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連載

草原性の蝶 〜キアゲハ

第107回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 木々の緑が美しい季節がやって来ました。アトリエの敷地内で一番芽吹きが遅いエノキも、5月になってやっとみずみずしい葉を広げ、みんなに追いついた様子です。ため池では、キショウブの花も咲き始めました。

キショウブの花が咲き始めた5月のアトリエ。(撮影:今森元希)

 こんな頃、アトリエのガーデンエリアを元気よく飛翔する蝶がいます。それは、キアゲハです。ナミアゲハとよく似ていますが、キアゲハは黄みがかったクリーム色の部分が広がり、より明るいイメージがします。よく観察していると飛び方も違うことがわかります。ナミアゲハは、どちらかというと林縁に沿って飛翔していて、吸蜜の時もアトリエの雑木林の脇にあるツツジなどの花に好んでやって来ます。一方、キアゲハは、日が燦々(さんさん)と照りつけるガーデンエリアが大好きで、飛び方も直線的でのびのびとしているように感じます。
 キアゲハは北米大陸やヨーロッパなどにも広く分布していて、西洋の古い昆虫図鑑には、真っ先にキアゲハが登場します。チョウの種類が少ない北方地域では大型のキアゲハは人気者で、世界的に見ても認知度が高い蝶であることがうかがえます。

西洋の昆虫図鑑には、キアゲハが必ず登場する。(撮影:今森元希)

 5月に現れるアゲハチョウの仲間は、他にクロアゲハやモンキアゲハなどがいますが、彼らはナミアゲハと同じく林縁がお気に入りのようです。これらアゲハチョウの仲間の幼虫のほとんどがミカン科の植物の葉を食草としていますが、キアゲハだけはセリ科の植物の葉を食べます。キアゲハの仲間ももともとはミカン科を食べていたのですが、長い年月をかけて食性転換したようです。セリ科は草本(そうほん)で背丈が低いものがほとんどですから、キアゲハが雑木林の中よりも広々とした田園を好んで飛んでいるのは、このことと関係しているのかもしれません。

誕生したばかりのキアゲハ。(撮影:今森元希)

 ナミアゲハの幼虫はミカンやサンショウの葉を食べるため、一般的に嫌われることが多いようです。キアゲハも同じで、人にとって有用なパセリやニンジンはセリ科植物ですから、農家の人にとっては大敵となります。初夏になると、ニンジンの葉に黄緑色の地に黒い縞模様をもった美しい幼虫が見られますが、それがキアゲハの幼虫です。
 好奇心からその幼虫を持ち帰り、飼育して蝶を羽化させた人も多いのではないでしょうか。キアゲハの飼育はとても簡単で、飼育ケースに入れて飼いますが、少しくらい葉がしおれても平気で食べてくれます。乾燥に強いのは、草原性の証でしょうか。
 アトリエの庭で遊んでいるキアゲハたちは、今年も水路に生えるみずみずしいセリやドクゼリの葉に卵を産み、のびのびと過ごしています。

縞模様が鮮やかなキアゲハの幼虫。(撮影:今森元希)

*写真の複製・転載を禁じます。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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