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連載

晩秋のお花畑 〜ソバ

第77回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 空気がひんやりとした日が続くようになってきました。雑木林ではヤマウルシの紅葉が終わって、クヌギやウリハダカエデが色づき始めています。11月は一気に紅葉が進むので、季節の移ろいの楽しみは瞬く間に過ぎ去ってゆきます。
 この時期、林の中を乾いた風が通り抜けます。林の空間は乾いていて、落ち葉がサラサラと音をたてて耳を楽しませてくれます。里山で一番気持ちの良い季節は、秋の終盤のこの時かもしれません。

少しずつ色づき始める11月初め頃のアトリエのアプローチ。(撮影:今森元希)

 そんな頃、お天気が良い日を見計らって、私はよく滋賀県の湖北地方を訪れます。山裾は刈田の風景が広がっているのですが、この時だけに見られるお花畑があるのです。それは、ソバの花畑。満開になると白い絨毯のようで壮観です。赤花のソバもあるので、その時は赤い絨毯になります。
 蕎麦は信州を訪れた時によく食べました。道沿いに点在する蕎麦屋さんは必ずチェックして、昼食時になると駆け込んだものです。中部地方や東北地方にはおいしい蕎麦屋さんが多いのでうらやましい限りです。
 ソバは水はけの良い荒れ地を好む性質があり、私のアトリエがある仰木(おおぎ)地区(滋賀県大津市)では育ちにくいのが残念です。土地全体が粘土質なので、水はけが良いとは言えません。その代わり田んぼを作るには好都合のようで、棚田の土手も石垣を作らなくても、土の粘性だけで持ち堪えてくれます。水はけの悪さは、ハーブなどにも適しておらず、もし栽培をするなら土壌改善が必要になってきます。

滋賀県高島市にあるソバ畑。(撮影:今森元希)

 湖北地方まで行くと河川敷が多くなり、水はけが良くて昔からソバがよく植えられます。この辺りで最も有名なのは、伊吹山の裾野にある蕎麦屋さんでしょうか。ここでは、奈良時代にはすでにソバが食べられていたと言われています。この地で採れる辛味大根ととても相性が良かったのかもしれません。
 さらに、歌人・在原業平の縁の地とされるマキノ町には、「業平蕎麦」の看板を掲げるお店もあります。痩せた土地でも元気良く花を咲かせるソバは、大昔から大切にされてきた植物のようです。
 そして、ソバの花にはいろいろな昆虫がやってきます。ハナアブ、アシナガバチの仲間、キタテハやアカタテハなどがひっきりなしにお花畑を飛び交っています。どれも成虫で越冬する昆虫ばかりなので、花の少ない晩秋には、とても貴重な蜜源になっていることは確かです。
 ソバのおいしさを楽しんでいるのは人だけでなく、生きものたちも存分に味わっているようです。

ソバは、小花がいっぱい集まっている。(撮影:今森元希)ソバ畑の脇に咲く彼岸花。(撮影:今森元希)

 *写真の複製・転載を禁じます。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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