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社会問題

定時制のリアル(3)「フレキシブル」な学びは教育の最先端(神奈川県立川崎高校)

黒川祥子(ノンフィクションライター)

 なぜ、川崎高校はこのような仕組みの高校として再スタートを切ったのか。最も聞きたかった問いを尋ねた。平松校長は、フレキシブルスクール設立前から、高校入学前の子どもたち、特に義務教育期に学校で学ぶことができなかった子どもたちのことも意識してきたという。
「小学生、中学生は学校に行って当たり前だというのが一般的な感覚ですよね。でも現実には、学校に行けない子が相当数、存在しています。学校以外で彼らが学ぶ場所を、市区町村の教育委員会が用意できるかといえば、無理なわけです」
 確かに2018年の調査で、小中で不登校の児童・生徒は全国で16万4528人。小学校では144人に1人、中学校では何と27人に1人が不登校となっている。しかもこの数は6年連続で増加している。もはや、例外だと放置しておいて済む数ではない。
「学校に行けない子たちも、最後はしっかり社会に接続させなければならないという命題が教育にはあります。しかし、現に学校に行けない子たちの行き場は失われているわけですから、多様性のない画一的な学校教育そのものが、考えを変えるべき分岐点にきているのではないかということを長いあいだ感じていました。
 そこで、学びのスタイルを自分で選びながら、勉強できる高校を作ったらいいんじゃないかというコンセプトで、フレキシブルスクールの構想が始まりました。全日制と定時制の融合も、それが子どもたちの多様性に合うのではないかという判断です」
 学び方は一つではなく、多様であっていい。だから、フレキシブルスクールなのか。
「本校の特徴は、柔軟性を持った教育です。子どもたちが時間割を作ることを許された学校であり、学ぶ時間、場所、対象、集団がすべてフレキシブルである学校です。設立したのは16年ほど前ですが、今の時代に非常にマッチしているので、先進性は極めて高かったなと思います」

生徒たちにさまざまな“止まり木”を用意する

 教員以外に、SSW(スクールソーシャルワーカー)SC(スクールカウンセラー)をはじめ、外部の人材が多く入っているのも、川崎高校の特徴のひとつだ。
 取材当時、主に進路指導室における「お兄さん」的存在として就職の相談に当たっていたのは、会社員だった経歴を持つ森武浩さんだ。「サポートティーチャー」と名乗るが教員ではない。定時制の生徒たちは、どのような思いで進路指導室の扉を開けるのだろうか。
「やりたいことがあっても、これまで否定され続けてきたために、何をどう言っていいのか、わからない子が多いですね。定時制に来ている自分は“落ちこぼれ”だからと、ずっと諦めさせられてきたのでしょう」
 だから、森さんはこう声をかける。
「これまで大変だったね。どんな仕事があるか、一緒に見ていこうか」
 森さんは、生徒が進路指導室の扉を開けたことは、その子が意思を持ってここに来たと受け止める。それはすなわち、森さんに心を開こうとしているのだと。しかし、子どもたちから素直な言葉はなかなか出ない。
「どうせ、わかるわけがない。言っても無駄」
 森さんは、その言葉を正面から受け止める。
「わからないかもしれないが、でもわかるように、努力するよ。だから、言葉にしてほしい。ここが、将来を変えられるチャンスだよ」
 外国籍の子には日本語の指導もする。履歴書の書き方、面接の練習も行う。そんな中、ぽろりと、自分が親から虐待を受けていることを話す子もいる。今まで、誰に話せばいいのか、わからなかったと。非常に重要な情報だ。森さんはすぐに担任や学年主任など、学校側へつなげて行く。
 それは神奈川県が独自に展開する、「神奈川の支援教育」に基づく取り組みだ。
 2001年、国は「特別支援教育」という理念を打ち出し、従来の障害児教育に加え「学習障害(LD)」や「注意欠陥多動障害(ADHD)」などの発達障害の子どもたちへの特別な支援の仕組みを提唱した。しかし、子どもが抱える困難は障害に由来するものだけではない。そこで神奈川県は翌02年、「障害の有無にかかわらず、さまざまな課題を抱えた子どもたち一人一人のニーズに適切に対応していく」ことを学校教育の根幹に据えた。
 この「神奈川の支援教育」を推進していく上で欠かせないのが、「全校で取り組む協力体制=校内支援システム」の確立だった。担任などが一人だけで抱え込むのではなく、教職員がチームとなって、子どもたち一人一人の課題の解決にあたっていくわけだ。こうした校内支援体制作りのキーパーソンとなる「教育相談コーディネーター」の養成も、神奈川県では独自に行っている。
 平松校長も言う。
「外部の人材が多いというのは、チャンネルの多さを意味しています。子ども達にとって、チャンネルが多いことに越したことはない。何か話ができる人を持っていることは、とても大切なことですから」
 森さんという一つのチャンネルから「虐待」という重大事案が「発見」されれば、大人たちは問題の解決にチームで取り組んでいくこととなるのだ。

居場所カフェに集まる外国籍の生徒たち

 川崎高校が用意するチャンネルの一つに、「高校内居場所カフェ」がある。川崎高校では毎週水曜日、15時から2時間ほど、多目的ルームがカフェになる。その名も「World・cafe・ふらっと」。外国とのつながりのある子どもたちの学習支援や、社会的自立支援を行うNPO法人が主催し、スタッフとボランティアの学生とで運営する(「World・cafe・ふらっと」は令和元〈2019〉年度をもって終了、現在は外国につながる生徒のための支援教室を土曜日に開催している)
 高校内居場所カフェは、家庭環境が困難な子への支援策として大阪の西成高校で初めて誕生し、以降、各地でオープン。神奈川県でも10校以上で導入されている。親と教師以外の大人が関わることで、子どもたちにさまざまな人生のロールモデルとの出会いを提供する。その中で信頼関係が深まれば、先ほどの森さんのように苦しい胸の内を拾い上げることもできる。そうなればやはり、生徒の情報を学校側と共有し、ともに生徒を支えていくことになる。
 川崎高校の夕方。多目的ルームの一角に、ジュースなどの飲み物とお菓子が用意され、生徒たちはお菓子を食べながら、きゃあきゃあとボランティアの学生とボードゲームに興じている。実に賑やかな空間だ。
 スタッフによると、居場所カフェにやってくるのは中国人の生徒が多いので、中国からの留学生や中国籍の卒業生などがボランティアとして訪れているという。
 中3で中国から来日したという、ボランティアの大学生に話を聞いた。川崎高校の場合、親が来日して料理店を開き、経営が安定すると中国から子どもを呼び寄せて通わせるというケースがほとんどだと言う。
「本当は子どもたちは、日本になんて来たくない。言葉もわからないし、友だちもいないんですから。でも両親から言われれば、断れません。川崎高校は『在県枠』もあるから中国人、フィリピン人の生徒が多いです。彼らはカフェに来れば母国語で話ができるのでうれしいというけれど、そのかわり日本人生徒と交流できないし、日本語の練習もできない。日本語が上達しないまま中退していく生徒もいるので、大丈夫かと心配です。自分は来日してすぐフリースクールに1年通って、日本語の勉強をしたから、こうして会話ができますが……」
 確かに彼は流暢に日本語を話し、大学進学も果たしている。
「在県枠」とは、神奈川県の公立高校の入試にある制度で、「在県外国人特別募集」のことだ。対象は外国籍または、日本国籍を取得して3年以内で、日本での在留期間が3年以内の人。入試問題は一般募集と同じだが、問題文にふりがながついているため、有利になる。
 川崎高校では2017年から全日制で導入し、その結果、外国籍もしくは外国にルーツのある生徒が非常に増えた。
 中国語ができる教員がマンツーマンで行う、日本語の授業を見せてもらった。中国語ができる教員自体が少なく、学校側も、日本語教育が今後の課題であることを自覚している。

掲示板には全日制、定時制それぞれにあててさまざまな通知が貼りだされていた

「しんどい子」たちの居場所は?

著者情報

ノンフィクションライター

黒川祥子

くろかわ しょうこ

1959年福島県生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒業。業界紙記者などを経てフリーライターとなり、家族の問題を中心に執筆活動を行う。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち』で第11回開高健ノンフィクション賞を受賞。著書に『熟年婚』(河出書房新社)。 また、橘由歩の筆名で『「ひきこもり」たちの夜が明けるとき』(PHP研究所)、『身内の犯行』(新潮新書)、『セレブ・モンスター』(河出書房新社)、『全国ごちそう調味料』(幻冬舎)、『県立!再チャレンジ高校』(講談社現代新書)、『PTA不要論』(新潮新書)、『8050問題』(集英社)、『心の除染』(集英社文庫)、などがある。息子が二人いるシングルマザー。

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