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連載

ダイナミックな大食漢 〜タガメ

第48回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 湿度が高い季節になりました。雨でしっとりと濡れた植物は深い緑色をしていて、独特な味わいがあります。光もやわらかく感じるので、とても心が落ち着きます。
 アトリエの庭の池は、ショウブをはじめとするいろいろな水草で覆われています。茂みの隙間を覗き込むように視線をはわせると、水面が光っています。カエルなどがうごめいているのでしょうか、時折小さな波が立っています。

めいすいの里山にある水辺の生きもののための湿地。

 梅雨時のそんな水面を見ていると、タガメを撮影していた頃のことを思い出します。タガメは今では絶滅危惧種になるほど珍しくなりましたが、30年以上前までは、「光の田園」でよく出会いました。休耕田などに水が溜まっていると、10匹、20匹と捕獲できることも珍しくありませんでした。
 タガメは、体長6〜7センチメートルもある大きな水生昆虫です。肉食性でカエルや小魚などを捕食します。孵化してから脱皮を繰り返して大きくなるのですが、小さな幼生の時はユスリカなどを食べ、次はオタマジャクシというように、体の成長に合わせて獲物も大きくなります。
 成虫は立派なトノサマガエルやイモリを捕まえたりするのですが、そのアクションはとても迫力があります。鋭い爪のある前足でタガメがカエルを抱きかかえた時、驚いたカエルが思いっきりジャンプして、タガメも一緒に跳んでいったことがありました。それでも一度捕まえた獲物を離すことはありません。それは、まるでサバンナの動物の世界、弱肉強食の世界を垣間見たようでびっくりしました。

トノサマガエルを捕らえたタガメ。

タガメの成虫。大きな前足は迫力満点!

 タガメが少なくなったのは、このダイナミックな大食漢という点に原因があるようです。数十年前から光の田園のある仰木から伊香立(いかだち)にかけて田んぼの形が変わりました。圃場(ほじょう)整備事業が始まって田んぼの区画が大きくなり、曲線だった畦道(あぜみち)が直線になりました。それだけでなく、水路がコンクリートになり、水は川からポンプアップされるようになりました。こうなると雨水や溜め池に頼らなくてすむので、春から夏にかけての稲の成長期以外は水をなくしても大丈夫になりました。それまでの、田んぼの側溝にいつでも水が溜まっていた頃に比べると大きな環境の変化です。残念ながらこの変化によって、カエルや小魚など水辺の生きものが激減しました。餌がなくなっては、タガメは生きられるわけがありません。
 タガメを見なくなって久しいですが、現在、里山や農地の再生を進行している「めいすいの里山」「オーレリアンの丘」には、タガメが大好きな湿地をつくりました。きっとここにはタガメが戻ってくるに違いありません。これらの場所では、里山にすむ生きものを記録する「里山めいぼ」を作るために、生き物観察会を時々行っていますので、ぜひ参加してください。果たして、タガメとの再会の喜びをものにするのは誰でしょうか?

※生きもの観察会の詳細は「めいすいの里山」や「オーレリアンの庭」のホームページやツイッターなどでお知らせします。

オーレリアンの丘で湿地をつくっているところ。(撮影:今森元希)

*写真の複製・転載を禁じます。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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