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連載

ため池をつくる<3> 小さなため池 

第10回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 土色だった畑が日を追うごとに緑色に変わっていきます。黄色の丸い点々はタンポポです。その他にも紫色、桃色など、春に咲く花が一斉に顔をそろえました。庭仕事もいよいよ開始。1年のレイアウトを頭に描きながらスコップを持って歩き回ります。

アトリエのれんげ畑で生きものを探す。

 

レンギョウの花は4月に満開になる。

 このアトリエ予定地には、もともと二つのため池がありました。それらは水をためるためだけに機能する農業用のため池です。私は思い切ってこのため池をつくり変えることにしました。結論から言うと、一つは完全に埋めてしまい、もう一つのため池は二つに分けました。原形から比べると二周り以上小さく、水深は50センチくらいで、周囲は土手になっています。ため池をつくり直す時には、ショベルカーなどが活躍しましたが、水生植物の植栽は全て手作業です。池の土手には、友人からもらったショウブやハナショウブを植えましたが、あまり植栽をやりすぎないように注意もしました。私が目標としたのは、ごくごく自然な“不管理なため池”に見えるような池なのです。
 ため池づくりを始めてから2〜3年経過した頃、周辺の土手などの植生がとても豊かになりました。ショウブは、池を包むように繁殖し、植えていないスゲの仲間なども生えてきました。初夏になると、ため池の水面が半分ほど隠れるくらい緑に覆われるようになりました。生きものが利用する池としてはとても理想的な姿です。
 生きものたちの顔ぶれが豊かになったことは言うまでもありません。うれしかったのは、池をつくって早々にトノサマガエルが居着いてくれたことです。トノサマガエルは、大柄なカエルで「お殿様」という名前をもらっているのですが、意外にデリケートです。農薬などで田んぼの水が汚れてしまうと、真っ先に姿を消してしまいます。それと同じような生きものにシオカラトンボがいますが、彼らも見事に戻ってきてくれました。トノサマガエルもシオカラトンボも、一昔前はどこにでもいた一番身近な生きものだったのですが、農地が荒れるに連れてたいへん減少していました。

アトリエのため池に棲むトノサマガエル。

 二つのため池は細い水路でつなげ、オーバーフローした水は、敷地の外に流れるようにしました。この細い水路は水環境を豊かにしてくれたようで、水辺を好む生きものたちの種類が多くなったように思います。
 琵琶湖西岸の仰木(おおぎ)の棚田界隈では、サラサヤンマという珍しいトンボが見られます。サラサヤンマは小型のオニヤンマのような姿で、休耕田や湿地を好んで暮らしています。そうした環境は、微妙なバランスで保たれていて、人が手を入れすぎても、放置しすぎてもなくなってしまいます。環境に敏感なサラサヤンマが、我が家のため池にやって来てくれた時には、「やったー」と思わず声を上げてしまいました。
 小さなため池は、誕生してすぐに、アトリエにとって、なくてはならない存在になったのです。

ため池にやってきたサラサヤンマ。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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