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連載

ドングリの季節 〜ハイイロチョッキリ

第76回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 今年は残暑が長く続いていますが、秋は確実に進行しているようです。比良山地(ひらさんち)の山面(やまづら)は、木々の葉の色づきとともに鮮やかになってきました。アトリエの雑木林では、ドングリがコロコロと音を立てて落ちてきます。建物の屋根に落下した時は「カラン」という大きな金属音を響かせるので、思わず天井を見上げてしまいます。
 ドングリといえば、この実を楽しみにしている昆虫がいます。それは、ハイイロチョッキリ。小指の爪にも満たない小さな甲虫で、膨らんだばかりのまだ緑色をしているコナラやクヌギのドングリに産卵します。ドングリを目当てにしている甲虫には、シギゾウムシの仲間もいますが、ハイイロチョッキリは全身に長い毛を持っているのが特徴です。

ハイイロチョッキリの口は細長い。(撮影:今森元希)

 さらにハイイロチョッキリにはちょっと面白い習性があります。若いドングリに産卵した後、その実が付いている枝ごと噛み切って地面に落としてしまう仕事人なのです。コナラの場合は、ドングリと葉の付いた枝がまるで剪定でもしたように切り落とされます。その枝はとても美しく、押し花にしたくなるようなバランスを保っています。
 それにしても、結構太い枝をよくもこんなに小さな虫が切れるものだと感心しますが、ハイイロチョッキリの顔をアップで見ると細長く湾曲した口の先には鋭い歯がありますし、ギザギザの模様もあってノコギリのようにも見え、道具を備えたプロの仕事なのだと納得してしまうのです。

ハイイロチョッキリに切り落とされたコナラの枝。(撮影:今森元希)

 ハイイロチョッキリの落とし物が一番目につくのは、アトリエのアプローチです。ここは片側が雑木林になっていて、クヌギやコナラが道を覆うように茂っています。
 数年前のこと、数日ぶりにアトリエに来た時、私は「あっ」と声を上げてしまいました。門を開けると、玄関に続く道にクヌギの小枝がびっしりと落ちているではありませんか。小枝には若いドングリと何枚もの葉が付いて、長いものは30センチほどもあります。けっこう大きな枝です。あまりの量の多さに、人のいたずらではないかと疑いを持ったほどです。しかし、これも間違いなくハイイロチョッキリの仕業でした。どうやらこの年は大発生したようです。

ハイイロチョッキリが多いアトリエのアプローチ。(撮影:今森元希)

 落下したドングリをかき集めておくと、やがて実の中で成長した幼虫が出てきます。このウジ虫型の幼虫は、昔は魚釣りの餌に使われたようですが、そのままにしておくと、土の下に潜って蛹(さなぎ)になり成虫になります。
 毎年、ドングリの付いた小枝がひらひらと梢(こずえ)から舞ってくると、今年も秋がやって来たなと感じます。

紅葉しだした比良山地。(撮影:今森元希)

*写真の複製・転載を禁じます。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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