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連載

第12回 広島

前野健太(シンガーソングライター/俳優/エッセイスト)

 ガラケーポッケに突っ込んで
 旅すりゃ思い出増えていく
 あの街この街すれちがい
 すれたぶんだけ歌になる

 海に行けば海の歌
 山に行ったら山の歌
 あの娘に会ったらそれまでよ
 今日もガラケー 旅日記

 この「ガラケー旅日記」の青森の回に登場した「フォーション」。その喫茶店が歌となって収録されたアルバム『営業中』が、今年の夏にリリースされた。8枚目のアルバム。最初のアルバムが2007年だから、17年で8枚。のんびりな活動ペースだ。自分ではヒーヒー言いながら作ってはいるけれど、ゆっくりなのかもしれない。
 歌にしてやる歌にしてやる、と思っていると案外歌にはならず、ホッと一息ついて、喫茶店の窓辺から外を眺めたりしていると、ぼわんと何かが漂い出す。少しSFチックに、歌が漂い出す。夢、そう、歌は夢なのかもしれない。
 アルバムを作っている間は中々旅に出られない。ようやくアルバムが完成して、発売して、旅に出ることができる。7月末に発売して、さっそく一発目のライブが広島であった。

 8月16日、広島でライブが決まっていた。翌日は松山の道後でライブ。それは誘ってもらったストリップ劇場でのイベント出演だった。数日前から台風のニュースがあり、移動日当日に関東に直撃しそうな予報円。なんとなくイヤな予感がして、前乗りすることにした。お盆期間は今年から指定席のみの新幹線「のぞみ」。夜遅めの列車は予約でいっぱいだったので、そのひとつ前の列車で向かった。
 8月15日の夜、広島に着いた。深夜23時を回っていた。広島駅は大きな工事中で、タクシー乗り場までけっこう歩いた。タクシーに乗り込んで、大きな工事中なんですね、と話しかけると、運転手さんは不満そうに色々話してくれた。「広電の好きなようにやられちゃってますよ、まったく。今さら路面電車の線路なんて作って。タクシーはどんどん走りにくくなってますよ」
 路面電車の好きな自分にとって、これはどう返したら良いものか、とりあえず自分の考えは置いておき、話を聞くことにした。色々な立場の人がいるんだなと、疲れた頭で考えた。タクシーは宿に着き、丁寧に荷物を下ろしてくれた。さあ明日はライブだ、寝よう。
 翌朝早く目が覚めたので、ちょっと歩くことにした。猛暑日だったが、ペットボトルの水をバッグに入れ、宿を出た。ぷらぷら歩いているとわりと近くに平和記念公園があった。

ペットボトルの蓋を開けていた。優しい心が見えた

 海外からの観光客もいる。遠くに原爆ドームが見えた。久しぶりに見た。昔々その昔、二十歳の頃、8月15日に広島にいたことがあった。一眼レフのカメラをぶら下げ、モノクロのフィルムで原爆ドームを撮っていた。近くではナイターが始まる音がした。野球場が近くにあったのか。夕暮れ時、1人の女が声をかけてきた。フィルム、余ってる? 赤い髪の女だった。フィルムは大量にあった。カラーのもあった。ありますよ、と答えると、ひとつちょうだい、ときた。ウブな私に下心はなかった。タイプでもなかった。フィルムを渡し、その女とは離れて、また写真を撮った。暗くなってきて、写真を撮るのはやめた。するとさっきの女が近づいてきた。さっきのお礼、したいんだけど、お好み焼きでも食べに行かない、と……。
   あれは夢だったのか。もう25年も前のことなので、夢もうつつも、あまり変わりなく……。

 近くに観光案内所があったのでその建物に入り少し休憩した。2階に上がると喫茶スペースもあったので、アイスコーヒーともみじ饅頭をひとつ買い、窓辺の席に座りドームを眺めた。川にかかる橋を大勢の観光客が渡る。観光かー。観光って何なんだろうなーとぼんやり考えた。
 店を出て、ドームの近くまで行く。ぐるっと一周して眺めた。蝉が強く鳴いていた。関東は大荒れの天気だろう、ただ広島は晴れていた。新幹線は終日、東京-名古屋間は運転休止とのこと。前乗りで正解だった。慌ただしく東京を出てしまったので、準備が不十分だった。早めに宿に戻って曲順を練りたい。ドームから離れて、うどんを食べ、宿に戻った。


猛暑日、蝉が鳴いていた

   準備を整え、ギターを背負い、スーツケースを転がし、ライブ会場へ向かう。路面電車に乗ると、わりとすぐ目的の駅に着いた。しかし会場は見当たらない。電話で店主に問い合わせると、どうやらひとつ先の駅に着いてしまったらしく、丁寧に道順を説明してくれた。無事会場のヲルガン座に着き店主に建物内を案内してもらう。古くてカッコいいビルだ。ここを店主は買ったらしい。売りに出され、ビルが壊され、新しいビルになってしまうくらいなら、このままのビルを残したい、と。建物は4階まであった。安くはないだろう。値段は聞かなかったが、屋上から見た路面電車のある街の風景は、心地よかった。

ヲルガン座屋上、心地よい風が吹いていた

 ライブには全国からお客さんが集まってくれた。会場であるヲルガン座に行ってみたかった、という方もいただろう。新しいアルバム『営業中』から初めてライブで歌う曲もあった。レコーディングでこねくり回していた曲たちが、野に放たれる。羽を持って、飛び始める。録音の時に込める熱と、ライブで歌う時に込める熱は、少し違う。いや、熱は同じだけど、通す管の太さが違うのか。ライブはドバッと一瞬の熱波。録音はじわあっと炙っていく感じか。無事ライブも終わり、新作も沢山の方が買ってくれた。終わって店主と、ライブ制作の間に入ってくれたNさんと軽くビールを飲み、店を後にした。宿に戻って荷物を置き、ラーメンでも食べに行こうと外へ出た。深夜1時を回っていたか。宿の自転車を借りて繁華街へ。街はびっくりするくらい賑やかだった。知らない街をママチャリで走る心地よさ。中華料理屋でラーメンを食べ、自転車を漕ぎ、宿に戻った。ようやくアルバムのツアーが始まった。
   翌日は松山道後にあるストリップ劇場でのイベントだった。ヲルガン座の店主が企画したイベントだったので、松山まで同行させてもらうことにした。朝、フェリー乗り場から船で松山港へ。港で待ってくれていた音響さんの車で会場のニュー道後ミュージックへ。久しぶりだ。

帰ってきた、ニュー道後

 2年前、縁をいただき、ライブをさせてもらったことがあった。四国最後のストリップ劇場。その時、社長から色々と話を聞いた。その時の話が強く残っていたので、再会に緊張した。相変わらず顔に人生が滲み出ている。器の大きさ。楽屋は踊り子さんでいっぱいだったので、部屋を別に取ってくれていた。そこで着替えたりゆっくり休んで、と。
   お礼を言い、さっそくリハの準備へ。綺麗な劇場内。しかし時間があまりない。急いで弦を張り替えて、サウンドチェック。音響さんうまい。良い感じ。そしていよいよ踊り子さんたちとご対面。自分の弾き語りで踊ってくれる5人の踊り子さんたちがステージの盆のところに集まった。

    つづく

著者情報

シンガーソングライター/俳優/エッセイスト

前野健太

まえの けんた

1979年2月6日生まれ、埼玉県入間市出身。2007年『ロマンスカー』によりデビュー。ライヴ活動を精力的に行い、「FUJI ROCK FESTIVAL」「SUMMER SONIC」など音楽フェスへの出演を重ねる。俳優活動においては、主演映画『ライブテープ』が第22回東京国際映画祭「日本映画・ある視点部門」作品賞を受賞。NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』他、TVドラマ、CM、映画、舞台に出演。エッセイ集『百年後』を刊行するなど、文筆活動にもファンが多く、他アーティストへの楽曲・歌詞提供も行う。最新アルバムは『営業中』(2024年)。文芸誌『すばる』ではエッセイ「グラサン便り」を2014年から2022年まで約8年にわたり連載。

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