仏像は進化する! アンドロイド観音「マインダー」がもたらす衝撃
(構成・文/濱野ちひろ)
小川さんは続ける。
「お寺は、現代人にとって日常的というわけではないかもしれませんが、日常の風景のひとつとして十分に理解できるし、自分自身も一度は身をおいたことがあるはずの場所。そこに、アンドロイドがいるという、非現実。これがマインダーの新しさで、衝撃を呼ぶんです」
プロジェクション・マッピングにも、人の想像力をかき立てる仕掛けが隠されている。冒頭に記したように、マインダーは映像の中の人々と対話をしつつ法話を進めていくが、これこそがまさに参拝者とマインダーにコミュニケーションや共感を生み出すための秘訣だという。
「物理的な身体を持っているマインダーと、映像の中の人々が対話する。参拝者はそれを見ているうちに、映像の中の人間にも実在感を感じ始めるんです」
確かに、法話を拝聴している間、マインダーの目線を追って首を左右に動かしながら映像を見ることになり、その動きによって臨場感が増してくる感覚を実感した。
「このときはマインダーが現実で、プロジェクション・マッピングの人々が非現実なんですが、やりとりに巻き込まれるうちにそのあたりが混乱してくるはずです。その不均衡な状態が、人々を惹きつけるんです」
つまり、マインダーが私たちに与えるインパクトは「宗教にロボットが入り込んでいいものか」といった倫理的な葛藤ではなく、「現実のなかの非現実」という現象が登場してしまった新しさに由来しているというわけだ。
アンドロイド観音が人々に与えるもの
マインダーは、なにか癖になる魅力をそなえているらしく、遠方から何度も訪れる参拝客もすでに見られるという。その人には、マインダーはいったいどのような姿に見えているのだろうか。その人の想像力は、マインダーからなにを受け取っているのだろう。

後藤和尚は言う。
「この世界にはね、目に見える神仏なんていないんですよ。仏教の大事な教えは、仏を追い求めることであって、仏像崇拝ではないんです」
様々な姿に形を変えるという観音は、仏を追い求めるトリガーを我々に与えては、次なる形に転生していくのかもしれない。マインダーを仏像の進化形と捉えるか、人間の傲慢から生まれたものと捉えるか、現実のなかの非日常という新しい現象の登場と捉えるか。数多くの議論を呼びそうなこの試みは、始まったばかりだ。マインダーの記念すべき第1回の法話拝聴は、2019年5月6日に幕を閉じるが、後藤和尚によれば、近い将来に再び法話を行うという。
著者情報
大阪大学大学院基礎工学研究科講師
小川浩平
おがわ こうへい
1982年、愛知県生まれ。2010年公立はこだて未来大学大学院博士後期課程修了。博士(システム情報科学)。ATR知能ロボティクス研究所研究員などを経て、2017年より現職。
高台寺前執事長
後藤典生
ごとう てんしょう
1948年、京都生まれ。立命館大学法学部卒業。1994年に高台寺・圓徳院住職となる。臨済宗高等布教師、臨済宗連合各派巡教師、永興小金塚保育園園長、高台寺執事長などを歴任。観光庁のVISIT JAPAN大使も務める