AV業界や購買者目線で作られた「AV新法」には反対です!!
仁藤夢乃(社会活動家)
さらに法案の中で「AVの定義」に書かれた「契約」の対象となる行為に「性交」が含まれることで、「撮影」の名目なら「本番行為」の金銭取引が可能となり、売春防止法で禁止されているはずの行為も合法となってしまう。金銭を介した「性交」が法律で認められると、AV出演以外の性売買被害者の人権侵害をも助長することに繋がる。
また、最近のAVで多く見られる、排泄物や吐しゃ物を食べさせる、水中に沈めて息をさせない、ろうそくや花火等で火傷させる、殴る蹴る、首を絞めるなどの虐待・暴力行為さえも容認されている。そうした「撮影名目による暴力行為」の合法化も問題だ。
多くのAVでは女性が屈辱や性的対象物、商品、見せ物として非人間的に描かれており、苦痛を楽しんでいるかのように見せたり、強姦やその他の性暴力そのものを見せたりすることも少なくない。つまり昨今のAVは、女性を性的に支配するストーリーを楽しむ加害映像と言うことができ、その背景には女性蔑視や女性差別がある。法案の「全体として専ら性欲を興奮させ又は刺激するもの」という「AVの定義」が、ユーザーやAV業者側に立った言葉であることも問題だ。
そこで、私たちは要望書で以下のことを求めた。(1)性交および暴行陵虐行為を目的とする契約は禁止すべきであり、その前提で定義を変更すること。(2)法律名の「性行為映像作品」を「性行為画像記録」とすること。(3)「性行為画像記録」の定義を、「人が性交若しくは性交類似行為を演じる姿態又は性器等を触り、若しくは触らせる行為、および暴行凌辱・残虐行為等を演じる姿態が撮影された映像を含む記録であって、主に女性を性的に支配し、性的対象物として暴力的に扱うものをいう」とすること。(4)性器を露出した画像記録は許されないので、削除すること。
こうした民間支援団体からの要望を受けて連日法案が修正されていったが、この文章を書いている現在に至るまで「性交を合法化する」という根幹の部分は修正されていない。
被害者の人権保障の観点から
AV出演被害者の人権・生活保障、尊厳の回復と、被害に遭わずに生活できるよう未然の支援策も重要だ。
そもそも妊娠や性感染症のリスクがある行為が、法的に「仕事」や「契約によって有効なもの」として認められること自体が問題だが、現状ではAV出演や性売買に関わる女性たちが妊娠したり性感染症になったりしてもAV業者や相手の男性は責任を負わず、女性自身が治療費や治療の間の生活費を工面しなければならない状況がある。そのため妊娠や性感染症について、また現実に生じている精神疾患などの影響についてもAV撮影の被写体となる女性の自己責任ではないこと、AV業者や相手の男性にも責任を負う義務があることを明確にすることも必要だと思う。
法の目的には、被写体となる女性の「性と生殖の健康と権利の保護」を入れ、男女間の「性交」は「生殖行為」であるため、AV業者の義務として被写体となる女性の「性と生殖の健康と権利の保護」もしくは、せめて「身体的・精神的・性的安全と健康の確保」を入れるべきである。被写体となる者の「生命・身体に重大な危険を及ぼす行為」「心身の安全・健康に影響を及ぼす行為」の禁止規定も必要だ。そうして「罰則がなければ、この新法が実効性のないものとなることは確実」とも訴えた。
コロナ禍で、障害や性暴力被害だけでなく、貧困などからAV出演被害に追い込まれる女性もこれまで以上に増えている。他に選択肢がない、またはそう思い込まされる社会の状況の中で、私たちはAV出演や性売買を選択させられている女性と、毎日のように出会っている。こうした状況の背景には、女性が生きづらい男女不平等社会があり、この法案はそうした根本的な問題に蓋をするものだ。
要望書提出後の5月13日に示された法案には「性行為映像制作物の制作公表により出演者の心身及び私生活に将来にわたって取り返しの付かない重大な被害が生ずるおそれがあり、また、現に生じている」とあった。この法案の起案者も、出演者たちに重大な被害が生じることを認識しているのだ。
そのため、「出演に係る被害の発生及び拡大の防止を図り、並びにその被害を受けた出演者の救済に資するために徹底した対策を講ずること」を目的として、「出演契約の締結及び履行等に当たっての(中略)義務、出演契約の効力の制限及び解除並びに差止請求権の創設等の厳格な規制を定める」とされた。「生殖機能の保護」という言葉もさらに付け加えられた。
しかし、そもそも、将来にわたって取り返しのつかない重大な被害が発生する恐れがあること、生殖機能の保護が必要なことをなぜ契約に含まれるものと認めるのか。
「心身及び私生活に将来にわたって取り返しの付かない重大な被害が生ずるおそれがある」こと、また、現に生じていることを認めるのであれば、その原因となるAVの制作をさせないことが必要なのではないか。そうでなければ被害を防ぐことはできない。契約方法や制作行為に対する規制が足りないから被害が起きているのではないし、法案にある通り「相談体制」を整備したとしても、被害者が相談するのは被害に遭った後であり、この法案では被害の拡大を防ぐことも不可能だ。
さらに罰則規定として、説明書面や契約書等を交付せず、虚偽の書面を交付した場合は処罰の対象になると書かれている。これはまさにAV業者が現在も行っている「自主規制」を参考にしたものだ。AV業者は契約の際に脅しや強制がないことを証明するため、契約の様子を録画していると話していた。前述したようにAV業者と被害者には対等な関係性はなく、「契約書」や「説明」もAV業者が自身の正当性を主張するためのものである。
AV業者がもしも「将来にわたって取り返しのつかない重大な被害が発生する恐れがあること」を丁寧にしっかりと書面で説明したとして、出演交渉を受けるのは男女不平等社会の中で性売買に追い込まれる女性たちである。AV業者との決して対等でない関係性の中で同意せざるを得ない状況にあっても、「本人が同意した」ということで「本番行為」も契約に入れられてしまう。つまり、この法案では実際に今も起きているそのような被害が防げず、それどころか女性たちに自己責任を押し付けるものになっている。
私は、要望書のすべてが反映されないのであれば、この新法はないほうがよく、あっても被害者救済につながらないどころか、被害を拡大し、さらなる女性差別や人権侵害が生じることになると考えている。「まずは作って、後からよいものにしていけば?」と簡単に言う人もいるが、日本では法律は一旦通れば改正は簡単ではない。
まずは18〜19歳を救済する「取り消し権」の特例法を作り、AV全体の問題については議論の積み重ねが必要だ。AV業者や購買者、消費者の目線で書かれた法案がこのまま成立してしまえば、事実上のAV合法化に繋がり、AV業者に自身の正当性を主張するために使われることは確実だ。
5月22日に東京・新宿で実施された「AV業界に有利なAV新法に反対する緊急アクション」は、大きな反響を呼んで国会も注視している。市民で反対の声をあげ、世論を高めることが必要だ。