超高速の飛行機レース、レッドブル・エアレースを楽しもう!
川喜田研(ジャーナリスト)
操縦技術の限界に挑む究極の飛行機レースが日本にやってくる! 2016年6月4~5日、千葉市・幕張海浜公園で開催される「レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ」。世界トップレベルのパイロットたちが、全長わずか7~8メートルの機体を駆使して最高時速370キロでかっ飛び、迫力のターンや高速スラロームを次々披露するモータースポーツだ。レースのルールや歴史、魅力的なパイロットたちを予習して、ワールドクラスの空の祭典をとことん楽しもう!
レッドブル・エアレースとは?
6月4~5日に千葉県の幕張海浜公園で開催される「レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ第3戦、千葉大会」。別名、「究極の3次元モータースポーツ」とも呼ばれる飛行機レースの最高峰だ。
レッドブル・エアレースが誕生したのは今から13年前のこと。
飛行機レースをより親しみやすく、エンターテインメント性の高いものにしようというコンセプトの下、ハンガリー人のパイロット、ピーター・べゼネイらの発案で03年に第1回大会が開催され、05年からは国際航空連盟(FAI)公認の世界選手権としてスタート。
以来、イギリスのアスコット競馬場、ロンドンのテムズ川やハンガリー・ブダペスト市街地のドナウ川上空、オーストリアやアメリカの自動車レース用サーキット……など、観客のアクセスが良く、見た目にも華やかなロケーションを開催地に選ぶことでも大きな話題を集め、今では世界中に多くのファンを抱える人気シリーズへと発展してきた。
この世界最高の舞台で争うのは、元空軍のエースや曲技飛行の世界チャンピオンなど、各国から選び抜かれた14人のパイロットたち。
このうち、唯一の日本人パイロットである室屋義秀選手は09年から参戦。通算5シーズン目の16年(11~13年はシリーズ自体が休止)は母国、日本でのレースで悲願の初勝利に賭ける。
厳正なルールのもとに技術を競う
ここで簡単に競技の概要を解説しておこう。レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップに使用されるマシンは、プロペラ単発、ひとり乗りの曲技用飛行機を改造したレース専用機。
平等なコンディションの確保と、過剰な開発競争による参戦コストの高騰を防ぐ目的で、エンジンとプロペラは全機が同じものを使うことが義務付けられているが、機体の選択は基本的に自由。各チームとも最高の操縦性やスピードを求めて、空力性能の向上や軽量化など、独自の改造を行っている。
最高速度は時速370キロメートル前後、極限まで機体の運動性能、旋回性能を高めた結果、急旋回時に発生する重力は最大10G超。つまり、仮に体重70キログラムならその10倍にあたる、700キログラム近い重力に耐えながら、ミリ単位の繊細さで操縦桿の操作を行い、1000分の1秒単位のタイムを争う世界。エアレースが「究極の3次元モータースポーツ」と呼ばれるゆえんだ。
スピード&旋回でコースを攻略!
そんな戦いの舞台となるのが「レーストラック」と呼ばれる空の特設サーキット。地上や海上に、特殊な布を空気圧で膨らませた高さ25メートルの巨大なパイロンを設置。一列に並んだパイロンを縫うように飛ぶ「シケイン」や、2本のパイロンで作られた「エアゲート」で構成されたコースを1機ずつ1~2周し、ラップタイムを競う形で競技が行われる。
ただし、単に速いだけではなく、曲技飛行にも求められるような緻密(ちみつ)で高度な機体コントロール技術が不可欠なのがレッドブル・エアレースの面白さ。
例えばエアゲート通過時に高度が25メートルを超えると2秒加算のペナルティ。それ以外にも、ゲート通過時に機体が水平から10度以上傾いたら2秒加算、パイロンに接触すれば3秒加算、旋回速度が速すぎ、機体にかかるGが10Gを超えたら失格……など、細かいルールが定められている。

パイロットたちには、それらを正確にクリアしながら「理想の飛行ライン」を見つけ出すことが求められるのだ。
慎重すぎても、焦りすぎても負ける1 on 1対決
また、1対1のトーナメント方式を基本とした競技ルールもレッドブル・エアレースのエンターテインメント性を高める重要な要素となっている。
2日間の開催日程のうち、初日の予選では14人のパイロット全員によるタイムトライアルが行われ、この結果をもとに、翌日の1回戦「ラウンドオブ14」の組み合わせが決定。
この勝者7人と、敗者の中で最速のラップタイムをマークした選手を加えた8人が2回戦の「ラウンドオブ8」に進出し、最後に勝ちあがった4人が決勝ラウンド「ファイナル4」に進んで、一発勝負のタイムトライアルで優勝を争う仕組み。
各ラウンドでの「対戦カード」の面白さや、お互いの心理面での駆け引きなど……。そうした人間的な要素がこのシリーズをさらに魅力的なものにしていると言えるだろう。
若さよりも年季! 壮年パイロットの魅力
レッドブル・エアレースのもうひとつの特徴は、実に個性的なパイロットたちの顔ぶれだ。
つい先日、18歳のドライバーが史上最年少優勝記録を更新するなど、同じモータースポーツでも近年、選手の低年齢化が進む自動車レースのF1とは違い、やはり「経験」が大きくモノを言うのがエアレースの世界。
16年シーズンはレッドブル・エアレースの生みの親とも言えるハンガリー人のベテランパイロット、ピーター・ベゼネイ(59歳、以下年齢はすべて16年6月1日現在)と、15年シーズンの年間チャンピオンで「ブリティッシュ・エアウェイズの現役機長」でもあるイギリス人のポール・ボノム(51歳)が現役を引退したものの、14年シーズンの年間チャンピオンで最年長のイギリス人パイロット、ナイジェル・ラム(59歳)はいまだ健在。(ただし、16年シーズン末での引退を表明している)。
近年活躍が目覚ましい最年少のカナダ人パイロット、ピート・マクロード(32歳)など、若手の成長も著しいとはいえ、参戦するパイロットの平均年齢は比較的高めで、各国空軍のエースパイロットや航空学校の教官出身など、様々な経験に裏打ちされた「大人の男」を感じさせるキャラクターがそろっている。
唯一の日本人パイロット、目指すはチャンピオン!
もちろん、我らが日本のエース、室屋義秀(43歳)もそのひとり。大学のグライダー部出身で、その後独力で曲技飛行の腕を磨き、この舞台にたどり着いた彼のキャリアは、レッドブル・エアレースでも異色だが、そんな苦労が刻まれた「大人の魅力」では、個性的な外国人パイロットたちに全く引けを取らない。
初の母国開催となった15年の千葉大会(第2戦)では、待望の新型機を投入し、1回戦のラウンドオブ14で全体のトップタイムをマークする大健闘。
残念ながら、続くラウンドオブ8では「オーバーG」(最高重力加速度が規定の10Gを超えること)でまさかの失格。決勝進出を果たすことはできなかったが、15年シーズンの後半には2度の3位表彰台を得て、年間ランキングでも6位を獲得。今や名実ともに有力パイロットのひとりと目される存在になりつつある。
新型機の操縦性にも慣れ、チーム体制も充実した16年は「いよいよ勝つための準備が整った。毎戦、表彰台を争うつもりで戦いますよ」と明言する室屋。
16年開幕戦のアブダビ(UAE)、2戦目のシュピールベルク(オーストリア)では、機体のトラブルや新しいGセンサーの不調などで思うような戦いが出来なかったものの、6月4~5日の第3戦千葉大会では、失格に終わった15年の雪辱を果たすため、本拠地の福島で万全の準備とトレーニングを続けてきた。
室屋と同じ09年デビューのマット・ホール(オーストラリア、44歳)が15年、2勝を挙げて年間ランキング2位となり、同じく同期のマティアス・ドルダラー(ドイツ、45歳)が16年第2戦で初勝利を飾るなど、同年代のライバルたちが活躍を見せ始める中で、母国、日本でのレースに賭ける気持ちは並々ならぬものがあるに違いない。
「究極の飛行機野郎」たちが、自らの経験と飛行技術の全てを賭けて、大空を舞台に火花を散らす究極の3次元モータースポーツ、レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ。
果たして日本期待の室屋は幕張の空に理想の飛行ラインを描き、悲願の初勝利を手にすることができるのか? その戦いの火ぶたが、間もなく切って落とされようとしている……。
著者情報
ジャーナリスト
川喜田研
かわきた けん
1965年、神奈川県生まれ。92年、ニューズ出版入社。雑誌「F1速報」「レーシングオン」でF1担当編集者、スタッフライターとして勤務。99年に独立し、以後、約10年にわたりF1の現場取材を続けながら、雑誌「F1速報」「レーシングオン」「週刊オートスポーツ」「カーグラフィック」「週刊プレイボーイ」「スポルティーバ」などに執筆。著書に『さらば、ホンダF1 最強軍団はなぜ自壊したのか?』(2009年、集英社)がある。