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連載

エコトーンをつくる

第13回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 梅雨が終わりに近づき、カラッとした夏はもうすぐです。気の早いニイニイゼミは、雑木の隙間に強い日が差し込むと、チィーチィーと脳裏に染みるような声で鳴き出しています。どうやら、生きものたちにとっては、真夏はすでに始まっているようです。

初夏の庭でガーデニングの仕事をする。

 アトリエを建てる時、敷地内に、雑木林、ため池、土手、畑などをつくり、生きものが集まる庭づくりを目指しました。環境を整える際のイメージとなったのは、撮影をしていた時に出会った優れた里山自然です。その中でも、私が特にこだわったのは、集中的に生きものに出会う場所です。それは、それぞれ性格の異なった環境が隣り合わせになっていて、決して広くはないのですが、自然観察にはとっておきの場所です。
 このように多様な環境の変化が見られる場所は、ナチュラリストたちに「エコトーン」と呼ばれてきました。優れた観察の成果を出そうと思うならば、エコトーンのある場所をたくさん知っておく必要があります。
 こんなふうに言うと、何か特別な場所のように思われるかもしれませんが、他よりもいろいろな種類の鳥や昆虫などが見られるなと感じる場所は、たいがいはエコトーンなのです。雑木林には森の中に棲む生きものがいますし、ため池には水辺を好む生きものがやってきます。畑や土手は草原にいる生きもののすみかです。これらが狭い範囲に同時に見られる環境がいかに大切か、わかっていただけると思います。
 しかし、箱庭のような環境のグラデーションは、近年ことごとく姿を消していきました。生きものに関心がない人にとっては、曖昧(あいまい)で個性のない環境に見えるのかもしれません。また、そうした場所は、人間の生活圏に接していることが多く、開発の対象になりやすかったということもあるでしょう。前にもお話をした通り、なくなりつつある環境を取り戻したいという願望が、私の庭づくりの原動力になっています。

ボタンクサギにやってきたクロアゲハ。

 アトリエの庭は、全体がエコトーンを形成しています。俯瞰的(ふかんてき)に眺めると、雑木林から花が植えてある畑地への環境の変化が見られます。初夏にはブッドレア、ボタンクサギなどの花が一斉に花を咲かせます。そこに夏型の、大型のアゲハチョウたちがやってきます。主な顔ぶれは、クロアゲハ、ナガサキアゲハ、アゲハチョウ、キアゲハ、モンキアゲハ、カラスアゲハなどです。なんとこの界隈(かいわい)に見られるアゲハチョウのほとんどの種類が、1カ所に集中してやってくることになります。これらの蝶は、蜜を吸い終わるとクヌギのはさ木(稲木)が並ぶアプローチをゆらゆらと飛翔しながら、隣接する雑木林の中に入り、木々の葉にとまって休みます。彼らは、性格の異なる環境を使い分けて暮らしているのです。里山にはこのような生きものがとてもたくさんいますから、機会があるごとに紹介していきたいと思っています。
 アトリエのアプローチの道は、蝶たちが吸蜜をする朝夕の時間帯にはさ木が影を伸ばし、そのおかげで半日陰となって美しいグラデーションをつくります。煌々(こうこう)と太陽が照りつける環境から、薄暗い森の中に誘う道でもあります。この並木道をつくって本当に良かったと思っています。

とれたての夏野菜。

庭に咲いたグラジオラスを部屋に飾る。

 

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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