スズメバチはなぜヒトを刺すのか!?
小野正人(玉川大学農学部教授)
もし、スズメバチの巣を見つけても、興味本位で近づくのは厳に慎むべきです。9月も半ばを過ぎれば、キイロスズメバチの巣の中には500匹を超える働きバチがいると考えられます。
身の回りをまとわりつくようにスズメバチが飛ぶようなことがあれば、知らず知らず巣に近づいている可能性が高いので、もと来た道をゆっくりと後ずさりして、その場から離れることが賢明です。そうすれば、その警戒も解かれ、事なきを得られます。
郊外に出かけるときには、身なりにも気を配りたいものです。まず、服装ですが、刺激を受けて興奮したスズメバチは黒くて光るところを狙い撃ちする習性があるので、白い帽子をかぶり、着衣も白系の色の淡いものを選ぶのがよいでしょう。さらに、スズメバチは非常に鋭敏な嗅覚をもっており、香り物質によってコミュニケーションをとっているので、香りの強いものを身につけると、その香りの中にスズメバチを刺激してしまう成分が含まれている可能性があることも念頭に置いてください。
スズメバチの巣が自宅で見つかった場合、今の時期は素人の手で駆除することはきわめて危険、こじれると隣家に迷惑をかけてしまうことも懸念されます。巣の駆除を請け負う専門業者に依頼して撤去するようにしたいところです。高額な駆除費用を一部補助してくれる自治体もあるので、相談してみるのも一案でしょう。
万が一にも刺されてしまった場合には、できるだけ迅速にその巣から遠くに逃げましょう。安全な場所に避難したら、刺された患部を指でつまんで圧力を与えると、針の穴から血液と一緒に毒液が出てくるので、冷たい流水で洗いながら体外に毒を絞り出します。また、毒液を簡単に抽出できる器具がアウトドアショップなどでも購入できるので、備えて置くとよいかもしれません。
全身にかゆみが走りじんましんが出る、息苦しい、ふらふらするなどの全身症状が出た場合には、アナフィラキシーショックが発症した可能性が高く、医師による一刻も早い診断と治療が必要となります。蜂毒によるアナフィラキシーショックは、発症までの時間が非常に短いのが特徴で、数十分程度で意識を失い、死に至る場合もあります。もちろん、アレルギー反応である以上、抗原に対して過敏になる人とならない人があるので、心配な方は、皮膚科やアレルギー内科で、蜂毒に対する抗体量やリスクを診断してもらうとよいでしょう。
新たな外来種も侵入中
2012年、長崎県対馬において、韓国から侵入したとされるツマアカスズメバチが見つかりました。その後次々と巣が発見されて定着が確認、15年1月には環境省により特定外来生物に指定されることになります。
体のサイズはキイロスズメバチ程度で小型の部類に入るものの、巣の大きさは長径1メートルを超え、繁殖力や攻撃性が高く、危険な種として知られています。対馬ではニホンミツバチの養蜂に極めて深刻な被害をもたらしているとともに、ヒトに対しての被害も発生しています。
韓国から対馬への移入は、船などで移送される物資の中に女王バチが紛れ込んで、巣作りが成されたことによるものと考えられますが、当の韓国にも侵入種として分布を拡大した経緯があります。15年9月には福岡県北九州市でも営巣が確認され、16年5月には宮崎県日南市で女王バチ1頭が捕獲されるなど、予断を許せない状況となってきました。
現在のところ、この外来スズメバチの日本国内での分布拡大を食い止める方策として、巣作り前の女王バチの捕獲と殺虫、巣の早期発見と駆除、生殖虫(オスバチと新女王バチ)を巣立たせない、といった対処療法的な手段が必要です。ツマアカスズメバチの蔓延化を防止するためには水際での対応が重要で、これからの動向を注視しなければなりません。
著者情報
玉川大学農学部教授
小野正人
おの まさと
1983年、玉川大学農学部卒業。88年、同大学大学院農学研究科修了(農学博士)。スズメバチ、ミツバチ、マルハナバチなど社会性ハチ類を対象に基礎と応用の境界で研究を展開している。研究成果は、イギリスの科学誌『ネイチャー』(「ニホンミツバチのスズメバチに対する熱殺蜂球」〈1995年〉、「オオスズメバチの複数成分系警報フェロモン」〈2003年〉)をはじめとし、多数公表されている。アメリカの『ナショナルジオグラフィック』、イギリスのBBC、日本各局のメディアを通じて、スズメバチなどの特徴について啓蒙活動にも尽力している。施設栽培でポリネーター(花粉媒介者)として使用される日本在来種マルハナバチの実用化に関する研究も注目されている。
玉川大学農学部長、総合農学研究センター長、大学院農学研究科長を兼務。日本学術会議連携会員、社会福祉法人こどもの国協会評議員、神奈川県環境影響評価審査会委員。日本応用動物昆虫学会賞、環境賞、井上研究奨励賞などを受賞。
著書に『スズメバチの科学』(海游舎)、『マルハナバチの世界 ―その生物学的基礎と応用―』(社団法人日本植物防疫協会)などがある。