でもお金で解決できると考え、生活してきた人間は、子どもたちが路上にいるのは、家族がいないか、単に家庭が貧乏だからだと思っている場合が多いからだろう。カルロスのような子どもが一番必要としているものが何なのかを、社会が理解しない限り、真の問題解決への道は開かれない。私たちは、そう思わざるを得なかった。

筆者(左端)や路上の仲間たちとともに、篠田のカメラに笑顔を向けるカルロス(右端) 撮影:篠田有史

 ただ、ひとつだけ望みはあるような気もした。それは、子どもたちのことを理解できる貧困層の人たち、の存在だ。例えば、私が大学時代のフィールドワーク以来、ずっと付き合い続けているスラムの友人たち。彼らは、貧乏でも、路上の子どもたちの家庭とは異なり、隣人同士が協力して皆で生活を改善していく運動を続けてきた。それだけ家族や仲間とのつながりを大切にし、それが人間にとって、経済的な豊かさ以上に重要なことだと知っているのだ。彼らならば、カルロスの気持ちがわかるに違いない。
 そう考えた私は、翌年、メキシコシティに戻ってきた際、スラムの友人たちの中でも最も親しい人間の1人で、住民組織のリーダーとして活躍してきたマヌエルとその妻フアナに、カルロスを家に連れていってもいいかと、尋ねてみた。本当の家族ではなくとも、少年があの「チャーリー」のように「あたたかい家庭」の中で過ごす機会を少しでも増やせたら、と思ったからだ。マヌエルとフアナの返事は、「もちろんいいよ」。
 そこで私たちは、翌週、「乗馬」を口実にカルロスを誘って、一家が住むメキシコシティ南西部のスラム地域へと向かうことにした。

著者情報

ジャーナリスト

工藤律子

くどう りつこ

1963年大阪府生まれ。東京外国語大学地域研究研究科修士課程在籍中より、メキシコの貧困層の生活改善運動を研究するかたわら、フリーのジャーナリストとして取材活動を始める。著書に『仲間と誇りと夢と』(JULA出版局)、『ストリートチルドレン』(岩波ジュニア新書)、『マラス 暴力に支配される少年たち』(集英社、開高健ノンフィクション賞受賞)、『マフィア国家 メキシコ麻薬戦争を生き抜く人々』(岩波書店)、『ルポ 雇用なしで生きる スペイン発「もうひとつの生き方」への挑戦』(岩波書店)、『働くことの小さな革命 ルポ 日本の「社会的連帯経済」』(集英社新書)などがある。NGO「ストリートチルドレンを考える会」共同代表。

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