新しい結婚のカタチ、「友情結婚」とは?(前編)~結婚相談所「カラーズ」の取り組み
黒川祥子(ノンフィクションライター)
男女交際や恋愛感情に違和感はあるものの、いずれ結婚するだろうと思ってはいたが、いざ、付き合うとなると性行為に踏み切れない。手をつなぐことはできるが、キスは無理。ホテルに行ったものの手前で逃げ出す。そういった経験を繰り返してきた女性たちが、カラーズの存在を知ったことで、自身の特性に気づいていく。
「面談の時点では、『恋愛も性行為もしたくない私って、どうなんでしょうか?』と、女性は相談から入る方も多いですね」
中村さんは女性たちに、質問を投げかける。
「初恋の思い出はありますか?」「お付き合いをした方と、セックスができましたか?」
そう尋ねられて、泣いてしまう女性も多い。
「深く傷ついている方もいます。“普通”に恋愛しよう、性行為に応えようと頑張ってきた人ほど、泣いてしまいます」
交際過程で性行為を求められ、それが苦痛で別れ、また違う人と付き合って、やっぱり無理だと気づくことを繰り返した女性たちだ。
意外なことに中村さんのもとには、50代や60代の女性からの問い合わせもくるという。既婚の人もいれば、離婚した人もいる。「どうして今までこんなにセックスが嫌だったのか、腑に落ちました。もっと早く、アセクシャルやノンセクシャルという言葉を知りたかったです」と彼女たちは言う。
女性は結婚するもの、結婚すればセックスするもの。それが「当たり前」だと言われて育ち、結婚生活の中で、意に反して性行為をせざるを得なかった女性たちが、水面下にどれほどいるのだろう。
「一方、性行為の経験が一切ない方も多いです。自分が性的に見られるだけで、気持ちが悪い。キスをしたこともないと。彼女たちは雑誌などでよく特集されている『抱かれたい男ランキング』なんてギャグだと思っていたと言いますね。男に抱かれたいなんて、女性が思うわけがないだろう、と」
おそらく彼女たちはみんな、周囲から「まだいい人と出会ってないから、恋愛・結婚のよさがわからないのだ」などと決めつけられてきたのだろう。「そうではない」と喉まで出かかっても、誰もが恋愛をするものだという「当たり前」が彼女たちの口を塞いできた。
「自分の違和感を誰にも話したことがない、言ってもわかってもらえないからと、皆さん、おっしゃいます」
恋愛結婚などたかだか、戦後数十年の歴史しかない。実際、祖父母、曾祖父母の時代にはお見合いなどで、恋愛感情を抱くどころか、顔も知らない相手と結婚することも珍しくなかった。にもかかわらず、なぜこれほど、恋愛が「至高」「不可欠」であるかのように奉られているのだろう。少女マンガやドラマの影響なのか、結婚への道は恋愛以外あり得ないような“刷り込み”が未だ、世を覆っている。しかし、人生をともに歩める人を見つけられたのなら、恋愛や性愛が伴っていようといまいと、その価値は変わらないはずだ。「恋愛すべき」という内外の圧力に耐えきれなくなった人にとっては、友情結婚は、驚くほど新鮮な選択肢に映るだろう。
●なぜ、結婚なのか
彼・彼女たちが結婚したい理由は、恋愛結婚とあまり変わらないと中村さんは言う。
「結婚相手に恋愛感情を抱いている 、という点を除けば、一般的な理由と同じです。伴侶がほしい、家族がほしい、親を安心させたい。人によっては世間体、キャリアアップのため。結婚しない人が増えているとはいえ、日本ではまだまだ結婚しないというのはマイノリティですよね。やっぱり、生きづらいんです」
職業によっては、結婚していないことが、昇進や信頼の妨げになることもある。一定の年齢になれば、結婚していないだけで周囲の圧にさらされる。余計なプレッシャーを跳ねのける上でも、「“普通”に結婚する」ことが重要になってくる。
だからといって、カミングアウトして同性婚をしたいわけではない。
「皆さん、“普通”に生きていきたいと言うんです。異性と結婚して子どもをもうけて、家族になる。『自分の親みたいな家族をつくりたい』と言いますね」
そう、子どもがほしいという理由はかなり大きい。男性の9割は、自分の子どもがほしいと望んでいる。女性の場合は年齢の問題もあり、子どもを持ちたいと思うのは7割か8割ほど。
「男性は特に、子どもがほしくなければ、そもそも婚活しないですよね。女性を好きにならない男性でも子どもはほしいと思い、性愛によらない結婚を選ぶわけです」
友情結婚における妊活は、もちろん性行為以外の方法だ。
●交際期間は、話し合い期間
カラーズでは、面談、入会を経てお相手を紹介された後、「話し合い」期間といういわゆる交際期間に入る。
「『話し合い冊子』というガイドラインを作っていて、これに沿って結婚の条件をすり合わせていく時間が交際期間となります」

「話し合い冊子」をもとに、生活面、仕事面、人間関係など、さまざまなことをすり合わせる(資料提供:カラーズ)
例えば、恋愛結婚ならおざなりにされがちなことだが、お金に関してはお互いの収入や貯金額、あるいは借金など全てを明らかにする。
「婚前にきちんと話し合うことは、友情結婚に限らず、どんな結婚生活でも必要なことだと思います。生活費、子どものこと、親の介護、冠婚葬祭での親戚付き合い、住居、家事の分担などすべてが、結婚前にきちんと話し合っておかないと、必ずもめるようなことですから」
子どもに関しては、希望するか、しないか。希望するならば、「妊活方法」をどうするか。これこそ、友情結婚ならではの問いだ。
「妊活方法に関しては、一般的な不妊治療と変わりません。シリンジ法(シリンジ=針のない注射器に精液を入れ、膣に注入する方法)や、人工授精など。妊活は時間的、精神的、金銭的に負担がかかるので、妊活方法についてお互いの条件や希望のすり合わせが必須となります」
同居か別居かという選択もあるが、圧倒的に同居を望むカップルが多い。別居を選ぶのは、50組中1組か2組だと言う。
「同居とはいえ、それぞれ個室を持つのが基本ですので、2LDK以上の住居になりますね。共働きが圧倒的ですので、食事をいつも一緒にとるのか週末だけなのか、など話し合います。掃除や洗濯など家事の分担も話し合いますし、光熱費や家賃など家計をどう負担していくかも、具体的に話し合っていきます」
共働きを望む人が多いのは、仕事にやりがいを持って働いている女性が多いこともあるが、婚姻関係がこの先どうなるかわからないため、経済的自立を手放したくないと考えている女性もいるようだ。
「離婚については冊子に書いていませんが、どういったことが起きれば離婚になる、ということは話し合っておいたほうがいいとお伝えします。だから、その項目として『相手にしてほしくないこと』があります。話し合いの過程では、否応なく自分を見つめることになります。好きか嫌いでなく、自分ありきの結婚ですから。なぜ、結婚したいのか、どんな人生を送っていきたいのかなどが、あぶりだされてくるわけです」
話し合い項目に、「LGBT活動について」というものがあるのも、友情結婚ならではだ。
「主にゲイやレズビアン、つまり『同性への恋愛感情や性的欲求がある』方が対象で、『家庭の外に恋人を作るかも』『風俗店にたまには行きたい』などの行為を、『LGBT活動』と呼んでいます。それらの行為について、配偶者として認めるかどうかを話し合います。『知らなくていい』という人もいれば、『しっかり聞いておきたい』という人もいます」
話し合い期間中に、デートの時間も持つようにと勧めている。
「一般の結婚相談所はNGとしていますが、お互いの家に行ったほうがいいとアドバイスします。部屋を見れば生活感、価値観がわかるので。宿泊はNGですが、一緒に遠くまで出かけるとか、趣味を楽しんだりと、仲良くなれる活動を勧めています。恋愛結婚と違い、一緒にいてワクワクする、楽しいという感情はあまり起きないわけですが、居心地がいいとか、一緒にいて楽だとか、自然体の自分でいられるとか、そういうところを確認していくのが、デートの時間です。好きになるかどうかではなく、家族になる相手を探すわけですから」
●新しい結婚のカタチ
カラーズが定める交際期間は3カ月だが、6カ月までの延長は認めている。そこで相手と成婚するか、しないかを決めるのだ。
著者情報
ノンフィクションライター
黒川祥子
くろかわ しょうこ
1959年福島県生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒業。業界紙記者などを経てフリーライターとなり、家族の問題を中心に執筆活動を行う。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち』で第11回開高健ノンフィクション賞を受賞。著書に『熟年婚』(河出書房新社)。 また、橘由歩の筆名で『「ひきこもり」たちの夜が明けるとき』(PHP研究所)、『身内の犯行』(新潮新書)、『セレブ・モンスター』(河出書房新社)、『全国ごちそう調味料』(幻冬舎)、『県立!再チャレンジ高校』(講談社現代新書)、『PTA不要論』(新潮新書)、『8050問題』(集英社)、『心の除染』(集英社文庫)、などがある。息子が二人いるシングルマザー。