imidas - 情報・知識&オピニオン

連載

プロゲーミングチームは「家族」だ

第3回

百地裕子(プロゲーマー)

 もちろん、海外大会出場のための交通費や宿泊費はチームが全額負担してくれましたし、そこで獲得した賞金も全額自分の収入になりました。ですが今から6年前は、アメリカの格闘ゲーム大会ですら優勝賞金が10万円とか、多くても30万円程度しかなかったので、賞金だけで日々を暮らすには厳しい環境でした。ちなみに17年はと言いますと、格闘ゲーム「ストリートファイターV」(カプコン)だけでも優勝賞金100万円程度の大会が国内外で年18回ぐらいありますし、年2回開催される世界大会で優勝すれば一つは600万円程度、もう一つは2000万円近い賞金が獲得できるのです。

 それぞれのタイトルが昔以上に盛り上がっているかどうかは別として、市場の盛り上がりや環境としては……すごい時代になったものです。

Evil Geniusesとチームメイトたち

 私がEGに所属していた頃は、Alexander Garfield(アレキサンダー・ガーフィールド)さんがチームのオーナーでした。彼はいつも「チームは家族である」「選手たちのことを何よりも大切に思っている」と言っていました。ですから、EGの営業スタッフやマネージャー、その他のスタッフたち皆がとても優しくしてくれました。

 私がアメリカの大会に行った際は、チームメンバーたちやスタッフたちがよくディナーパーティーを開いて、親睦を深めてくれました。日本人のチームメンバーは当時、私と〈ももち〉だけだったのですが、彼らはいつも素敵なおもてなしをしてくれました。EGに在籍していた頃は、よく周りからも「ファミリー感の強い、いいチームだ」と言っていただきましたが、まさしく私たちはファミリーであったと言えるでしょう。

 私が最も尊敬するプロゲーマーの一人であるアメリカのJustin Wong(ジャスティン・ウォン)選手も同じEGのチームメイトだったのですが、彼は私たちよりも数年早くからプロゲーマーとして活躍しており、アメリカ国内で超有名な選手でした。そんな彼は、私がまだプロゲーマーになりたてで悩んでいた頃、いつも素敵なアドバイスをくれました。また、陽気で明るくフレンドリーなムードメーカー、〈PR Balrog〉ことEduardo Perez(エデュアルド・ペレス)選手は、私たちがアメリカに2週間滞在する必要があった際、快く自宅に泊めてくれ、時には緑茶を買ってきて「アメリカ食に疲れていないか?」と気遣ってくれたり本当に優しかったです。

 後日、彼らが日本へ来た時は、わが家に泊めたり、レンタカーを借りて空港への送迎をしたり、とにかく精一杯のおもてなしに努めました。そして私たちチームメイトは皆いつも、オーナーの言葉「チームは家族である」を大切にしていました。

 そんなこんなでチームメンバー同士はもちろん、スタッフとも本当に仲が良かったです。私はEGというチームが本当に好きでした。移籍した今でもEGが好きだし、チームメイトだったメンバーのことも大好きです。彼らも「チームが変わっても、僕たちはいつまでもファミリーだよ。何があっても僕は君たちに協力したいと思っているから、何かあればいつでも相談して欲しい」と言ってくれ、今でもとても仲良しです。

 私と〈ももち〉が日本で設立した「忍ism」という組織も、たまに「ファミリー感がある」と言っていただけることがあるのですが、それはきっとEG時代のチームメイトやオーナーの考え方に影響を受けているからかもしれません。

家族的なプロゲーミングチーム「Evil Geniuses」

Echo Foxへの移籍理由とは

 2017年1月1日から、私と〈ももち〉はアメリカのEcho Foxというチームに移籍しました。現在のEcho Foxは、北米の男子プロバスケットボールリーグNBAの元プレーヤーRick Fox(リック・フォックス)氏がオーナーとなって、16年初頭に発足したばかりのプロゲーミングチームです。新しいチームとはいえ、何せオーナーが超人気の元プロバスケットボール選手ですから知名度は申し分ないですし、何より素晴らしい選手が大集結したチームなので、17年には既に2年目とは思えない程の人気をe-sportsシーンの間で誇っています。所属プロゲーマーは約50人。スタッフは15人程度です。ロサンゼルスのビバリーヒルズにオフィスとシェアハウスを構える、どデカいプロゲーミングチームです。

 なぜ私と〈ももち〉が大好きだったEGからEcho Foxへ移籍したかと言いますと、16年の末にとても慕っていたAlexander Garfieldオーナーがチームを離れることになり、EGに大きな転換期が訪れたことがきっかけです。私も〈ももち〉も、かねてから「変化すること」を目標に掲げて活動しており、ちょうど「変化が必要」だと考えていた時にEcho Foxから「うちへ来ないか?」と声が掛かりました。契約更改ギリギリのタイミングで、悩んだ末の決断ではありましたが、私たち自身も変化して、新たなチームで挑戦してみるにはいい機会だと考え移籍を決めました。

 約6年所属し、私たちをプロゲーマーとして成長させてくれ、プロゲーマーとしての基礎を作ってくれたEGというチームを離れるのはやはり勇気のいることでした。が、私たちの出した答えに対してEG側も「君たちの新たな挑戦を応援するよ、家族だからね」と快諾してくれました。

 

「Echo Fox」のリック・フォックスオーナー(中央)

今だから言える移籍騒動の経緯

 こうして私と夫の〈ももち〉は、16年末にEGを脱退することを発表しました。Echo Foxに移籍することが発表されたのが17年1月4日でしたので、脱退発表から移籍発表まで空白の期間が生じてしまい、ネット上では「〈チョコ〉がプロゲーマーをクビになった!」とか、「日本女性初のプロゲーマー弱すぎてクビになる!」などという、事実とは異なる実に香ばしい(かつ明らかに悪意のある)臆測記事も飛び交いました。本人的にはとてもいい迷惑でしたけど(笑)、そういった記事をニコニコと笑顔で眺めながら、移籍発表の情報解禁を迎えることになりました。

 当時、事実とは異なる記事を必死にまとめていただいたり、熱いコメントをいただいた皆さん、守秘義務や契約の関係で本当のことが言えずにすみませんでした!(笑)  何より空白の期間中、本当に心配して下さったファンや周囲の方々には改めてお礼を言いたいです。

 このように16年12月には、すでにEGとEcho Foxの両チームとの交渉が進んでいて、話し合いも決着していましたから、移籍が決まってからの脱退発表だったというのが本当のところでした。が、その一方で、私たちは「プロゲーミングチームをクビになった」と、ファンの皆さんに思われるのも仕方ないなぁとも思っていました。なぜなら、それまで日本ではプロゲーマーが所属チームから抜ける理由は、「チームから解雇される」か「チームそのものが解散する」ぐらいしかなかったからです。海外においては「移籍」という選択肢があることを、皆さんが想像できなかったのも無理ないですよね。

 さて、そんなわけで私は今日もEcho Fox所属プロゲーマーとして、現役バリバリでお仕事をしているわけですが!……今回の「プロゲーミングチーム」についての話はいかがでしたでしょうか?

 私にとっては「当たり前」になってしまっていることが多いので、皆さんがプロゲーマーやその周辺のことについて、どのような疑問や関心をお持ちなのかを想像するのがかえって難しかったりもします。なのでもし機会があれば、こんなことが知りたい、もっとこんな話を聞いてみたい、というご要望や感想などをお聞かせいただけたらうれしいです。

 それではまた次回。

著者情報

プロゲーマー

百地裕子

ももち ゆうこ

1986年、兵庫県生まれ。中京大学体育学部卒業。2008年より対戦格闘ゲームを始め、国内大会でトップゲーマーに勝利して知名度を獲得。愛称は〈チョコブランカ〉。11年にプロゲーミングチーム「Evil Geniuses」(本拠地・アメリカ)からスカウトされ、日本人初の女性プロゲーマーとなる。17年には北米のプロゲーミングチーム「Echo Fox」に移籍。夫は同チームに所属するプロゲーマーの〈ももち〉こと百地祐輔。世界初の現役プロゲーマー夫婦として、15年に株式会社忍ismを設立。「ゲームと人を繋げる」をモットーに、世界で活躍できる後進の選手育成、ゲームコミュニティーを盛り上げるためのイベントの企画・運営に携わる。

関連記事

新着記事

imidasの更新情報をお届けします。