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連載

オニユリをめぐる動物と人間の関係 

第26回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 雑木林の梢(こずえ)から、木漏れ日が小さな光の粒を放っています。木々に囲まれているとひんやりとした風が肌をなで、熱風にさらされている田園のことを忘れてしまいそうです。
 8月になるとアブラゼミの声が日に日に強くなり、一方、ニイニイゼミはぱったりと姿を消してしまいました。蝉の声は、気付きにくい微妙な夏の移ろいを確実に教えてくれます。

灼熱の太陽の下、アトリエの庭に夏の花が咲いています。

 そんな頃、アトリエの庭ではオニユリが艶やかに咲いています。大人の手のひらほどもある橙色の花はとても豪華です。背丈も私の肩ほどもあってよく目立ち、夏を彩る花としてはとても貴重な存在です。
 30年以上前まで、オニユリは田んぼの土手や河川沿いの茂みの中にごく普通に咲いていました。私の印象では、ヤブカンゾウと共にそれほど珍しい植物ではなかったように思います。激減したのはここ10年くらいでしょうか。姿を消した原因は田んぼの整備だと言われますが、大きなダメージをもたらしたのは、里山の手入れが行き届かずに森が荒れ、里に降りてきたイノシシやシカの食害のようです。イノシシは土を掘り起こしてユリ根をたいらげ、シカはオニユリの葉やムカゴの部分を好んで食べます。葉も根もおいしいオニユリは狙い撃ちにされて、とうとう世代を受け継げなくなってしまったようです。

鮮やかな橙色のオニユリはとてもよく目立ちます。

 以前、知り合いからもらったヤマユリの球根を植えていた頃があり、数年は美しい花を咲かせてくれたのですが、イノシシに見事にやられてしまいました。ヤマユリの球根は匂いがするのか、鼻を利かせて嗅ぎ付けてイノシシはやって来ます。ユリの仲間の球根・ユリ根は人間も食べるほどですから、イノシシにとっても栄養価の高い食料なのでしょう。
 ついでに言うと、5月頃から花を咲かせるササユリもイノシシの犠牲になっている植物の1つです。このユリも私が子供の頃には雑木林の周辺などによく見られ、決して珍しい植物ではありませんでした。
 でも、そんな光景は昔の語り草になってしまったようです。先日、保護地区に指定されたとある湿原を訪れた時のこと。そこのササユリはシカが全て食べてしまい、一時は絶滅しかかったそうです。そこでやむを得ず、茎ごとに円筒形にした金網が巻かれることになりました。ササユリの背丈は大人の腰くらいありますので、ゴミ入れのような網の筒が木立の中に無数に散らばりました。湿原を管理されている方によると、登山者にはかなり不評ということですが、その気持ちは分かります。
 ユリの仲間は、ダイナミックで香りも強く、夏を象徴する植物です。そんな美しい花が獣害によって見られなくなるのは実に惜しいです。森が整理され、里山の生態系が生き返り、イノシシやシカと人間の良い関係が戻ってくることを願うばかりです。

ヒマワリは、昨年の種がこぼれてひとりで育ってくれました。

ブッドレアの花に夏型のキタテハがやってきました。

*写真の複写・転載を禁じます。

 

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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