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連載

第7回 谷村志穂さん(小説家)

一緒に歳を重ねることで愛おしさは増していきます。

谷村志穂(小説家)

加藤由子(動物ライター)

谷村 ところで、加藤さんのところはいつも和猫ですか?
加藤 和猫というか雑種ですね。みんな保護猫です。
谷村 チャイもミーミーも保護猫で和猫っぽいんですが、この間、近くの公園でノルウェージャン・フォレストキャットみたいな長毛の野良の子猫が捕獲されて紹介を受けました。なんでこんな所に? って感じ。野良猫や保護猫は出会うまでの時間がわからないから、どこでどうしてきたのか聞いてみたい。そんなこと、考えませんか?
加藤 おもしろいですね。お前はどこで生まれて何してきたのって、私は考えたことなかったけど、聞いてみたいですね。
谷村 考えたことないですか? 男の人に会ったときもそう思わないですか? 私と会うまでどうしていたんだろうって。
加藤 そんなこと考えたこともなかった(笑)。もう、出会ったときからが始まり。瞬間の切り取りでいいと思ってました。
谷村 刹那(せつな)ですね(笑)。なんだか猫的ですね。
加藤 猫も瞬間で生きていると思いませんか? 人のように一日という意識はなくて、昼は寝ている合間にときどき起きる、夜は起きている合間にときどき寝るという感じがします。
谷村 暦のような一日の感覚はないけれど、猫にも24時間という体内のリズムみたいなものはあるんじゃないですかね。休みの日にもっと寝ていたくても、決まった時間に起こしに来るのは猫のほうですもん。ちょっと、ずるいでしょ。いつもは気ままに寝ているくせに、人が休みのときに起こしに来るなんてって(笑)。
加藤 確かに。明らかにお腹がすいていますね。
谷村 そうですよね、あとは遊んでほしいと。
加藤 私、ああ、飼い主って猫にとって自動販売機なんだな、って思うんです。
谷村 だったらコイン入れてくれたらいいのにね(笑)。

結局、よくわからないことが猫の魅力

谷村 加藤さんに寄せられる猫の質問ってどんなものが多いんですか?
加藤 極端に言えば、うちのコ、何考えているんでしょうか、みたいなことですね。人間でもダンナとか彼女とか、異性のことはよくわからないのに、ましてや種の違う猫なんだから、すべてをわかるわけない、わからなくてもいいのよといつも言うんですけどね。
谷村 そうですか? 私は加藤さんの本によって猫への理解を深めさせてもらっていますよ。加藤さんが、猫に光を当ててくれ、猫の中に宿る野性味を教えてくれたという感じです。
加藤 私は家畜というくくりに興味があります。野生動物が家畜になったときに別の生きものに変わる。変えたのは人間だからこそ、つき合う責任があると思うんです。本当に野生の猫だったら単独生活者だから、ひとりで生きていくから放っておいて、ということで「かわいらしさ」はないでしょう。ときどき見せる野性味ももちろん魅力的ですが、いつまで経っても依存してくるからかわいいわけで、そこに絆が生まれるならば、猫ってかわいくてなんぼという気がしています。
谷村 猫が何歳になっても、ごはんをあげて、トイレの掃除をして、世話をして過ごすんですけど、いろいろな間(あわい)がありますよね。猫度が高い猫と人間度が高い猫というか、猫に野性味を求める人と、かわいらしさを求める人、そこは好みが分かれます。何がかわいいかは人それぞれ違うと思うんです。
加藤 谷村さんは人間度の高い猫が好きなんじゃないかと思うんですが、どうですか?
谷村 うーん。当初は、猫ってすごいなという野性味に惹かれていきました。チャイは初恋みたいなものだったので、わあ、こんなにジャンプできるんだ、みたいな感じ(笑)。でも、歳を重ねていくうちに、もっと愛おしくなったのかな。チャイの背中が丸くなりよぼよぼになっても、チャイが私にそう見せていなかった。チャイがいろいろなことを教えてくれ、それがミーミーとの今につながっています。大学で動物を学んでいたときよりもいろいろなことがわかった。それは勝手に私が託していた物語もあるかもしれませんが、最後まで一緒だったので、ひととおり見せてもらえたというのはありますね。でも、わからないこともまだまだありますが。
加藤 私は猫を見ていても、“結局本当のところは何もわからない”ということがよーくわかるという感じがします(笑)。
谷村 それはいい話ですね。
加藤 わからないんだという経験をさせてくれるというのが非常にいい存在だと、最近つくづく思います。

◆一筆御礼 ~対談を終えて
 谷村さんの「出会った猫に、どこでどうしてきたのか聞いてみたい」という言葉はとても印象的でした。自分と出会うまで、どんな暮らしをし、どんなものを見てどんなことを考えていたのかを知りたい。そして、なぜ「今」があるのかに思いを馳せたいということでしょうか。おそらく小説家ならではの感性なのだと思います。映画化された谷村さんの小説『海猫』には、人の生い立ちゆえの“しがらみ”と、その“しがらみ”ゆえの愛の形が描かれていますが、人の「今」をその人の歴史の投影として捉えることで多様な登場人物の感情の機微を描ききることができるのでしょう。同じように、自分が出会った猫たちについても「今」の後ろにあるものを知りたいと思い、それゆえの“人格”として理解したいということなのだと思います。猫は、なぜか飼う人の見方どおりの存在になるものです。確かに、谷村さんに、そういう目で見られているミーミーには確固とした“猫格”が感じられました。

(撮影:橋詰かずえ)

著者情報

小説家

谷村志穂

たにむらしほ

1962年北海道生まれ。北海道大学農学部にて動物生態学を専攻。90年にノンフィクション『結婚しないかもしれない症候群』がベストセラーとなる。1991年処女小説『アクアリウムの鯨』(八曜社/角川文庫)を刊行し、自然、旅、性などの題材をモチーフに数々の長編・短編小説を執筆。2003年、『海猫』(新潮社)で第10回島清恋愛文学賞を受賞。代表作に『余命』(新潮文庫、2008年)、『黒髪』(講談社文庫、2010年)など。子ども向けに絵本『シートンさんのどうぶつ記(1〜3)』(集英社クリエイティブ、2009年)の翻訳も手がける。7月15日に長編小説『大沼ワルツ』(小学館)が刊行予定。(2016.6)

動物ライター

加藤由子

かとう よしこ

動物ライター、エッセイスト。「ヒトと動物の関係学会」監事。1949年生まれ。日本女子大学卒。大学では生物学(動物行動学)を専攻。移動動物園などを経てフリーライターになる。動物、特にネコの生態や行動学に精通し、ネコに関する書籍などを多数執筆している。ネコ関連の著書に、『雨の日のネコはとことん眠い』『ぬき足、さし足、にゃんこ足』(共にPHP研究所)、『ネコを長生きさせる50の秘訣』(サイエンス・アイ新書)、『猫の気持ちを聞いてごらん』(幻冬舎文庫)、『猫式生活のすゝめ』(誠文堂新光社)、『猫とさいごの日まで幸せにくらす本』(大泉書店)、『猫の気持ちは見た目で9割わかる!』(大和書房)ほか多数。

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