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連載

第10回 ますむらひろしさん(漫画家)

猫は人間にいろいろなことを気づかせる自然界からの使者なのです。

ますむらひろし(漫画家)

加藤由子(動物ライター)

加藤 その後に子猫たちがやってきたのですね。今、猫は3匹ですか?
ますむら もう1匹、フウタという18歳の猫がいます。今は庭の縁の下で寝てるんじゃないかな。昼間はそこがお気に入りなんです。フウタは孤高のばあさん猫で、うちの奥さんにしか懐いていない。それも我が家の猫ではめずらしいこと。これまでずっと多頭飼育でいつも2~3匹、多いときには7匹いましたから、1匹だけになってしまったのは初めてじゃないかな。
加藤 猫が亡くなって悲しんでも、また次の猫を飼おうと思うのは健全だと思います。
ますむら いずれはまた子猫を飼おうと思ったけど、気持ちが切り替わるには1年くらいかかりました。
加藤 それでやってきたのがこの3匹ですね。
ますむら そうです。白黒はシッポが「?」マークみたいに曲がっているからハテナ。三毛は困った顔をしているからコマちゃん。俺と奥さんとでそれぞれ名前を考えていて、せーので発表したら二人とも「コマちゃん」で一致(笑)。この2匹は今年の5月生まれの兄弟。いちばん小さいのは6月生まれで、正面から見た顔がマーモセットみたいなサル顔なんでモンキーのモンちゃんです。
加藤 この猫たちはどこから来たんですか?
ますむら コマちゃんとハテナは、Facebookで知り合った人のところからです。三毛猫と白黒の猫がほしいってネットに書き込んだんです。昔だったら「もらってください」ってすぐに連絡が来たのに、今だと「保護猫団体に行きなさい」になるんですよね。それで調べてみたら保護猫団体だと60歳以上の人はダメって。
加藤 この取材をしているとよくその話題が出ます。保護猫団体の気持ちもわかるんですけどね。あまり厳しくすると誰ももらってくれなくなっちゃう。今は猫も長生きしますから、60過ぎて飼い始めたら、最後まで面倒みられないでしょうってことなんでしょうが、本気で飼う人だったら、自分が死んだ後どうするかはちゃんと考えていますよね。
ますむら そうですよ。厳しい団体があってももちろんいいと思いますが、すべての団体がそれに倣うことはないんじゃないか。お役所じゃないんだから。それで、今回はFacebook経由で。何匹かいた子猫の中からコマちゃんを選んだら、その飼い主さんに「普通の人はなかなかこの猫を選びませんよ」と言われました。俺はモミちゃんと同じ三毛がほしくて、その中にいたのがこの猫だったから選んだだけですが、予想以上に個性的な顔立ちで。長年猫を飼った熟練者でないと手を出さない高度な域だと(笑)。
加藤 この「味」がわかるのは猫熟練者だってことですね(笑)。わかるような気がします。でも、全員美形ですよね。もう1匹のモンちゃんはどちらから?
ますむら 知り合いの団地の敷地内で生まれた野良猫の子です。保護されたときの写真をTwitterに載せて「こんなにあどけない子を野良にしておくわけにはいかない!」って書いたら、「いいね」が3000くらいついてすごい反響がありました。
加藤 ここの庭、木々や花がたくさんで本当に素敵なのですが、こんな素敵な庭のあるこの家でますむらさんたちと暮らせる猫は幸せです。私、猫が飛んだり跳ねたりしている姿をすごく久しぶりに見ました。やっぱり子猫はかわいいなあ。
ますむら 子猫たちは家族以外の人とまだそんなに会っていなかったから、今日ははしゃいでいますね。加藤さんちの猫は何歳なんですか?
加藤 うちは18歳と10歳ですから、もうこんなふうには遊ばない。
ますむら 加藤さんもぜひまた子猫を飼ってください。よし、これでまた子猫を飼ってくれそうな人を一人見つけたぞ(笑)。

言うことを聞かないのが猫の魅力

加藤 ますむらさんと言えば、登場人物を猫のキャラクターにした宮沢賢治作品が有名です。「銀河鉄道の夜」は私も読みましたけど、わからないまま挫折しました。
ますむら あれは私にもわかりません。わからないところがいいんですよ。
加藤 ますむらさんはすごく研究されて、独自の作品にしているじゃないですか。
ますむら いやあ、まだまだです。でも調べているだけでおもしろいですよ。今また新たに宮沢賢治で450枚の作品に取り組んでいるので、いろいろ調査中です。
加藤 それは楽しみです。さあ、そろそろまとめに入りたいんですが、ますむらさんにとって猫の魅力って何ですか?
ますむら 言うことを聞かないところかな。猫は猫で勝手に生きている感じ、憧れですね。人は人間関係で疲れたなと思うことがあるけど、猫は猫関係で悩むこともないだろうし。それに、年老いて死に向かっているときの猫もじたばたしないですよね。いろいろと教えられることが多いですよ。
加藤 最後に、ますむらさんにとって猫とは何でしょうか?
ますむら そんな質問、今までされたことなかったなあ(笑)。そうですね。ひと言で言えば、人間ではない世界からこちらに仕わされた生き物ですかね。自然界からの使者ですね。
加藤 同感です。本当に違う切り口の世界を見せてくれますよね。今日はどうもありがとうございました。子猫がいると、家の中がエネルギーで満ちあふれると改めて感じました。
ますむら だから加藤さんもぜひまた子猫を!(笑)。

◆一筆御礼 ~対談を終えて
 ますむらさんの著書『イーハトーブ乱入記-僕の宮沢賢治体験』(筑摩書房、1998年)は、「銀河鉄道の夜」の“謎解き”に挑戦した本でドキドキしながら読めること請け合いですが、同時に彼の心の奥底に脈々と流れ続けるものが見えてきます。それは、賢治と同じ東北生まれのますむらさんの中にある、賢治と同じだと思える心象風景です。その心象風景に根ざしているのは「自然の中の人間はどうあるべきか」という素朴で真摯(しんし)な問いなのだと思います。ますむらさんの漫画にも、常にその問いがバックにあり、その答えを“人間のような猫”であるヒデヨシが模索しているのです。模索するための空間がアタゴオルで、ヒデヨシは人間と自然との間を結ぶものとしての象徴なのです。だから、かわいくなくても仕方がありません。ますむらさんと暮らしているのは、文句なしにかわいい実在の猫たちで、ますむらさんも普通の「猫好きオジサン」でした。

撮影:橋詰かずえ  
*の写真はますむらひろしさん提供

著者情報

漫画家

ますむらひろし

ますむら ひろし

1952年山形県米沢市生まれ。73年、『霧にむせぶ夜』(週刊少年ジャンプに投稿、手塚治虫賞準入選)で漫画家としてデビュー。宮沢賢治に影響を受け、75年から『ヨネザアド物語』や「アタゴオル」シリーズを発表する。83年からは登場人物を猫のキャラクターに置き換えた賢治の童話作品の漫画化に着手、85年には『銀河鉄道の夜』がアニメーション映画となる。97年、『アタゴオル玉手箱』で日本漫画家協会大賞、2001年、宮沢賢治学会イーハトーブ賞を受賞。米沢市観光大使。
(2016.09)

動物ライター

加藤由子

かとう よしこ

動物ライター、エッセイスト。「ヒトと動物の関係学会」監事。1949年生まれ。日本女子大学卒。大学では生物学(動物行動学)を専攻。移動動物園などを経てフリーライターになる。動物、特にネコの生態や行動学に精通し、ネコに関する書籍などを多数執筆している。ネコ関連の著書に、『雨の日のネコはとことん眠い』『ぬき足、さし足、にゃんこ足』(共にPHP研究所)、『ネコを長生きさせる50の秘訣』(サイエンス・アイ新書)、『猫の気持ちを聞いてごらん』(幻冬舎文庫)、『猫式生活のすゝめ』(誠文堂新光社)、『猫とさいごの日まで幸せにくらす本』(大泉書店)、『猫の気持ちは見た目で9割わかる!』(大和書房)ほか多数。

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