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連載

里山で遊ぶ赤トンボたち

第27回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 田んぼが黄色くなってきたら、今年もいよいよ秋の到来。稲穂を揺らす風はほんのりと涼やかで、肌に心地よいです。
 そんな頃になると、山からアキアカネが降りてきます。アキアカネは春の初め、田んぼの水入れが行われると同時に卵から孵化(ふか)してヤゴの姿になり、早苗と共に田んぼの水の中で育ちます。初夏には青々と茂った稲を上り、羽化してトンボの姿になります。

アトリエの近くの田んぼでアキアカネを撮影する。

 トンボとなった成虫は、しばらくは田んぼの周辺や近くの雑木林などで暮らしていますが、気温が上昇すると山に登り始め、7月から8月の盛夏の間は山頂の涼しいところで過ごします。その頃、体はまだ麦わら色をしていますが、9月になると胸部の色が濃くなって、腹部も赤みを増していきます。
 下山したアキアカネは、黄金色の田園を我が故郷のように飛び回りますが、稲刈りが済んで雨が降り、刈田のあちこちに水たまりができると、そこに卵を産みます。里山で育ち、夏は山の避暑地に移動。なんて優雅なトンボなのでしょう。日本には20種類くらいの赤トンボがいますが、旅をする種類はアキアカネだけのようです。

稲穂に止まったアキアカネ。

 赤トンボの仲間は、私のアトリエ周辺で他にも何種類も見られます。その中で、アキアカネとよく間違われるのがナツアカネ。ナツアカネは、秋になると全身真っ赤になり、アキアカネより赤トンボらしく見えます。複眼のある顔全体まで鮮やかな紅色に染まるのですから、この派手さにはアキアカネも負けてしまいます。

ヒガンバナで羽を休めるナツアカネ。

 赤トンボの仲間で私が特に好きなのはミヤマアカネです。ミヤマアカネは、羽に帯文様を持ったユニークなトンボで、「日本で最も美しい赤トンボ」と称されることもあるほどです。平野部の田園環境に生息していますが、どこにでもいるものではなく、分布はある程度局所的です。
 局所的と言えば、マイコアカネも見られる場所がかなり限られます。アトリエの近くでは、比叡山の麓(ふもと)にある棚田の一角で毎年見かけますが、それ以外の場所で出会うことはありません。マイコアカネの特徴は、その名の通り、京都の舞妓さんのように薄青色のおしろいを塗っているような顔をしていることです。こんなに洒落た名前をいったい誰が思いついたのでしょう。小さな顔を見て、想像力を膨らませた昔の人は本当にすごいと思います。
 赤トンボの仲間の多くは、里山や平野の田んぼにすんでいます。田んぼが整備されると、ため池や側溝がなくなりますし、田んぼが放置されると土が乾燥して、赤トンボたちはすめなくなってしまいます。
 愛らしい里山の住人が安心して暮らせる環境が、これからも続いてほしいものです。

羽に帯文様を持つミヤマアカネ。

*写真の複写・転載を禁じます。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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