「ストリートチルドレン」と呼ばれて19 日本との絆
工藤律子(ジャーナリスト)
ダビに惚れ込んで
近年、スタディツアーで路上活動に同行した学生の多くは、「ダビに惚れ込んで」帰国する。そんな1人が、ガクトだ。彼もまた、スタディツアー参加の次の年、子どもたちとの再会を果たしたい、ダビと一緒に彼らのために何かしたいという思いから、メキシコシティに再度、降り立つ。2024年7月のことだ。
ガクトは、路上活動のことを、「うまくいくことの方が圧倒的に少ない仕事だけれど、だからこそ、続けることが必要だ」と話し、「子どもたちの未来が少しでも明るくなるように」という祈りのような思いで、活動していた。
彼もまた、ユタカのように、初めはスペイン語という言葉の壁に苦しんだが、子どもたちへの思いと持ち前の人懐っこさで、路上の人たちからも親しみを込めてその名を呼ばれる存在になっていく。その路上活動はほんの半年余りのものだったが、帰国後も、彼はダビとテキオの活動を支えるために自分には何ができるのか、試行錯誤を続けた。

スタディツアーで訪ねた施設でのランチタイム。ガクトは、言葉が通じなくても、子どもたちと関わることに夢中になった(2023年) 撮影:篠田有史
そんなガクトの友人で、彼より1年遅れでスタディツアーに参加したコウキもまた、ガクトの使命を引き継ぐかのように、2025年5月半ばから、8カ月間、テキオのボランティアとして、ダビやモイセスと活動することになる。慎重派の彼は、最初の2カ月、ダビの話を理解することや路上で関わる相手に馴染むことに、やや苦労する。特に言葉を理解する難しさには、焦りを感じていたようだ。ただ、7月末に、テキオのおかげで路上生活を抜け出した少女が暮らす定住ホームで日本語教室を始めてからは、子どもたちと親密に関わる機会が増え、コミュニケーション力も増していく。そうして路上ボランティアの後半戦では、活動の記録写真を撮ったり、ダビやモイセスの代わりに路上家族に付き添ったり、しっかりとした役割を担うようになった。
「でも、ダビのノリにはついていけないですよ」
と、笑うコウキ。
「ダビは、本当に寝る間も惜しんで動いているし、今日の活動はこれで終わる、と言っていても、帰る途中で声をかけられると、またその子の話を聞いているうちに時間がどんどん伸びてしまう。終わりがないんです」
活動にのめり込むというよりも、一歩引いて見るタイプのコウキは、自分には到底、ダビと同じように路上活動をすることなど、不可能だと考えているようだった。しかし、その活動が「続けることが必要なもの」であるという確信は、ガクトと共有していた。
この2人がテキオの路上活動に関わったことは、私たち「ストリートチルドレンを考える会」とテキオのその後のつながりにも、大きく影響することになる。

施設の子どもたちと近くの公園へ行ったコウキは、少女に手遊びを習う。(2024年) 撮影:篠田有史
テキオを支えたい
“メキシコの路上で暮らす子どもたちの未来を支える「ストリートエデュケーター」を応援!”
そんなタイトルを掲げ、ガクトやコウキが参加する「ストリートチルドレンを考える会」学生チームは、2025年秋、テキオのためのクラウドファンディングを開始した。2人と一緒にこのプロジェクトを担ったのは、彼らと同じ年のスタディツアーでメキシコシティの路上を訪れた学生の有志だ。
ストリートチルドレンを考える会は、すでにこの年の2月から、テキオの活動が補助金などを得て軌道に乗るまでの2年間、財政面で応援するために、毎月4万円を送金していた。法人格を持たず、ボランティアのみで運営する任意団体である私たちには、2年で計96万円を集める当ては会員からの寄付しかなかったが、それでも「何かしなければ」という思いからの決断だった。これまでスタディツアーなどで路上活動を体験し、その重要性を痛感してきた会のメンバーは、「テキオの活動を絶やしてはならない」という共通の思いを抱いているからだ。
私たちは、有給スタッフも事務所も持たないため、毎月発行するニュースレターの郵送代やウェブサイトのサーバーやドメイン代といった事務費用を除けば、会に集まるお金はすべて、現地NGOへの寄付に充てられている。とはいえ、年会費3000円、会員数100名前後の団体に集まるお金は、通常、年間100万円に満たない。その中から、フィリピンとメキシコへのスタディツアーで訪問している現地NGO、計10団体への寄付以外に、テキオに年間48万円を提供するのは、なかなかの難題だ。そこで、思いついたのが、クラウドファンディングへの挑戦。若者たちは、楽観的だった。
「目標額は、100万円にしよう!」
彼らはそう意気込んだ。しかし、現実はそこまで甘くはなかった。ストリートチルドレンを考える会の知名度が高いわけではないうえ、地理的に遠く、日本人が大きな関心を抱いているとは言い難い中南米の国での活動への支援。それにお金を集めるのは、簡単ではない。最後は、会員や友人への個人的な呼びかけを頼りに、3カ月で何とか54万円を超える額を集めた。それは大いなる成果と言ってもいいだろう。
このプロジェクトを実施するために、クラウドファンディングサイト運営者とやりとりし、サイトにアップするテキオの活動を伝える文章を作成し、応援メッセージを書いた学生たち。彼らが、ダビたちの活動をより深く理解し、共感し、連帯したことこそが、クラウドファンディング実施の最大の成果だ。
サイトに掲載した「現地ボランティア経験者からのメッセージ」に、ガクトはこう書いた。
「警察や行政が正しく機能しない環境で、彼らの居場所と未来をつくれる唯一の存在が、ストリートエデュケーターなのだと感じました。私たちだからこそ、寄り添える命がある」

テキオの路上活動に参加し、ダビ(中央)と共に地下鉄駅前にいる少年たちを訪ねたガクト(右)。
そして、コウキも。
「夢を抱くことさえ難しく、劣悪な環境の路上で、日々を生き抜く子どもたち。様々な角度から私たち一人ひとりが関わることが、子どもたちが夢を育むきっかけになると思います」
この夏にも、また一人、昨年のツアー参加者がメキシコへ留学し、勉強の合間にテキオの路上活動を応援することを考えている。ダビの情熱が伝染したのか、日本の若者とテキオの絆は、日々深まっているように見える。日本の若者たちにとって、それは自分たちの視野を大きく広げ、世界を意識し、自身の人生を見つめ直す、貴重な機会をもたらすものでもある。日本で学生生活を送っているだけでは、到底得られない学びの場だ。
テキオにとっても、日本の若者たちの存在は、今や欠かせないものとなった。
「今年も誰か来てくれそう?」
先日、ダビとモイセスから、そう尋ねられた。路上活動から生まれた日本の若者とメキシコのストリートエデュケーターの絆は、それぞれの未来を少しずつ良い方向へと導いているように、私には思える。