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押し寄せる難民とEUの選択(1)

欧州難民危機は戦後最大の試練

熊谷徹(ジャーナリスト)

 欧州連合統計局が15年9月に発表した統計によると、15年1~6月にEU域内で初めて亡命を申請した難民の数は、39万8895人だった。
 その内、ドイツの受け入れ数は15万4055人(38.6%)で突出している。フランスの受け入れ数はドイツの約5分の1、イギリスは約10分の1にすぎない。EU加盟国は28カ国だが、ドイツなど5カ国が83.2%を受け入れている。
 旧植民地を抱えるイギリスとフランスは、ドイツ以上に移民の問題で苦労してきた。最近では、移民の子どもたちがイスラム過激派の思想に感化されて、無差別テロを行う「ホームメード・テロリズム」が大きな問題になっている。ロンドンの地下鉄とバスを狙った爆弾テロ(05年)や、パリの風刺新聞「シャルリ・エブド」の編集部が襲撃された事件(15年)の犯人は、いずれも移民の子どもたちだった。フランスの大都市郊外には、バンリュー(banlieu)と呼ばれる住宅街がある。高層団地が多いバンリューでは、移民の比率が高い。治安が悪いために警察官でも足を踏み入れたがらないほどだ。
 英仏が二の足を踏んでいる背景には、多くの難民を受け入れることによって、国内の外国人問題をさらに深刻化させたくないという本音があるのだ。
 さらに英仏では、移民増加に批判的な右派ポピュリスト政党が支持率を伸ばしつつある。英仏政府が多数の難民を受け入れた場合、ポピュリスト政党に票が流れるという懸念もある。
 またメルケルは、9月5日以降シリア難民を大量に受け入れることについても、オーストリア政府とは協議したが、英仏政府とは事前に協議しなかった。このことについて、英仏政府では「ドイツの独断的な態度の表れ」という不満が高まっている。

押し寄せる難民とEUの選択(2)へ続く。

著者情報

ジャーナリスト

熊谷徹

くまがい とおる

1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局在勤中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツのミュンヘン市に在住。統一後のドイツの変化、ヨーロッパの政治・経済統合、安全保障問題、エネルギー・環境問題を中心に取材・執筆を続けている。著書に『新生ドイツの挑戦』(1993年、丸善)、『びっくり先進国ドイツ』(2004年、新潮社)、『顔のない男―東ドイツ最強スパイの栄光と挫折』(2007年、新潮社)、『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争の真実』(2012年、日経BP社)、『日本とドイツ―ふたつの「戦後」』(2015年、集英社)、『偽りの帝国―緊急報告・フォルクスワーゲン排ガス不正の闇』(2016年、文藝春秋)、『イスラエルがすごい―マネーを呼ぶイノベーション大国』(2018年、新潮社)、『ドイツ人はなぜ、年290万円でも生活が「豊か」なのか』(2019年、青春出版社) など多数。『ドイツは過去とどう向き合ってきたか』(2007年、高文研)で第13回平和・協同ジャーナリスト奨励賞受賞。ホームページはhttp://www.tkumagai.de/

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