知っておきたい「ペット由来感染症」
荒島康友(日本大学医学部助教・獣医師)
(構成・文/宮村美帆)
猫ひっかき病は、その名の通り、おもに猫にひっかかれたり咬まれたりすることで感染します。冗談のような名前ですが、英語でも「Cat Scratch Disease: CSD」と表記される正式な病名で、犬から感染しても猫ひっかき病と言います。病原体は猫の体にいるバルトネラ菌(Bartonella henselae)で、ノミが媒介するため、猫との接触がなくてもノミに刺されて感染することもあります。
傷が軽ければ治りの遅い発赤程度ですみますが、受傷後、数日から2週間くらいで傷口に丘疹や膿疱が見られ、ずきずきとした痛みとともにリンパ節が腫脹するのが特徴です。発熱、倦怠感などの全身症状が見られることもあります。リンパ節の腫脹は数週間から1年に及ぶこともあり、傷口は治癒しても菌が体内に残れば、10~17カ月後にリンパ節の腫脹が再発することもあります。よくじゃれつく子猫からの感染が多く、発症は18歳以下の若年層に多いことが知られています。
たかが犬や猫の咬み傷やひっかき傷と軽視せず、腫れや痛みがある場合は、病院で治療と検査を受けることをお勧めします。
原因不明の不定愁訴は「Q熱」を疑え!
Q熱は、特に医師に見過ごされがちな病気です。世界各地で発生していますが、長い間、原因不明とされていて、「Query fever(不明な熱)」と呼ばれていたのが病名の由来です。現在では、コクシエラ菌(Coxiella burnetii)が病原体であることが判明しています。犬や猫が感染してもほぼ無症状で、犬で約10%、飼い猫で15%、野良猫で45%がすでにこの菌を保有していると言われています。
Q熱はコクシエラ菌を吸い込むことで感染します。症状は急性型と慢性型があり、急性型では10~30日の潜伏期間の後に、発熱や頭痛などインフルエンザのような症状が現れ、時に肺炎や肝炎などを伴うこともあります。慢性型では急性期の症状の後に長引く微熱、全身の倦怠感、関節痛、筋肉痛などの不定愁訴が見られます。
症状だけでは診断が難しいため、患者の多くはドクターショッピングを繰り返しています。11歳男児の症例では、微熱やだるさで学校を休みがちになり、いくつかの病院を受診しても原因が見つからなかったので、怠けてずる休みをしているのではないかと疑われていました。けれども、ある病院でQ熱の抗体が検出され、症状が出る直前に子猫を飼い始めたことが判明。子猫と他の家族の検査を行ったところ、全員、抗体が陽性で、男児以外は症状を伴わない不顕性感染でした。治療を行ったことで男児の体調も回復しました。
また、40代男性は長引く倦怠感で10以上の病院を受診。自律神経失調や更年期障害と診断されたものの症状はまったく改善せず、心療内科でうつ病と診断されて薬を飲むと、かえって症状が悪化しました。そんなとき、私があるテレビ番組でパスツレラ症の話をしていたのを見たご本人から、どうしても調べてほしいと連絡が来ました。私も半信半疑でいろいろ検査をしてみるとQ熱であることがわかり、適切な治療が行われたことでずっと苦しんでいた症状から解放されました。
Q熱を確定するには特殊な検査が必要になりますが、診断が下れば抗生物質で治療可能です。私たちの研究チームが診断不明の不定愁訴を抱える52人の患者の血液からコクシエラ遺伝子の検出を行ったところ、17人から検出され、そのうち16人がペットを飼っていました(犬6人、猫7人、その他3人)。現在、日本には不定愁訴を訴える慢性疲労症候群予備軍は300万人いるとも言われており、今後、診断の際にはQ熱の可能性もぜひ視野に入れるべきです。
インフルエンザと間違われやすい「オウム病」
鳥から感染するオウム病は、オウム病クラミジア(Chlamydia psittaci)という細菌によって起こる病気です。名前の通り、インコやオウムなどで保菌率が高く、ドバトなどの野鳥が感染源になることもあるため、鳥を飼っていなくても感染することがあります。2002年1月には松江市にある花と鳥をテーマとしたレジャー施設で、従業員や来園者が集団感染した事例が報告されています。
感染した鳥の糞や鼻汁に含まれる菌を吸い込むことで人に感染します。通常、感染から4~15日で38℃以上の発熱、咳、痰などの症状が見られ、40代以上では呼吸不全を示して劇症型になることもあります。症状がインフルエンザに似ているので間違われやすく、全国で年間約300~3000人の発症が推定されています。数年に1例程度の死亡が報告され、17年には妊婦の死亡が2例報告されました。
鳥が感染しても無症状な場合もありますが、元気や食欲がなくなる、羽毛が逆立つ、やせる、鼻水、下痢などの症状が現れて死ぬこともあります。ペットの鳥が死んだ後、人にインフルエンザのような症状が出たときには、その旨を必ず医師に伝えてください。
「知るワクチン」で予防。感染を防ぐ15カ条
ここまで私はあえて感染症のリスクについて述べてきたので、不安に感じた方もいるかもしれません。けれども、リスクがあることを知ったうえで衛生管理を適切に行ってペットと正しくつき合えば、これらの感染症の多くは予防できるので、やみくもに恐れる必要はありません。ペット由来感染症の中で、現在、ワクチンで予防できるのは狂犬病とレプトスピラ症しかありませんが、何をすると感染し、何をしなければ安全なのかを理解してそれを実践することが一番の予防策=ワクチンとなります。私はこれを「知るワクチン」と呼んでいます。
ペットからの感染を防ぐには感染経路を断つことが重要です。予防のための15カ条を紹介しますので、ぜひ実践してください。

この15カ条を提示すると、「一緒に寝るのはどうしてもだめですか?」という質問をよく受けます。寝ている間に犬や猫に顔を舐められたり、病原体を吸い込んだりして、経口感染や飛沫感染の危険性がある以上、やはり避けるべきです。けれども、私も犬や猫と暮らす飼い主の一人でもあり、ペットと一緒に眠る幸せは理解できます。どうしても一緒に寝たいという人は、口を舐められないようにせめて就寝時にマスクを着用するなどの対策を講じてください。
また、原因不明の体調不良や不定愁訴があるときには、ペットを飼っていること、動物との接触があったことを医師に伝えてください。過去1年間のペットとの接触歴・状況、今までの経過を箇条書きにまとめ、コピーを渡すのもよいでしょう。
ペット由来感染症で死亡例が報告されれば、「ペットは危険」と大きな騒動になりがちです。大切なペットを感染源にしないためにも、「知るワクチン」を活用し、感染予防を気にかけたつき合いをして、ペットとのよりよい生活を楽しんでください。
著者情報
日本大学医学部助教・獣医師
荒島康友
あらしま やすとも
日本大学医学部助教(病態病理学系臨床検査医学分野)。医学博士。獣医師。1954年生まれ。日本大学農獣医学部獣医学科卒。日本大学付属農獣医学部附属家畜病院勤務を経て現職。日本感染症学会「二木賞」。研究テーマは、人獣共通感染症(パスツレラ症、Q熱、ライム病、ブルセラ症など)。著書に『ペット溺愛が生む病気 ――しのびよる人畜共通感染症』(講談社ブルーバックス、2002年)、『動物由来感染症――ヒトと動物が健康に生活するための正しい知識』(共著、少年写真新聞社、2003年)他。