“変人”右翼が尖閣に行く理由
木村元彦(ノンフィクションライター、ビデオジャーナリスト)
なぜこれほど憑かれたように尖閣上陸にこだわるのか。市議会議員の活動の枠を大きく外れているのではないか。かつて中山義隆石垣市長も「私としては国の許可を取った上で尖閣諸島へ上陸したいと思っています。ですから仲間市議の活動を支持というわけにはいきません」と語っていた。
この問いに仲間はこう答えた。「現場に行かなければ、海域を領有しようとする中国の本当の野望は分からない。止められても行かなければ、中国船におびえる石垣の漁民の本当の声を伝えることはできない。それらは本島や内地にほとんど知られていないのです」
政府が渡航するなと勧告した危険地域に、粛々と足を運び続けるジャーナリストの姿勢とシンクロする。
さらには「公約だからです」とも言う。
1994年に市議に立候補した際のマニュフェストは「実際に尖閣に上陸して調査してそれを国に伝える」というものであった。仲間は毎回、滞在中に、島外から持ち込まれて野生化したヤギの繁殖状況と、それが生態系に及ぼす影響を調べている。その姿勢は、尖閣に上陸したという事実のみを自身の政治プロパガンダとして喧伝する政治家とは一線を画す。
非暴力・直接行動で環境調査も行い、加えて反原発という理念は、国際環境NGOのグリーンピースと同じではないか、という問いは否定した。
「いえ、違うと思います。僕は行政区域上の問題意識から行動しているんです。尖閣については、これまで国に対して、漁民のための避難港や無線基地の建設、島内の生態系の保護を何度も要請してきました。石垣市の行政区域としての尖閣諸島に対する固定資産税の調査も行うべきです。しかし、誰も動かない。それなら、手をこまねいているのではなく、自ら上陸して問題提起すれば、誰かが動くだろうというのが、僕の考えです」
尖閣諸島をめぐり、石垣島と国とで認識に大きなギャップがあるのは厳然たる事実である。衝突事件直後の2010年10月、石垣市議会は固定資産税の課税調査などを目的に、全会一致で尖閣諸島への上陸を求める決議をし、国に要請した。しかし、2011年1月7日、政府は「これまでも上陸調査をせずに課税している」などの理由をあげて上陸を認めない回答を出している。国のダブルスタンダードは明確である。
市民の生活に右も左もない
意外なことに、仲間はこれら自らの活動の動機を語るとき(靖国神社を参拝した友人からもらったという菊の紋章のバックルを使ったベルトを愛用する男であるにもかかわらず)、いわゆる「愛国心」をその理由にしない。
「1968年10~11月に、国連のアジア極東経済委員会が調査した結果、東シナ海大陸棚、周辺海域において、膨大な石油が埋蔵されている可能性がある、という指摘があった。それを受けて、中国は目の色を変えるわけです。それまでは、中国も台湾も尖閣というのは知り得なかった。
石垣島は今現在、2万4473世帯、人口4万9480名(18年10月)。その半分が生活に困窮している。国民健康保険も破綻しかけているし、離婚率も県内ワーストクラス。しかし尖閣周辺から石油が出れば、石垣の財政が潤って、県税、市民税はゼロになる可能性だってある。だから尖閣にこだわるのは何も愛国心からではないんです。石垣市民の生活が楽になればいいという思いだけ。
僕のことを右翼だと批判する人もいますが、共産党議員であろうと、この問題としっかりと向き合ってくれるのなら、一緒に視察に行きますよ。市民の生活に右も左もないではないですか」
右翼か左翼かというイデオロギーの括り方で仲間を判断しようとすると見誤る。先述したように仲間は原発に反対している。
「自民党政権が原子力政策で原発を推進したのはよくなかった。沖縄なら太陽光と風力の発電で十分まかなえます」
文部科学省が福島第一原発事故後、子どもの年間被爆量の基準値上限をいきなり20ミリシーベルトに引き上げたときも、何の根拠も保証もないと憤慨していた。
東京都による尖閣諸島購入計画
その活動は常に一匹狼のスタイルを崩さずに行ってきた。日本会議からも、繰り返し入会の誘いを受けながらも断り続けている。故にその言動は組織や政局、政情に左右されない。
筆者は2012年に石原慎太郎都知事(当時)が、東京都が主体となって尖閣諸島を購入するという計画を発表した際、即座に仲間に問い合わせた。これは一体どういうことなのか? 地元ではどう見ているのか? 仲間は即答した。
「都知事のスタンドプレーです。地元では誰も反応していません。これは実現しませんよ。僕はそもそも石原慎太郎という政治家を信用していない」
かつて仲間は、石原の依頼で彼を尖閣へ案内したことがあった。ところが、いざ手配した船で島に接岸しようとなったときに石原はこれを拒否してきた。
「4.8トンの小さな船ですから、船べりよりも波が高い。それで、こんな船では島に近寄りたくないと言ってきたんです。結局彼は上陸していないんですよ」
尖閣購入計画はその後、仲間の予想したとおり実現には至らなかった。石原の発言自体、いたずらに中国を刺激し、日系企業に対する襲撃やデモを引き起こして、日本経済に大きな打撃を与えた。東京都は尖閣諸島購入のために寄付金を募り、14億円が集まったが、元来が国の専管事項であるため、実現しなかった。最終的には国が買い取り、寄付金は宙に浮く。領海には中国公船が以前にも増して姿を現すようになり、石垣島民にとって何ひとつ良くなることはなかった。
石原は、尖閣を愛国の象徴としてのみ利用して、政治家としての求心力を得ようとしたに過ぎなかった。そこに地元の漁民に対する目配りなどない。
「東京都が買うなんて、僕は最初から反対でした。本来は、国から石垣市に払い下げすべきです」と仲間はかたる。
政府を警戒しても、人と文化を憎みはしない
では昨今の日中関係について、現場ではどう感じているのか。海上で中国漁船と渡り合ってきた仲間の見立てによれば、領海のボーダー付近での友好ムードは出てきているという。
「常に、隙あらば領有を狙う怖さを感じさせる国ではありますが、最近は変わってきました。南小島と魚釣島の間にいつもいた船が、僕が行くといなくなるんです。僕が乗っていると知っているかはどうかはわかりませんが。遠目ながら、船員が笑顔を見せることもあります」
友好ムードを感じさせる動きはほかにもある。今年(2018年)の8月5日、仲間は17回目の上陸を果たそうとしていた。しかし、出航する直前に防衛省、海上保安庁が事務所に来て、今回だけはやめてくれないかと懇願されたという。
「行かないと決めた1週間後に、今度は中国漁船の出航を中国政府が止めたという情報が入ってきました。おそらく外交交渉だったんでしょう。中国が、日本の漁船を出航させないでほしい、その代わりに中国の漁船も出させないから、と止めに入ったんだと感じました。中国政府も日本政府と仲良くしようと言う意図が見えますよ」
冒頭で述べたように、仲間は中国政府の脅威を語っても、嫌悪を語ることはない。友好的な動きが見られれば率直に評価する。今、沖縄本島でも発せられ始めている、中国に対するヘイトスピーチやフェイクニュースのことも、徹底的に嫌っている。
「今の友好ムードの中でも、中国はだめだとか、沖縄の人はよく言うんですけど、むしろ沖縄は、昔から中国と一つの文化をお互いに共有してきた歴史がありますから、中国の国民に対して、日本国民、沖縄県民、琉球人としては、僕は愛するものがあると思っているんです。僕は空手をやっているんですけど、それもまた中国から入ってきた文化です。空手の型の名前は、多くが中国の武術家の名前に由来するといわれています。クーシャンクーとか、ワンシューとか。中国のこの人に教わったからと、尊敬の意味でつけたんです。そういう例がいくらでもある」
こういう話をしながらもバーガーショップの隣席にいるのが、中国人であることを意識して言葉を選んでいる。
歴史と現場を知る。だからこそ、尖閣海域での脅威には警鐘を鳴らすが、中国が沖縄を攻めてくるという言説は一笑にふす。
「そうなったら戦争じゃないですか。ありえませんよ」
仲間の本意を知ってか知らずか、尖閣上陸を続けることで耳目は集まり、そのことで利用されたこともある。講演に招かれた団体で「仲間先生のために船を買おう」という募金の呼びかけがあった。カネは集まったようだが、一銭も仲間のもとには払われなかったという。
「尖閣諸島を守る会」は慢性的な資金難にある。それでも愚直に尖閣諸島を目指す。次は年内に上陸することを宣言している。
