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社会問題

改正入管法による外国人労働者の受け入れ拡大が始まる! 新たな在留資格「特定技能」制度の問題点とは?

外国人労働者について、私たちが持つべき視点

指宿昭一(弁護士)

(構成・文/仲藤里美)

 また、改正法成立にあたって、野党はこの法律に、「政令や省令で定める」としている未定事項が多すぎるという点を強く批判しました。重要事項をすべて政府に白紙委任しているようなものだ、というわけです。
 この批判は、基本的に正しいと思います。ただ、多くの人が見落としているのは、そもそも入管法とは以前からずっとそういうものだったのだということです。
 たとえば、企業が外国から研修生を受け入れる外国人研修制度が導入されたのは1989年の入管法改正のときですが、これは法律の別表に挙げられている「在留資格一覧表」に、「研修」という資格を新たに加えただけで、詳細は何も書き込まれていませんでした。その後91年に、企業単体ではなく商工会議所などの中小企業団体を通じた受け入れを可能にする「団体監理型」の研修生受け入れが始まるのですが、これは法改正さえなく、法務省の告示、つまり省令のみで決定されています。
 さらに、93年には技能実習制度がスタートしますが、このときにも法改正はなく、やはり法務省の告示のみで制度がつくられました。「技能実習」という在留資格が法で定められたのは2009年、制度の開始から16年も経ってからです。
 だから、「白紙委任だ」というのはそのとおりなのですが、その意味では今までもずっと白紙委任だったといえます。技能実習制度や外国人の在留をめぐる政策については、ほとんどすべてが法務省や法務大臣のフリーハンドに委ねられ、何もかもが省政令で決められる状況にあったわけです。
 さらに言えば、省令さえなく、入管や法務省の裁量で決められる範囲も非常に大きい。たとえば、在留資格が切れたのに日本に滞在している外国人は、入管施設に収容されますが、これは刑事事件と違って、裁判所による令状も必要ありません。入管内部だけのチェックで収容できるのです。しかも、収容期間には上限が定められておらず、理論上は100年でも収容できるということになっています。
 こうして見ていくと、日本は外国人に対しては法治国家ですらない、といえると思います。外国人の人権など、そもそも認めようとしていない──正確に言えば、在留資格の範囲内のみで認めてやろう、と考えているとしか思えない。この国では、在留資格のほうが憲法や、そこに定められた人権よりも上にあるといえるでしょう。
 そうした「ブラックボックス」ともいえる入管法の問題点が、国会審議の中で少しなりとも明らかにされたのはよかったと思いますが、まだまだ正しく理解されているとはいえません。今回の改正法はたしかにひどいけれど、今までもずっとひどかったし、この先もずっとひどいままかもしれない。そういう視点から、この問題を見ていただきたいと思います。
 今のままでは、中国やベトナムなど他のアジア諸国が急速に経済発展している中、技能実習生に対する人権侵害などさまざまな悪評が広がりつつある日本は、外国人労働者からも「選ばれない国」になっていくかもしれない。私はそう考えています。

日本人にも、外国人にも住みやすい社会を

 さらにもう一つ、考えていただきたいことがあります。
 今回の入管法改正は、非熟練の外国人労働者の受け入れを正面から認めるという点で、戦後日本の出入国管理政策の大転換と言っていいものです。当然、日本という国のあり方にも大きくかかわってくる。それを、こんな中身も不十分な法律改正だけで進めてしまっていいのでしょうか。
 本来なら、少子高齢化が進む日本の中で、どう外国人労働者を受け入れ、社会の中に位置づけていくのか、国のグランドデザインをしながら議論を進めていく。そして、たとえば「多文化共生基本法」といった理念を定める基本法をまず制定し、それとセットで入管法の改正を行うべきだったと思います。
 よく「移民が増えると、犯罪の増加などさまざまな問題が起こる」と言われますが、これはまったくの間違いです。正しくは、「移民の受け入れ方に失敗すると問題が起こる」と言うべきだと思います。
 たしかに、ヨーロッパなどでは失敗した例が多いのも事実。でも一方で、日本でも地方自治体レベルでは、多くの日系人が地元住民と共生しながら暮らしている静岡県浜松市など、たくさんの成功例があります。2001年には「外国人集住都市会議」という、外国人住民の多い自治体の全国ネットワークがつくられ、多文化共生に向けたさまざまな取り組みを進めてきているのです。
 だから、日本で外国人住民がさらに増えていったときに、差別や犯罪などの問題が起こるかどうかは、これからの施策によるのだと思います。現状のように、きちんとした多文化共生政策もないままに受け入れが進めば、悪い方向に行ってしまう可能性が高いでしょう。自治体への負担が高くなり、受け入れに失敗した自治体では差別や分断が生まれてくるといったことは十分にあり得る。そうならないためにも、国全体としての受け入れ方針、多文化共生の理念が絶対に必要です。
 もちろん、国の施策だけではなく、民間レベルでの支援もますます重要になってくるでしょう。NGOの活動はもちろん大事ですが、私がもっとも期待をかけているのは労働組合です。特に大きな労働組合には、その組織力や資金力を使って、この問題に本気で取り組んでほしいと考えています。
 今後、非熟練の外国人労働者が働くようになるのは、労働組合のない小さな会社がほとんどだと思います。つまり、解雇などの問題があっても駆け込む場所がない。だから大きな労働組合は、自分たちの会社の外国人労働者はもちろんですが、それだけではなく二次下請け、三次下請けの会社にまで目を向けて支援をしてほしい。そして、いずれは外国人労働者の組織化にも取り組んでほしいと思います。
 たとえば、機械・金属産業の企業が集まる「ものづくり産業労働組合(JAM)」では、17年前からミャンマー人労働者の小さな労組をずっと支援してきています。2018年、ある大手衣料品チェーンが取引先に対して「外国人実習生への人権侵害がないように」と申し入れたことが報道されましたが、あれもミャンマー人労働組合からの訴えを受けたJAMの調査で、下請け企業での実習生に対する賃金未払いが発覚したことがきっかけです。
 外国人労働者が入ってくることで、日本人の雇用が奪われるのではないか、日本人の賃金が下がるのではないかという懸念の声もあります。もちろん、それは十分に考えられますから、受け入れ人数の規制などはある程度必要でしょう。ただ、そこには、外国人労働者は日本人労働者の敵ではなく、労働者として共に闘う仲間なんだという視点が欠けていると思います。
 先ほどの衣料品チェーンのケースがそうだったように、彼ら、彼女らが声を上げてくれることで、さまざまな労働問題が可視化されてくる。それは、日本人も含めた労働者全体の権利の底上げにも間違いなくつながっていくはずです。労働組合には、外国人労働者という「敵」が来るのではなく、力強い仲間が来るんだという視点を、ぜひ持ってほしいと思います。
 労働現場だけの話ではなく、今私たちが考えるべきは「外国人労働者を受け入れるべきかどうか」ではなく、すでに日本に大勢いる外国人も含めた日本社会を、どう住みやすく、よくしていくかではないでしょうか。多文化共生のできない、外国人にとって住みにくい社会は、日本人にとっても絶対に住みよい社会ではないと思うのです。

著者情報

弁護士

指宿昭一

いぶすき しょういち

1985年、筑波大学卒業。2007年9月、弁護士登録(第二東京弁護士会)をし、同時に暁法律事務所を開設。「法を尊び、法に頼らず」をモットーとして、労働者側に立った労働問題、外国人の入管問題に取り組んでいる。日本労働弁護団常任幹事・東京支部事務局長、外国人技能実習生問題弁護士連絡会共同代表、外国人労働者弁護団代表。共著に、『外国人の人権 外国人の直面する困難の解決をめざして』(関東弁護士会連合会編、明石書店、2012年)、『外国人実習生 差別・抑圧・搾取のシステム』(「外国人実習生」編集委員会編、学習の友社、2013年)、『会社で起きている事の7割は法律違反』(朝日新聞「働く人の法律相談」弁護士チーム著、朝日新聞出版、2014年)、『外国人技能実習生法的支援マニュアル 今後の外国人労働者受入れ制度と人権侵害の回復』(外国人技能実習生問題弁護士連絡会編、明石書店、2018年)などがある。

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