imidas - 情報・知識&オピニオン

探究

カルチャー

そのジビエは安全か?

ブームを支える事情から問題点まで

壁谷英則(日本大学生物資源科学部獣医学科准教授)

 昨今の国を挙げてのジビエ推進は、もともとは野生鳥獣が増えすぎたせいで、自然植生や農作物に膨大な被害が出ていることに端を発しています。
 野生鳥獣の捕獲に対しては、国の政策も手伝って、捕獲自体に補助金や奨励金を出したり、食肉施設の充実に経済的な支援をしています。ある野生動物学者は、このような捕獲を促進させる政策が、かえって効果的な野生鳥獣の管理に悪影響を及ぼしている問題を指摘しています。野生鳥獣が増えすぎているといっても、地域的な偏りがあります。野生鳥獣が生息するすべての地域で被害が出ているわけではありません。ところが、実害がないにもかかわらず、狩猟しやすい場所だからということで、奨励金目当ての乱獲がなされていると思われるケースが出てきています。つまり、本当に減らさなければいけない個体群に対して有効なアプローチがなされず、「野生動物の適切な管理」に本末転倒の弊害をもたらすことが起こりはじめているのです。
 希少動植物などの自然生態系への影響、農林水産業、生活環境へのさまざまな被害が大変深刻な状況となっている現在、増えすぎた一部の野生鳥獣種の個体数を管理するという前提がジビエの推進につながっている点には、重要な意味があります。あくまで計画的に、必要な地域において、必要な数だけ捕獲し、それを有効に食用利用しようという考えには賛同します。一方で、動物たちの貴重な命を頂戴するときに、できるだけ無駄のないようにしようという発想も重要なことだと思います。
 筆者自身は、もともとは疫学研究の一環として、どのような動物にどのような病原体がどの程度あるのかということを明らかにするために研究を行っている立場であり、特段にジビエが好きというわけではありません。ただ、毒性が強いフグの肝を「覚悟のうえで口に入れる人」が存在してきたように、「危険性は承知していても、自己責任でジビエの生・半生肉を食べる人」もいるかもしれません。くれぐれも覚えておいていただきたいのは、ジビエには飼料管理、衛生管理、健康管理ができていない分の不確定なリスクが必ず伴うということです。ジビエの振興のために、安全性の確保を含めて懸命に努力をしている団体もあります。安易に生や半生のジビエを口にして重篤な食中毒にかかってしまうようなことがあれば、「ジビエ=危険」というイメージが広がり、そうした努力さえ台無しにしかねません。筆者はあくまで、適切な衛生管理のもとで生産されたジビエを適切に加熱調理して、おいしくいただくことが重要だと思っています。

著者情報

日本大学生物資源科学部獣医学科准教授

壁谷英則

かべや ひでのり

1970年生まれ。96年、北海道大学獣医学部卒業、99年、同大学院獣医学研究科修了。日本大学生物資源科学部獣医学科にて助手、専任講師を務め、2010年4月から現職。野生鳥獣における人獣共通感染症や、それらの食肉利用についての研究などを行う。

関連記事