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迫りくる「蚊の感染症」に備える

熱帯の病気が日本で拡大する

葛西真治(国立感染症研究所 昆虫医科学部第三室 室長)

 デング熱以外にも、蚊が媒介者となる感染症は、ハマダラカの仲間によるマラリアネッタイシマカによる黄熱コガタアカイエカによる日本脳炎、多くの種類の蚊によるウエストナイル熱アカイエカの仲間によるフィラリア症ネッタイシマカやヒトスジシマカによるチクングニア熱などが挙げられます。
 世界で毎年2億人が感染しているとされるマラリアですが、かつては日本でも流行したことがありました。ただし、今後日本でマラアリアが大規模に流行する可能性は低いと、筆者らは考えています。マラリアを媒介するハマダラカの幼虫の生息地は、日本においてはおもに水田ですが、たくさん繁殖するためには牛などの大型の吸血源動物が必要です。近年の日本では、水田と牛舎が近くにあるような環境が激減したため、ハマダラカの数がかなり減ってきているなど、人々がハマダラカに刺される機会が減っているからです。

もう一つの感染症の懸念

 デング熱と並んで筆者らが最も警戒しているのは、チクングニア熱です。患者はデング熱に似た症状を示しますが、死に至ることもある感染症です。
 フランス領の島国レユニオンでは、2005年の流行時、全国民の3分の1にあたる26万人が感染し、200人以上の死者を出しました。感染力が非常に強いうえ、ウイルスは蚊に取り込まれてから最短でわずか2日間で唾液腺(だえきせん)の中に移行・増殖し、他の人へ移すことが可能になります。
 さらに最近、チクングニアウイルスの遺伝子が突然変異を起こし、それまで媒介に強く寄与していたネッタイシマカに代わって、ヒトスジシマカの体内で増殖しやすいタイプへと変化しました。四季があり、気候が日本に似ているイタリアやフランスでも国内流行が起こっていることや、日本における輸入症例数が11年以降増え続けていることなどから、いつ国内感染が起こってもおかしくない感染症と言えます。
 海外では、現在もなお蚊が媒介する多くの感染症が流行し、人々を苦しめています。しかし、住環境が大きく改善し、以前ほど蚊に刺される機会が減った日本においても、ヒトスジシマカは例外です。私たち一人ひとりが意識してこれらの発生源を減らすことで、流行が起きにくい環境を整えることが重要だと思います。
 昨14年は首都圏を中心に流行しましたが、デング熱やチクングニア熱が本州以南のどこで起こってもおかしくない感染症であることを理解していただき、日頃からその存在に目を向けていただけたらと思います。

著者情報

国立感染症研究所 昆虫医科学部第三室 室長

葛西真治

かさい しんじ

1970年生まれ。筑波大学大学院農学研究科博士課程修了、農学博士。アメリカ・コーネル大学博士研究員を経て2000年から国立感染症研究所研究員となり、主任研究官を経てコーネル大学客員研究員を務めたのち、現職。蚊、ハエ、ゴキブリ、シラミのように病気を媒介する衛生害虫の防除対策や、殺虫剤抵抗性分子機構の解明と抵抗性のモニタリング、殺虫剤の新規作用点の探索などを研究。著書に『分子昆虫学 ポストゲノムの昆虫研究』(共著、共立出版、2009年)、『招かれない虫たちの話』(共著、東海大学出版部、2017年)などがある。

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