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連載

秋の始まりを告げる植物

第15回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 夏の暑さが和らぎ、にわかに田んぼが黄色くなってきました。燦々(さんさん)と照りつける太陽の光を浴びて、稲の穂が重そうに垂れ下がっています。猛暑を元気に乗り切った稲を見ていると、稲は熱帯の植物だなとつくづく感じます。

 

お米の収穫はとても楽しい。今年も豊作だ。

 この時期、黄金色に色づいた田んぼの畦(あぜ)や土手に、ひときわ鮮やかな植物が姿を見せます。燃えるような紅色の花を付けるヒガンバナです。琵琶湖の周辺ではどこでも見かけますが、私が子供の頃は今よりもっと群生していたように思います。畦道に赤いベルトをひいたかのように延び、田んぼを彩っていました。学校の帰り道、あまりにも美しいので、茎をポキポキと折って束にして家に持ち帰ったところ、祖母が「この花を家に入れると火事になるから捨ててきなさい」と強い口調で叱ったのを覚えています。なんでそんなに嫌われていたのかよくわかりませんが、毒々しい花の色が炎を連想させるのでしょうか。

ヒガンバナの花は鮮やかで美しい。

 後に知ったのですが、ヒガンバナはもともと日本にあったものではなく、大陸から持ち込まれた植物だそうです。人里に植えられたのは、球根に毒があり、土手を荒らすモグラなどへの対策だとも言われています。また、球根はあく抜きをすると食用になるそうなので、昔の人は重宝したのかもしれません。いずれにせよ、有用植物として日本にやってきて、何百年もかかって里山の住人の仲間入りをしたようです。
 ヒガンバナは、初秋に咲き出すいろいろな在来種の花と同じく、農業環境に歩調を合わせて生きています。稲を収穫する前の草刈りをした途端に茎が伸びだすその姿を見ていると、人の行動を観察しているようにも思えてきます。そのタイミングがあまりにも見事なので、子供の頃、ヒガンバナの球根の中には脳みそが詰まっていて人間の言葉を理解しているに違いない、そんなふうに信じたくらいです。
 ところで、ヒガンバナによく似た植物にキツネノカミソリがあります。こちらの方は在来種で、スイセンのような形の花が集まった姿なのですが、色はオレンジ色で花もやや小さくヒガンバナに比べるとおとなしく感じます。どちらかというと山に近い場所に多く、ほんのりと野生の香りが漂います。琵琶湖の湖西界隈では、昔は普通に生えていたようですが、ここ数十年の間に激減しました。田んぼの圃場(ほじょう)整備などで土が入れ替えられたことが一因でしょうか。農薬にも弱いのかもしれません。

キツネノカミソリは、鮮やかなオレンジ色。

 キツネノカミソリは、ぜひアトリエに咲かせたい花だったので、あちこち探し回りました。もう二十数年前になりますが、撮影に通っていた比良山麓のとある在所の方から、球根をいただく機会がありました。その場所は、棚田の土手にこの花が群生している、今まで出合ったことのない景観で、私は震えるくらい感動しました。
 アトリエの土手に数株だけ植え込んだキツネノカミソリは、ゆっくりしたペースですが増え続け、毎年、目を楽しませてくれます。
 ヒガンバナもキツネノカミソリも、私にとっては秋の始まりを告げてくれる大切な植物です。

キツネノカミソリが咲くアトリエのアプローチの土手。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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