国連人種差別撤廃委員会で厳しく問われた日本の〈差別〉
小森 恵(反差別国際運動(IMADR)事務局長代行)
(構成・文/海部京子)
こうして2日間の審査を終え、8月30日には、人種差別撤廃委員会が総括所見を発表しました。総括所見文書の冒頭部分では、前回の課題が十分に実施されていないことが懸念として示され、続いて約20項目にのぼる課題の是正を勧告しています。その中には、新たに踏み込んだ勧告もありました。
一つは、在日コリアンの人々が地方参政権を行使できるよう求めた勧告です。日本国内における在日コリアンの人々への差別は、国連の普遍的定期審査や自由権規約委員会などでも課題になっていますが、地方参政権について言及したのは今回の人種差別撤廃委員会が初めてです。
それから、女性の複合差別も指摘しています。在日コリアン、アイヌ民族、被差別部落出身者、外国人といったマイノリティー女性は、家庭内や職場などで民族性および性別にもとづく暴言や暴力や虐待など、複合的な形態の差別を受ける場合があります。今回は、これを放置したままにせず「これらの女性たちが直面する個別の諸課題をよく理解して対処できるよう、関連する統計を収集すること」と明確に勧告しました。(以下、総括所見文書の内容は、人種差別撤廃NGOネットワークの翻訳による)
また、被差別部落出身者について、「戸籍データを機密扱い」にすべきと述べています。委員会は、これまで被差別部落出身者の戸籍への不正アクセスに対し、罰則をともなう法律の制定を求めてきました。今回の勧告では、それに加えて「機密扱い」という措置をとることを要請しています。
琉球・沖縄の問題はさらに踏み込んでいます。総括所見には次のように書かれています。「アメリカ合衆国の軍事基地の存在による、沖縄の女性に対する暴力の報告について、および報告されているところによれば、民間人の居住地域を巻き込んだ軍用機の事故に関連して琉球・沖縄の人々が直面している課題について懸念する」「締約国が、琉球・沖縄の女性を暴力から保護すること、ならびに彼女らに対する暴力の加害者の適切な訴追と有罪判決を確保することを含む、琉球・沖縄の人々の適切な安全と保護を確保するよう勧告する」。
今まで「米軍基地の存在」を勧告において指摘されたことはありませんでした。沖縄では、米兵や軍属による性暴力、米軍機の事故が後を絶ちません。委員会は、政府が琉球・沖縄の人々を先住民族と認識せず、土地や資源に関する権利の保障もせず、人種差別撤廃条約の第5条が定める「暴力又は傷害に対する身体の安全及び国家による保護についての権利」をないがしろにしていると断じています。つまり、琉球・沖縄の人々を守るのは「あなたたち政府の責任ではないのですか?」と問うているのです。
今回は、前回14年の審査の後、16年に「ヘイトスピーチ解消法」と「部落差別解消推進法」が制定されたことは評価されました。しかし、まだまだ多くの課題が国内に存在していることも改めて示された審査だったと言えるかもしれません。
*国連人種差別撤廃委員会日本審査の総括所見(英文)はこちらで。

反差別国際運動(IMADR)の小森恵さん
行政、NGO、市民の連携が求められている
日本政府は、審査前に提出した報告書の序章に「我が国は、人種差別と戦うためあらゆる方策を講じている」と書いています。しかし、これまで3回の審査では、ほぼ同じか類似する多くの課題が繰り返し指摘されてきました。そして、今回4回目の審査でも、政府は人種差別に正面から向き合っているようには見えず、「あらゆる方策を講じている」とは言えないのではないかと思います。
人種差別撤廃委員会だけでなく、政府は国連の条約委員会の勧告を重視しない傾向が見受けられます。13年には、拷問禁止委員会が従軍慰安婦問題について「日本の公人が事実を否定し、被害者を傷つけている」との懸念を示し、法的責任を公に認めることを始めとしたいくつかの勧告を出しました。この時、政府は「勧告に法的拘束力はない」として、従わない旨の答弁書を閣議決定しています。
ですが、法的拘束力はなくても、勧告に対する道義的な責任はあります。国連の人権に関するさまざまな条約委員会は、世界の国々がそれぞれの国において、すべての人の権利や尊厳を守るために作られた機関です。人権侵害や人種差別のない世界を実現することが委員会の目標であり、そのために各国から推薦され、国連で選出された委員が審査をしています。日本が人種差別撤廃条約に加入している以上、条約委員会の一つである人種差別撤廃委員会で示された勧告は尊重すべきものだと思います。
一方、政府が法的拘束力はないと軽視したとしても、このような勧告は、国内の差別の克服に向けた取り組みにおいて大きな力になります。NGOや市民社会組織が、課題を解消するための条例制定を目指して行政や地方議員に交渉をする場合に、「国連の委員会の勧告」があれば耳を傾けてもらえるからです。
人種差別撤廃委員会は、これまでと同様に今回の総括所見でも「次回の政府報告書の準備においてNGOや市民と対話し、協議するように」と勧告しました。政府だけで差別をなくすことはできません。行政、NGO、市民が広く連携し、さまざまな課題にいっそう取り組んでいかなければならないと実感しています。
著者情報
反差別国際運動(IMADR)事務局長代行
小森 恵
こもり めぐみ
アムネスティ・インターナショナル日本大阪事務所、部落解放・人権研究所等の勤務を経て、2009年から反差別国際運動に勤務。反差別国際運動では、人種やカースト制度に基づく差別の問題に、NGOが国際人権の切り口から取り組むことの意義を追求している。