新しい結婚のカタチ、「友情結婚」とは?(後編)~成婚者に聞く、夫婦生活の実態とメリット・デメリット
黒川祥子(ノンフィクションライター)
「私はこれまでずっと仕事をしてきて、これからもそのつもりだったのに、妊娠期間はどうしても体調が悪くなる。このまま仕事ができなくなるのではと不安になった。産休・育休期間は、彼が金銭的なフォローをしてくれたこともあり、すこしずつ家族として信頼感をもてるようになりました」
その思いは、子どもが生まれてからますます強まっている。
「出産してからは、本当にいろいろと子どもの世話をしてくれて、子どもをとても大事にしてくれています。産後の授乳などで、睡眠が取れなくなる大変な時期もちゃんと支えてくれました」
新生児の育児に及び腰になる男性も多いが、オットさんはどうだったのだろう。
「新生児を抱くのはみんなそうだと思いますが、最初は怖かったです。でも、すぐに慣れました。初めての育児で手探りなのですが、自分の子どもだという思いがあって、もう、無条件にかわいいです」
産後1年経たずに職場復帰したリカさんだが、この時も、オットさんのバックアップがありがたかった。
「子どもができる前は、私は彼の好きな人ではないから、私に対してはどことなく優しさがなかったんですよ。でも、子どもが生まれてからは、子どもの母親として優しくしてもらえるというか、大事にされるようになったと思います」
リカさんは、オットさんが子どもに接する姿を見るたびに強く思うことがある。
「自分が大事なのものを、自分と同じぐらい大事にしてくれる人がいるというのは、本当に心強い。結婚してよかったとつくづく思います」
子どもは今、1歳。平日は2人とも朝6時に起き、オットさんが子どものシャワーと着替えをすませる間に、リカさんが子どもの離乳食を作る。オットさんが子どもに食べさせ、リカさんが自分たちの朝食を作る。オットさんが先に家を出て、リカさんは子どもを保育園へ連れて行き、家に戻って在宅勤務。夕方5時にリカさんが保育園に迎えに行き、ご飯を食べさせ、お風呂に入れ、寝かしつける。オットさんが早く帰れる日はリカさんが寝かしつけている間に、オットさんが夕食を作ることもある。
「オットがすごく子どものことを見てくれるので、美容院に行くことができたり、体調が悪い時にきちんと休めたりできて、とても助かります」
オットさんは休みの日、午前も午後も子どもと散歩に出かけるという。そこまで子どもと付き合ってくれる親はなかなかいない。蛇足を承知で、少なくとも私には無理だったことを付け加えておく。
・友情結婚ならではの悩みも
ノンセクシャルのリカさんはたとえ好きな人であっても性行為をしたいわけではないが、オットさんは違う。ここに、友情結婚ならではの悩みがある。
「結婚前の話し合いで、僕は、『友達付き合いはする』と言っていますし、今まで付き合ってきた友達とは今も普通に会っています」
リカさんには、オットさんに制限してほしいと思う付き合い方がある。
「私は、オットが同じセクシャリティの風俗店みたいなところに行くのはいいけど、特定の人をつくるのは完全にアウト。付き合って、恋人関係になると定期的に会うことになると思いますし、お相手側の事情・感情もいろいろあると思います。オットが私たち家族にかける時間が減るだろう、オットのお相手の方が私たち家族にどのような感情を持つかなどを考えてしまいます。私はさまざまなことを想定し、『特定の人と恋愛関係を持つことはダメ』ということにしました。恋愛感情を持つことは否定していません。ただ、積極的に恋人関係になろうという行動はしないでほしいため、このように伝えています」
自分の中で何を優先するのかを考えた時、二人とも、一番に浮かぶのは、子どものことだ。リカさんは言う。
「極力、離婚はしたくないなって思います。子どものためには」
オットさんも、同じ思いだ。子どもを前に、共通する思いに変わりない。
「二人で、子どもに愛情を注いで育てたい」
保育園で「普通の」夫婦を見るたびに、リカさんは思う。
「友情結婚っていう感覚すら、いつの間にかなくなって……。特別なことをしている感覚もないなって、それぞれの夫婦を見て思います」
・チームとして、子育てを
妊娠・出産を経験して、リカさんは強く思うことがある。
「友情結婚って、夫婦がそれぞれ独立した収入で暮らしているところが多いけれど、妊娠は女性に負担がかかって、働けない時期もでてくる。そんな時、金銭面で相手に『ちょっと出して』と言えるような関係になっていないと大変だと思います。友情結婚を希望する女性は自立している方が多いので、甘えるのが苦手かもしれませんが、そこは甘えていいと思うんです。オットはそういうことをちゃんとしてくれるので、守られていると実感します。家族というチームで、支え合っているという感じですね」
今は守られているリカさんだが、オットさんが弱った場合には、子どもの母親として、自分が最後まで支えるという覚悟がある。
リカさんとオットさんは今、子どもを中心に家族として生きている。そしてこれは紛れもなく、友情結婚がなければ存在し得ない家族なのだ。
オットさんは友情結婚で子どもを持ちたい男性に、ちょっとだけ伝えたいことがある。
「要は、奥さんを大事にすることかな。とにかく、子どもがかわいすぎるので、子どものためには奥さんとのチームを良好に保ってやっていくということですね」
二人は今、二人目の子どもを望んで妊活中だ。
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友情結婚とひと口に言っても三者三様、それぞれのカップルのそれぞれの形があった。恋愛や性行為を伴わない友情結婚は、通常の結婚とは別の関係性で結ばれた“伴侶”や“家族”をもたらしてくれる、新たな結婚のカテゴライズだ。
それは、自身のセクシャリティや孤独、将来への不安に悩み、生きにくさを抱えた人たちを「結婚=恋愛」という呪縛から解放すると同時に、思いもしない人生の扉を開いてくれるものでもある。常識を逆手にとって差別的視線をかわし、世間を味方につけることで、自分らしく自由に生きることができるようになる。
友情結婚は、マジョリティである側が抱く「常識」を、軽やかに相対化してくれるのかもしれない。
著者情報
ノンフィクションライター
黒川祥子
くろかわ しょうこ
1959年福島県生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒業。業界紙記者などを経てフリーライターとなり、家族の問題を中心に執筆活動を行う。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち』で第11回開高健ノンフィクション賞を受賞。著書に『熟年婚』(河出書房新社)。 また、橘由歩の筆名で『「ひきこもり」たちの夜が明けるとき』(PHP研究所)、『身内の犯行』(新潮新書)、『セレブ・モンスター』(河出書房新社)、『全国ごちそう調味料』(幻冬舎)、『県立!再チャレンジ高校』(講談社現代新書)、『PTA不要論』(新潮新書)、『8050問題』(集英社)、『心の除染』(集英社文庫)、などがある。息子が二人いるシングルマザー。