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連載

息を呑む造形美 〜セアカオサムシ

第62回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 肌を刺すような強い太陽の光が降り注ぎます。アトリエの雑木林は木々の葉に覆われており、茂った葉が日陰になって薄暗くて涼しげですが、かんかん照りのガーデンエリアの植物たちは、葉をうなだれてちょっと苦しそうです。アプローチの道は、雑木林とガーデンの境に沿って続くので、午後からは片陰状態。稲木が適度に影をつくってくれてなかなか快適です。

片陰になったアトリエのアプローチ。(撮影:今森元希)

 この頃、早朝や夕方に元気に歩き回る甲虫を目にします。オサムシたちです。オサムシは甲虫の仲間なのですが、ほとんどの種類は飛ぶための後ろ翅(ばね)がなく、地上を徘徊して暮らしています。そんなことからオサムシのことを「歩行虫」と呼ぶ人もいます。
 アトリエの敷地内にも何種類かが生息していますが、ほんの少し足を伸ばすだけでとても美しいオサムシに出会えます。アトリエのすぐ下を流れる天神川沿いの河川敷にいるセアカオサムシです。
 セアカオサムシは、雑木林の中を好むほかのオサムシとは習性が異なり、開けた草地に棲んでいます。それもただの草地ではなくて、少し地肌がむき出した荒れ地とも砂地とも言えないような微妙な環境が好きなのです。そうした場所は今では大変少なくなってしまったので、セアカオサムシを発見するのは簡単ではありません。県によっては、絶滅危惧種に指定しているところもあります。

セアカオサムシが見られる天神川流域。(撮影:今森元希)

 セアカオサムシの魅力は、何と言っても造形美です。鈍く輝く錆色の体は金属的で、まるで銅でできているようです。驚くのは、前翅の立体的な模様です。光沢のある楕円形のしずくのような膨らみが飾り物のように並んでいます。この美しさを見たら誰もが息を呑み、言葉を失うことでしょう。中国からヨーロッパにかけてもたくさんのオサムシがいて、神様の玩具としか言いようのない豪華な姿をした種類も少なくありません。しかし、このセアカオサムシを見ていると、それらに負けていないなといつも思います。

とても美しいセアカオサムシ。(撮影:今森元希)

 オサムシは夜行性のものが多く、昼間に出会うことは稀です。でも、飛翔できないという弱みを狙って、落とし穴トラップで捕らえることができます。紙コップのような口が広くて深さのある容器を地面すれすれに埋めて罠を仕掛けます。コップの中には、オサムシの好きなものを入れるのですが、肉片や金魚の餌、ふりかけなど、オサムシファンたちはそれぞれに工夫しているようです。
 このようにオサムシは落とし穴に弱い昆虫なので、最近多くなったコンクリートU字溝に落下したら命取りとなります。セアカオサムシの生息する河川に近い場所でも、このU字溝を頻繁に見かけるようになりました。果たしてこれからどうなるのでしょう。
 この美しい昆虫にとって棲みやすい里山が維持されることを祈るばかりです。

真夏の光の田園を眺める。(撮影:今森元希)

*写真の複製・転載を禁じます。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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