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連載

国蝶・オオムラサキ

第14回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 今年は梅雨が早く明けて、猛暑が続いています。関西は初夏に集中豪雨がありましたが、その後は雨が降らない記録的な高温に見舞われていますので、どうやら異常気象のようです。お米の方は問題がなさそうですが、野菜や果物の収穫への影響が心配です。

夏のアトリエは、ミソハギが咲き乱れる。

 これまで、生き物が集まる庭を目指したいろいろな環境づくりのお話をしてきましたが、今回からはこの庭を気に入ってくれた生き物や植物たちを紹介していきたいと思います。
 まずは、オオムラサキの話をすることにしましょう。オオムラサキは、ご存じの通り国蝶に指定されている、日本を代表するタテハチョウです。成虫は大人の手のひらほどもあり、メスはオスよりも更に一回り以上大きいです。飛び方はたくましく、幼虫が餌とするエノキの梢の間をダイナミックに滑空します。オスの翅の表(おもて)は、青紫色に輝いていますが、この金属色は日本古来の伝統色にも似て品格を感じさせます。

オオムラサキのオスの翅は青紫に光る。

 私のアトリエの庭には、この蝶を棲まわすために計画的にエノキを植えました。エノキは、クヌギやコナラのように林の中に行儀よく交じっているのが好きなタイプではなく、ケヤキのように、広い空間のある所で、のびのびと枝葉を広げます。私は、10年あるいは20年先に木々がどのように成長するかを考えてエノキの幼木を植えました。現在、30年以上が過ぎましたが、その計画はおおむねうまくいったようです。15年前くらいからオオムラサキが産卵し、毎年幼虫が育つようになったからです。
 オオムラサキは、エノキさえあればご機嫌かといえばそうではありません。意外に環境にはうるさいようで、大きなエノキがあっても根元の辺りが乾燥していると駄目なのです。オオムラサキの母蝶(ぼちょう)は、川筋にあるエノキや、背丈の低い木々にある程度覆われている木を選んで産卵しているようです。飛びながら幼虫たちの生育に適した環境を物色している母蝶の観察力には脱帽します。アトリエの庭の場合は、クロモジなどの低木にアケビの蔓(つる)が絡まっている状態をつくったり、ササなどをあえて刈り込まないようにしたり、気を配っています。

エノキの葉を食べるオオムラサキの幼虫。

 もう一つ成功したと思うのは、エノキの幹の周りにスイセンを植えたことです。オオムラサキの幼虫は、秋にエノキの葉が落ちる頃に越冬のために枝を伝って幹のたもとに降り、近くの落ち葉の裏側にペッタリと張り付きます。春までそのままの姿なので、強風が吹いて落ち葉が飛ばされてしまったら、翌春、新芽を求めて幹を登らねばならない幼虫にとっては致命的です。
 そんな事態を防ぐために考えたのがスイセンを植えることでした。スイセンは、晩秋から葉を伸ばし冬から早春にかけて花を咲かせます。群生してまっすぐ葉を伸ばすので、落ち葉を風から守ってくれます。
 ほんの少しの気配りが、生き物によりよい住処(すみか)を与えているのです。

真夏を演出してくれるカンナ。

*写真の複写・転載を禁じます。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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