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政治・経済

『21世紀の資本』が提起する不平等問題を解く

資本主義がもたらす不平等拡大について、私たちはどう考えればよいのか?

澁谷浩(小樽商科大学商学部経済学科教授)

良い不平等と悪い不平等がある
 結局、左派と右派の論争を超えて問題を解決するには、そもそも「なぜ不平等は問題なのか?」という基本的な問いにさかのぼって考察を始める必要がある。その考察について、私の結論は以下のようになる。
 まず、不平等が問題となる最も根源的な理由は、人間が公正や正義などの感情を本性として持つように進化してきたという事実にある。われわれは、自分や仲間はもちろん他人でさえも、公正や正義に反すると思われる取り扱いを受けるのを見ると強い反感を本能的に覚える。
 なぜ、われわれはそのような感情を持つように進化したのだろうか? その理由は、われわれが協力を通じて生き残り、組織的生産活動に積極的に参加できるようにするためである。そのためには、みんなが公正で正義に合った取り扱いを受けていると感じることが必要となる。そうでなければ積極的な協力は期待できないし、社会の秩序と繁栄も実現できない。
 要するに、人間社会の秩序と繁栄のためには、お互いに協力する意志を維持することが最も重要な課題となってくるのである。
 しかし、同時に、人間の協力は簡単に壊れてしまう可能性を含む脆弱な存在でもある。公正や正義の概念に反するような不平等が生まれた場合には、協力体制は崩壊してしまう。たとえ崩壊までいかなくとも、生産性の低い協力しか維持できなくなる。そうすると、企業組織の活力が失われて経済社会も停滞することになる。
 したがって、不公正・不正義の感情によって協力が壊れるような不平等は解消されなければならないという結論になる。
 それでは、不公正や不正義の概念に対応する不平等とは何か? まず指摘できる点として、不平等には、公正・正義の観点から正当化できる〈良い不平等〉と正当化できない〈悪い不平等〉がある。良い不平等は個人の生産性の違いから生じる所得と富の不平等であり、それは個人の社会への経済的貢献の違いを正しく反映した結果であるので、何ら問題ではない。良い不平等は公正や正義と整合的である。
 他方、悪い不平等は、個人の生産性と関係なく得られる所得と富から生まれる不平等である。それは、個人の社会への経済的貢献を反映したものではないので、公正や正義の概念とも不整合である。しかも、それは社会貢献に見合った所得や富ではないため、不正の感情を強く生むことになる。そして、そのような不平等は人びとの協力関係、さらには社会の秩序と繁栄を破壊することになる。

問題を解決できる二つの政策
 悪い不平等が生まれる原因は主に二つある。第一の原因は、政治権力を利用した既得権から生まれる所得や富であり、第二の原因は、個人が親からの遺産相続として受け取る富である。これらは、個人の社会への経済的貢献を反映して獲得した所得や富ではない。
 悪い不平等を解消するには、その原因を解決しなければならない。悪い不平等の原因が既得権と遺産相続にあるのならば、各原因に対応する二つの政策を考えればよい。私が導き出した答えは、次の二つの政策である。
 第一の政策は、既得権の撤廃である。既得権こそは、悪い不平等の原因であるばかりでなく、経済成長を低下させる主要な原因でもある。政府が一部の集団に与える既得権は、市場メカニズムをゆがめ、一般市民から既得権者へと富を再配分する要因である。そもそも既得権者は生産性が低い集団である。なぜならば、生産性が高ければ既得権がなくても市場で十分利益を上げることができるので、既得権を必要としない。結局、既得権によって経済的資源が生産性の低い集団に流れるのであるから、その必然的帰結として経済成長は低下することになる。
 第二の政策は、ノブレス・オブリージュ政策である。それは、富保有者が自らの選択で〈人類の利益〉のために富を生前に活用するように背中を押す政策である。
 その方法は複数考えられるが、一番簡単で理解しやすいのは非常に高い相続税(例えば100%)である。この相続税の目的は、ピケティのように富を税金で奪い取ることではなく、逆に富を生前に人類の利益のために使わせることにある。つまり、政府へ相続税を収めるよりも、生前に富を人類の利益になる目的のために使うという選択がより合理的になるように、相続税などの社会制度を変える方法である。
 要するに、政府(政治家、官僚、既得権者)に富の使用を任せるのではなく、富所有者自身が、例えば社会事業のような目的のために富を活用する選択を制度的に導くのである。このようにして、政府から民間へと公共財・サービス供給の主導権も移ることになる。
 これら二つの政策によって、不平等問題(協力の失敗)と大きな政府問題(成長の失敗)を同時に解決することができる。

著者情報

小樽商科大学商学部経済学科教授

澁谷浩

しぶや ひろし

1954年北海道生まれ。カナダのトロント大学を卒業後、アメリカのプリンストン大学で博士号(経済学)を取得。インディアナ州立大学経済学部助教授、国際通貨基金(IMF)エコノミスト、日本銀行金融研究所研究員などを経て、1997年より現職。専門は資産価格と金融政策、国際資本と経済発展、進化経済学。

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