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連載

黄色い蝶に導かれて 2025年ガルシア=マルケスの土地を訪ねる旅 第3回 バランキージャ

野谷文昭( ラテンアメリカ文学研究者)

 この店で印象的だったのは、奥に海賊の宝箱のようなものが蓋を開けたまま置かれていたことだ。中が青白く光り輝いている。触るとひんやり冷たい。すぐにわかった。そう、『百年の孤独』で語られる、アウレリャノ少年を魅了した氷が入っていたのだ。子ども騙しのファンサービスではあるけれど、笑えると同時に店の遊び心を好ましく思った。

店内に置かれた青白く光る箱 撮影:篠田有史

 店内にはステージがあり、ステージの背後はアンリ・ルソー風の壁画になっている。テーブルには花やキャンドルではなく、さまざまな獣の被り物が置かれているのも印象的だった。これはバランキージャのカーニバルを連想させる仕掛けだ。ステージのピアノにも黄色い蝶の群れが飾られていた。こちらをその気にさせる演出が心憎い。それならば、と向こうのテーブルの客が飲んでいる、いかにもという黄色いカクテルを注文した。黄色のカクテルは甘く、予想どおり、ドライフルーツの蝶をあしらった飾りが付いていた。この地域のノリがだんだんわかってきた。味付けの濃い魚や肉、ソーセージ、それに必ず付いてくるパタコンつまり潰した青バナナの素揚げが山盛りの大皿と格闘していると、バンドの演奏が始まった。
 カルテットは、ピアノの他にギター、パーカッション、フルートという編成で、聞けばボーカルでフルートも吹く、ボテロの描く人物を思わせる恰幅の良い女性はキューバ人、男性たちは地元のコロンビア人だという。なるほど、演奏した曲の中に「ソン・デ・ラ・ローマ」があり、そのとき彼女は拍子木のようなクラーベを叩いていた。これはキューバのトリオ・マタモロス作の名曲で、ハバナに行ったときにはリクエストすれば、あちこちのレストラン、食堂でどのグループも喜んでこの曲を演奏してくれた。でもまさかバランキージャでも聞けるとは思っていなかったので、結構感激してしまった。

店内ステージでの演奏 撮影:篠田有史

 店の壁に掛かっている肖像画のガルシア=マルケスと目が合う。隣のテーブルで、バンドの演奏に合わせ、足でリズムを取っていた男性は、そのうち同伴の女性の手を取り踊り始めていた。身体を密着させる濃厚な大人の踊りだ。他のカップルも踊っている。足の動きが悪くなければ、僕も踊っていたかもしれない。こうして金曜の夜は更けていく。明日はいよいよアラカタカ行きだ。

著者情報

ラテンアメリカ文学研究者

野谷文昭

のやふみあき

1948年、神奈川県生まれ。バルガス=リョサ『ケルト人の夢』(岩波書店)翻訳で、2022年の第59回日本翻訳文化賞を受賞。主な訳書に、ガルシア=マルケス『予告された殺人の記録』(新潮文庫)『ガルシア=マルケス中短篇傑作選』(河出文庫)、マヌエル・プイグ『蜘蛛女のキス』(集英社文庫)、ホルヘ・ルイス・ボルヘス『七つの夜』(岩波文庫)など多数。著書に『ラテンにキスせよ』(自由國民社)、『越境するラテンアメリカ』(PARCO出版局)、『マジカル・ラテン・ミステリー・ツアー』(五柳書院)などがある。

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