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社会問題

種子法廃止で、日本の農業はどう変わる?

種は「企業から買うもの」に変化する。その先にあるのは?

印鑰智哉(日本の種子を守る会アドバイザー)

(構成・文/仲藤里美)

 ただ、この条約は批准国に一定の裁量権が認められていて、これまで日本では原則自家採種OK、ただし例外として認められない品種を設定する、というやり方を取ってきました。それを、原則と例外を逆にして、自家採種は原則として禁止するという方向性が打ち出されたわけです。
 この報道が出た後、農水省は種苗法の改定はまだ具体的に検討しているわけではないと述べています。しかし、現状でも自家採種禁止の品種はどんどん増えていて、今年はもう300品種以上が禁止となる見込みです。
 種苗法の対象となるのは、比較的新しく開発された品種のみで、小規模農家がずっと昔から栽培してきた、いわゆる「在来種」は含まれません。だから在来種の自家採種は禁止対象にならないので大丈夫だと言う人もいるのですが、現状の市場システムでは在来種の農作物を流通させることは困難です。結果として、市場に出すための作物については実質的に自家採種ができない、つまり種はどこかから「買う」しかなくなってしまう可能性は十分あると思います。
 ここにも、種を「公共で守るもの」から「開発して儲けるもの」にしていくという流れが見えます。ちなみに、当初アメリカが主導していたTPPは、ユポフ条約の批准が参加条件の一つとなっていますが、アジア版の自由貿易協定であるRCEP(東アジア地域包括的経済連携)でも、同様に参加国にユポフ条約の批准を義務づけることを日本政府が主張したのです。日本が単なる「被害者」でないことは、ここでも分かると思います。

 

「地域の農業を守る」世界的潮流が生まれつつある

 では、こうした動きに私たちはどう対抗していくことができるのか。実は、世界では既に、もう一つの新たな動きが始まっています。これまで世界中で農業の規模の拡大、機械化、企業化が進められてきました。しかし、それによって食料生産はかえって不安定になって環境破壊も進んでしまうことが明らかになり、小規模家族農業を守ることの重要性が再認識されつつあるのです。
 例えば、フランスでは小規模家族経営による有機農業の割合を増やしていくための支援策が設けられましたし、ドイツでは有機農作物の生産を現在の3倍に上げる政策が出されています。オーストリアでは既に有機的に管理されている農地が全体の2割を超え、一般の農作物との値段の差もどんどん縮まってきているそうです。さらに2018年4月にはEUが、それまで違法とされていた農家間での種の売買を認める、と発表しました。有機農業を発展させるためには有機農家の種子が不可欠だからです。
 また、ブラジルでは生態系の力を活用するアグロエコロジーに基づく農業運動が全国的に盛んに展開されてきました。その結果、伝統的な在来種の種子の価値を政府も認め、その保護と促進のための予算が付けられるなどの変化が起こっているのです。

 私が一番注目しているのは韓国です。韓国では、07年に米韓FTA(自由貿易協定)が締結され、政府は「サムスンがあれば韓国に農業はいらない」とばかりに、農業を切り捨てる政策を進めてきました。かつては7割以上あった食糧自給率が、20%近くまで落ち込んでしまったのです。
 そこで、なんとか農業を立て直そうと考えた農村の女性団体が取り組んだのが「在来種の復権」でした。企業から種を買っている限り、農薬や化学肥料を買わなくてはならなくなって、立ちゆかなくなる。それよりも、農薬や化学肥料を使わなくても育つ在来種を取り戻そうという運動が始まったのです。
 当初は在来種育成のノウハウがないため、植えても全部枯れてしまいました。そこで彼らは、地方で細々と在来種を守りつないできたハルモニ(おばあさん)たちへの聞き取りを始めます。それによって、再び在来種を育てて種を採ることが可能になりました。やがて農協や生協も活動に加わり、現在では一部の地域では条例も作られ、公的事業として認められるに至っています。さらには、農協が主導して、「韓国の農業を憲法で守るべきだ」という署名運動も始まり、1000万人を超える人が署名しました。韓国の人口は5000万人余りですから、約5人に1人が署名したことになります。農業は社会の基盤として絶対に必要なものだというふうに、人々の意識が変わったのだと思います。

 2017年には国連で、19年からの10年を「家族農業の10年」とすることが採択されましたし、「小規模家族農業を守ろう」という世界的潮流が生まれつつあると言えます。日本もこの潮流に乗れるかどうかが、とても重要だと考えます。
 具体的には、種子法を復活させることに加え、「在来種保護法」の制定が必要だと思います。各地域で、その地域に合った種子を守る運動を起こし、それを政策化して目に見える形にしていく。今、兵庫県や新潟県などいくつかの自治体が、種子法に代わる内容の条例を制定しているのですが、中でも埼玉県では一歩進めて、「在来種の保護」を盛り込んだ条例がすでに生まれています。現状を見れば確かにひどいことが起こっているのですが、逆手に取ればこれは農業の在り方、政治の在り方を変えていく「チャンス」だとも思います。
 まずは、庭やベランダで、自分で野菜を育てて、そして種を採ってみてはどうでしょうか。非商業用であれば、自家採種は法的に何の問題もありません。そうして一人ひとりが自分で種を作っていくことも、種を守り、増やしていくための一歩になると思います。

著者情報

日本の種子を守る会アドバイザー

印鑰智哉

いんやく ともや

日本の種子を守る会アドバイザー。1961年生まれ。日本、ブラジルのNGO、オルター・トレード・ジャパン政策室室長等を経て、現在フリーの立場で世界の食の問題を追う。特に遺伝子組み換え問題については5カ国(日本、韓国、フィリピン、ブラジル、パラグアイ)で講演。ドキュメンタリー映画『遺伝子組み換えルーレット』『種子―みんなのもの? それとも企業の所有物?』日本語版企画・監訳。アマゾンの持続的発展に関する共著『抵抗と創造の森アマゾン-持続的な開発と民衆の運動』(現代企画室刊)がある。

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