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連載

土手のお祭り騒ぎ

第11回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 新緑が目に眩しい季節です。アトリエの建物は、木々の葉に包まれて、外から全く見えなくなりました。逆に部屋の中から庭の方を眺めると柔らかい光に覆われて、別の世界に自分がいるような気持ちになります。

新緑に包まれるアトリエ。

テンナンショウは、こんなに背が高くなる。

 雑木林、ため池の次に私がこだわったのが土手です。土手というのは、田んぼや畑、農道を区切るための小道のことです。この小道は、平坦な所ではただのあぜ道なのですが、傾斜地になると上段と下段の田畑の高低差の分だけあぜ道の下手(しもて)に斜面ができることになります。これが土手です。
 土手は山間地域になると、とても急峻(きゅうしゅん)で面積も広くなります。有名なのは、佐賀県の蕨野(わらびの)の棚田で、ここでは田畑の利用面積を広くするために、傾斜面を石積みにして垂直に立つ土手を作りました。その高さは、最高で8メートルを超え、こうなると石の隙間に顔を出す雑草を取るのも大変です。農家の人がロッククライマーのような姿で石垣をよじ登っているのを見たことがありますが、これには驚きました。
 海外では、インドネシアのバリ島の棚田もすごい土手です。こちらの方は山がそのまま削られていて、やはり垂直の角度をもっています。場所が熱帯なので草などが茂ってくれますが、こちらも管理が大変だと思います。

 アトリエがある琵琶湖に近い仰木(おおぎ)地区では、比較的穏やかな傾斜が多く、土手はそれほど急峻ではありませんが、それでも私の背丈を超える所も少なくありません。丘陵地や山間地の土手の面積は、田畑には及ばないまでも、農業環境としてはばかにできない広さなのです。
 土手はあぜ道を作っている土台ですが、利用しているのは人間だけではありません。タヌキやイノシシなどの哺乳類も歩きますし、トビやセグロセキレイなどの野鳥も羽を休めます。しかし、一番の利用者は植物たちです。その顔ぶれを見ると、ほとんどがもともとそこに生息していた在来種です。田んぼの土手は適度に湿度があり日当たりも良いので、明るい所が好みの利用者に最高の場所を提供しています。
 そして、土手ならではの利点は、なんと言ってもそこを人間が管理しているということでしょう。米作りの田んぼの場合は、突然、水が張られたり、水抜きがされたり、定期的に堆肥が供給されたり、草刈りやあぜ焼きなどが行われたりします。こうした行為は、自然界で不定期にやってくる洪水や土砂崩れなどの災害の時にもたらされる環境にどこか似ているようにも思えます。環境が急変した場合、生き物たちにいろいろな生活の場を与えることになり、それだけ競争も激しくなります。
 このような土手を巡る生き物たちのお祭り騒ぎに、私はいつも魅了されます。

エノキの葉を食べて育つゴマダラチョウの幼虫。

新緑の頃に多くなるヒメウラナミジャノメ。

*写真の複写・転載を禁じます。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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