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新しい結婚のカタチ、「友情結婚」とは?(後編)~成婚者に聞く、夫婦生活の実態とメリット・デメリット

黒川祥子(ノンフィクションライター)

 こうしてナナさんは、友情結婚のための婚活を始めた。32歳の頃だった。当時はまだカラーズの設立前。望んだのは、“恋愛感情はないが、心の交流ができる人”だったが、掲示板などで活動していく中、都合のいい相手はいないのだと思い知らされた。
 それでも結婚したいかどうか、ナナさんは自身の中で突き詰めていった。

「35歳を過ぎると、独身女性に対する世の中の視線が厳しくなると感じます。途端に“おばちゃん”扱いされるし、職場で結婚していない人は半人前に思われていました。それに独身でがんばっている自分を“痛い”と思うようになってしまって、最終的に、私の目標は結婚すること、既婚者になることになったんです。相手がどうのではなく、要は陰口が叩かれないように」

・目的は「結婚」そのもの
 婚活中にカラーズができたことは知っていたが、1年ほどようすを見て、38歳で入会した。ナナさんが結婚に求める条件は、子どもなし。子どもを産むつもりも育てるつもりもなかったからだ。

「カラーズで多いのは、“同居で、子どもあり” を希望する人。私は別居がよかったけれど、そこまで条件を絞ると、お見合い相手が見つからなくて。友情結婚の世界でも、男性が若い女性を好むのは変わりがありません。38歳という年齢だと、どんどん条件を緩めるしかなく、譲れないのは“子どもなし”だけでした」

 お見合いは3回連敗。「“子どもなし”でいい人なら、誰でも」とリクエストして紹介された相手と交際を開始した。カラーズ設立の頃から在籍している男性会員だ。

「私は最初からもう、この人でいいと思ったけど、相手の希望で話し合い期間の期限ギリギリの6カ月まで延ばし、ようやく成婚退会。彼はゲイと自認しているけど、彼氏をつくったことはない。高身長と高学歴、大企業勤めと、条件面はいい人でした」

 ナナさんは「今考えても、あの時は彼しか選択肢がなかった」と振り返る。目的は結婚なのだ。

「いい大学を出ていて、収入や金銭感覚、生活レベルなども合ってるし、親に紹介しても不自然じゃない人だった。正直、成婚した段階で、人として『合わない』と思っていたけれど、これ以上、婚活したくなかったので、妥協しての結婚でした」

・結婚してみたものの……
 結婚に際して、ナナさんはトラブルを想定して取り決めの文書を作成した。

「自分の親の介護は自分でする。盆や正月にお互いの実家には行かない。共同の物は買わない。離婚する時はお互いが持ち込んだ荷物をそれぞれ引き取るなど。私がネットで調べて、もめごとになりそうなことを文書にしました」

 結婚式や新婚旅行という、親や親戚のためのイベントをこなす過程で、彼とはコミュニケーションのとり方が根本的に違うのだと、即断即決派のナナさんは何度も煮え湯を飲まされ、確信した。

「彼は大企業勤務で、一応、普通の社会人をしています。でも何か決めようと話を始めると、向かい合っていても黙り込んでしまって会話が成り立たない。言いたいことは後になってから、紙にびっしり手書きしてリビングに置いてくるんです。最初は何とかコミュニケーションを成立させたいと頑張ったし、辛抱強く、やさしく接して、食事を作ったりもしたのですが、最終的には基本、彼とは会話は成り立たないと判断するに至りました。私もその間のストレスで、精神的に良くない方向にいっていると感じ、やさしくするのもやめました。早い時期から、完全に家庭内別居状態です」

 平日は彼が帰宅する夜9時までに、ナナさんは食事や入浴を済ませ、部屋に籠る。土日も別々に外出するなど、同じ時間帯に家にいないよう調整するなどして、結婚生活を保ってきた。

・結婚した理由がなくなった
 しかし、コロナで全てが変わった。

「お互い在宅勤務が中心になりました。外出も気軽にできないし、週7日、相手を避けながらずっと同じ家にい続けるという、非常にシュールな状態です。こういうことを想定していませんでした」

 ナナさん自身の状況も変わった。結婚時の会社を辞め、別の会社に転職した。

「今の会社はプライベートに踏み込んでこないので、すごく快適なんです。だから私、結婚していなくていいのかもって思い始めています。結婚した理由がなくなっちゃった感じなんです」

 ナナさんが婚活を始めたきっかけである、孤独感はどうなのだろう。

「彼は全然、孤独を癒やす存在ではありませんでした。在宅勤務で人と会う機会も減って、孤独感は増しているけど、望むもの全部を無理に手に入れようとしなくてもいいかな。仕事や金銭面では困っていないので、それで満足できているならいいかな、と思っています」

 ナナさんは次第に、結婚の幕引きを考えるようになった。

「今時、離婚する人も珍しくありません。親には以前から不仲であることを伝えて、それほど唐突に思われないように伏線を張っています」

 カラーズでは友情結婚の仲介をするが、代表の中村光沙さんは離婚もありだと考える。友情結婚を続けることで生きにくくなるのであれば、解消して人生をやり直すのも当然の選択だ。
「大事なのは、自分が何を求めて友情結婚をするのかを明確にしておくこと」と思うナナさんは、友情結婚という“シェルター”が足かせになりつつあることを感じている。「次」の人生へ、向かう時なのかもしれないと。

 最後に紹介するのは、友情結婚をすることで、子どもを得ることができたカップルだ。ゲイの「オット(夫)さん」(仮名、年齢非公表、男性)と、ノンセクシャルの「リカさん」(仮名、40歳女性)には、婚活時からお互い、子どもがほしいという強い思いがあった。

●ケース3:リカさん&オットさん

 この人となら友情結婚をしてもいいと思えた要素は他にもいくつもあったが、一番大きかったのは、お互い「子どもがほしい」という明確な思いがあったことだ。 
 リカさんは、一般の結婚相談所で長いこと婚活をしてきたが、誰かに決めることがどうしてもできなかった。

「この人といずれ手をつなぐ、キスをする、と思っただけで、すごい嫌なんです。絶対に無理。それでネットで検索するうちにカラーズに出あい、面談で中村さんから『ノンセクシャル』という言葉を聞いて、腑に落ちた感じ。“ああ、そうなんだ、じゃあ友情結婚をしよう”と思いました」

 一方、オットさんも婚活をし、何度お見合いしても、どうしても先には進まないなか、友人から友情結婚の話を聞いた。

「そこからカラーズに出あい、中村さんに会って入会しました。“自分はゲイだから、子どもを持つなんて無理”だと思っていましたが、中村さんを信じれば、自分の子どもを持てるのかなと、“子どもあり”を希望しました」

・同棲クライシスを乗り越えて
 リカさんとオットさんは交際を開始、ほどなく成婚退会した。この時、リカさんは40歳間近。年齢を重ねれば重ねるほど妊娠する確率は低くなってしまう。だが、すぐ入籍とはいかず、オットさんの提案でお試し同棲をすることに。リカさんは期限を決めて了承した。

「同棲期間中に月日が経つのが嫌だったので、不妊専門クリニックに行って、相当細かく検査をして、いつでも妊活を始められるようにしておきました」

 ところがこの間に、オットさんの方から「入籍は無理」と声が上がった。オットさんは言う。

「生活習慣やものの考え方が違うのは当たり前ですが、自分の中でここは譲れないと思うことがいくつかありました。相手が好きな人なら譲れても、そうでない人だと難しい」

 無理と言われても、リカさんはそれを簡単に受け入れるつもりはなかった。

「成婚退会する時に腹を括ったんです。結婚するということは、すぐに別れるという選択をするよりも、どうにかうまくやっていくことを考えなければいけない。今後もいろいろと問題が持ち上がるかもしれないけど、そのたびに別れようというわけにはいかない」

 その思いに、オットさんも揺らぐ。何より、早く子どもがほしいという思いが優先した。ほどなく二人は入籍、すぐに妊活を開始し、数回の人工受精で妊娠。

「年齢の割にはスムーズに妊娠・出産できて、本当にラッキーでした」

・子どもがいる暮らし
 妊娠期間中、リカさんは多くの女性と同じように体調不良に苦しみ、思うように仕事もできなくなるなど、これまで経験したことのない不安定な状態に陥った。そんなリカさんを、オットさんは支えた。

著者情報

ノンフィクションライター

黒川祥子

くろかわ しょうこ

1959年福島県生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒業。業界紙記者などを経てフリーライターとなり、家族の問題を中心に執筆活動を行う。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち』で第11回開高健ノンフィクション賞を受賞。著書に『熟年婚』(河出書房新社)。 また、橘由歩の筆名で『「ひきこもり」たちの夜が明けるとき』(PHP研究所)、『身内の犯行』(新潮新書)、『セレブ・モンスター』(河出書房新社)、『全国ごちそう調味料』(幻冬舎)、『県立!再チャレンジ高校』(講談社現代新書)、『PTA不要論』(新潮新書)、『8050問題』(集英社)、『心の除染』(集英社文庫)、などがある。息子が二人いるシングルマザー。

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