imidas - 情報・知識&オピニオン

探究

カルチャー

女流棋士・香川愛生、大きな変革期を迎えた将棋界の今を語る

私の情熱の受け皿。やっぱり「勝負」が好き!

香川愛生(女流棋士)

(構成・文/石川敦子)

 アイドルのようなルックスなのに、愛称は何とも豪快な「番長」。内に秘める負けん気の強さと可愛い外見とのギャップが魅力の一つでもある。将棋界から羽を広げて、テレビ出演、オンラインゲーム制作会社のアドバイザーなど異業種でも活躍している女流棋士三段の香川愛生(まなお)さんは、カッコいい“勝負師”でした。

完璧主義の負けず嫌い

 将棋を覚えたのは小学校3年生の時です。クラスメートの男の子が休み時間に教えてくれて、その場でルールを覚えながら指したんですけど、全く歯が立たなくて、こてんぱんに負けて悔しくて。近所のおじいちゃんに泣きついて教えてもらいました。後から知ったんですけど、その方はアマチュアの六段だったんです。プロ棋士ともいい勝負ができるくらいの実力者でした。そしてものすごい「攻め将棋」をする方。私の「棋風」のガンガン行く「攻め将棋」はそこにルーツがありますね。話は飛びますが、指し方の個性は面白いですよ。見た目すごくおとなしそうな女の子でも、将棋はめっちゃ攻めてくる超強気だったり。どっしりと構えた社長さんでも、いざ将棋となると慎重派の弱腰だったり。その人の内面が表れるんです。
 将棋の攻めって、例えばサッカーと同じで、どんどん前進していくことなんです。前進し、相手の陣形を崩し、最後に「詰み」というシュートを決めるみたいな。勝ち負けがはっきりしているし、「どんどん攻めるぞ!」と思えるところが魅力でした。
 実は、当時の私は完璧主義の負けず嫌いで、テレビゲームでもちょっと失敗してダメージを受けたらすぐリセットボタンを押してしまうような子でした。結果はもちろんプロセスさえも完璧じゃないとイヤだったんです。
  でも将棋は巻き戻しもリセットもできません。「待った」もきかないし、負けたら「負けました」と自分から言わないといけない。もう悔しくて耐えられない。逆にそのシンプルさと、やってもやっても極められない奥深さにどんどんハマっていきました。
 気が付いたら、あっという間に、放課後、地元の将棋道場にガチで通ったり、夏休みは毎日、千駄ヶ谷の将棋会館に通うような子になっちゃっていて。
 負けず嫌いにも「負けるからやりたくない」と「勝つまでやるぞ」の二通りあると思うのですが、私は、将棋は何だか勝てる気がしたんです。だから「納得できるまでやろう」と思ってやってきましたが、いまだ納得できないまま、ここまできてしまいました。

なれると思ってプロになり、プロになったら勝てると思った

 中学1年生で中村修師匠に弟子入りし、中学3年生で女流プロ入りしたわけですが、プロになるかどうかで迷ったり悩んだことはありませんでした。当時プロになるための女流育成会という機関があって、そこに入った時点である程度客観的に「なれるだろう」と思っていましたし、プロになったら「勝てるだろう」と思っていたんです。師匠もプロになれる実力とか意志とかがなければそもそも弟子として取ってくれません。
 プロのデビュー戦の相手は、史上初の女流棋士となられた蛸島彰子(たこじまあきこ)先生でした。蛸島先生は私にとっては大先輩に当たり戦歴も素晴らしい方。でも将棋は一般に若い方が有利と言われるゲームですし、周りからも期待され、自分でも勝てると思っていたのですが、負けました。実力不足でした。自分の力が思うように出せなかった。対局で結果を出せるかどうかも「実力」のうちなんですね。それが「プロの世界」だと気が付きました。そこからの道、「結果を出す」ということが本当に大変でしたね。
 女流王将のタイトルを最初に獲得したのは大学の2回生の時です。大学は、スポーツ推薦と同じように、将棋推薦枠で入学したので、在学中にタイトルを獲ることを目標にしていました。大学生活との両立は精神的にも体力的にも厳しかったけれど、最初の2年間は講義を受けて授業の単位を取りながら、授業以外の時間は将棋、将棋、将棋、全て将棋に費やしました。「ストイック」と自ら言えるようになりたいと、ひたすら将棋をやり込んでいました。タイトルは獲りましたが、納得のいく結果だったとは全然思っていません。

対局でのメンタルの整え方

 将棋は「運」では勝てません。頑張った分しか結果は出ない。でも、頑張ったからといってそれに見合う結果が出るとは限らない。だって対戦相手も必死に頑張っているわけです。そして必ずどちらかが負ける。例えば対戦相手より頑張っていたとしても100%実力を出し切れなければ負ける。そういうメンタルの勝負でもあります。
 対局が続く時は本当に精神力が要ります。肉体も精神も消耗するので、上手にコントロールしてコンディションを整えることが大事なのは、アスリートの方と全く同じです。
 コントロールできない時は精神のバランスが崩れている時だと思うのです。自分の失敗を引きずっている状態の時は客観性が欠けているので、ニュートラルな状態に戻すために、私はいろいろな人に会って話をして、「こんな発想があったのか」「この考えは面白いな」と自分の感性以外のものを吸収するようにしています。負けとの向き合い方を自分の中だけで突き詰めていくと、逃げ場がなくなり自分を痛めつけ過ぎてしまう。痛めつけることが強くなる条件なんだという変な思い込みにとらわれたりしてしまうのです。ですからこの「人と会って話す」時間はとても大切にしています。
 また、意外に思われるかもしれませんが、対局は座っているだけでも終わると痩せてしまうんですよ。やっぱりエネルギーをものすごく消費しているんですね。
 勝負を前にして、弱気になる瞬間も、もちろんあります。そういう時に自分を奮い立たせる力や、弱気を覆して向き合う力は、対局を重ねる中で少しずつ強くなってきたのではないかと思います。

将棋は女性に向いていないのか?

 将棋のプロ棋士になるにはまず「新進棋士奨励会」に入り、段位が三段に進むと「三段リーグ」を戦い、上位2名が四段になります。四段から正式な「プロ」となります。そして、この制度の中でプロになった女性の棋士はまだいません。女性のプロは、「女流棋士」の制度の中でプロになっています。将棋はやはり男性に向いたゲームなのか?と聞かれることもありますが、私は単に「時間」の問題だと思っています。歴史上、長い間ずっと「将棋は女性がやるものじゃない」と思われてきた。将棋はいわば盤上の戦争ですからね。「世界一平和な戦争のゲーム」と言われています。ですから女性で将棋を指す人はあまりいなかったし、まだ歴史が浅いんです。歴史が浅いということは将棋人口も少ない。
 女流棋士制度が発足したのも1974年。たった43年前ですから、将棋界での男女の差を埋めるにはまだまだ時間が足りないと思います。
 でも今の時代はもう男性も女性も関係ありません。これからはきっとバランスが取れていくのではないでしょうか。今まで周りを見ていると、女の子の方が他に楽しいと思えることの選択肢が多くてちょっとした理由でやめていく子は多かったですね。男の子の方が勝負に夢中になりやすいと思います。私は男の子っぽい子どもで、勝負にのめり込んでいったから、あまりそのへんの女の子の心理は分からないんですが…。
 男女の脳に差があるという説も聞きますけど、個人的には、あると思いたくないです。だって、女性は将棋に向いてない、という結論になったらイヤじゃないですか。
 もちろん、何か差はあると思いますよ。体の構造だって全然違うわけだから、男女差がないと言い切ることはできません。でも、差があろうがなかろうが、本当に将棋をやりたいかどうかですよね。たとえ男性の方が向いていると言われても、「あ、そうですか?」という感じです。「私は女ですけど、やりますよ将棋!」と。

激動する将棋界はどう生き残りを図れるのか

著者情報

女流棋士

香川愛生

かがわ まなお

1993年4月16日、東京都生まれ。棋士番号40。師匠は中村修九段。幼少期から将棋の才能を開花させ、2005年と06年(小学6年生)の女流アマ名人戦で2連覇を達成。アマチュア時代の活躍をきっかけにプロを志し、08年に15歳で女流棋士としてプロデビューを果たす。 12年から立命館大学へ進学、将棋と学業の両立をさせながら13年に初めてのタイトル挑戦で女流王将初戴冠。翌14年も防衛し連覇。同年、女流三段に昇段。17年立命館大学卒業。女流棋士トップクラスの実力を持ちながらも、将棋普及のためにテレビやイベントなどにも精力的に出演している。 将棋以外のゲームへの情熱も高く、趣味がきっかけで広がった人脈は現在の幅広い活躍につながっている。 愛称は「番長」。 タイトル保持・受賞歴は以下の通り。第35期女流王将(2013年)、第36期女流王将(2014年)、第41回女流最多対局賞(2013年度)、第42回女流棋士賞(2014年度)、京都府 みやこの文化輝き賞。

関連記事